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257.迫られる決断

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 こうして義昭との付き合いが始まった。義昭は美羽に対していつも気遣ってくれ、こちらが辟易するほどに優しい。崇拝に似た気持ちすら、感じることもあった。

 穏やかで心安らぐ義昭との時間。彼と恋人として付き合うということは、体の関係を求められるようになるのではと恐れていた美羽だったが、体どころかキスさえもしない清い関係が続いていた。美羽の義昭への好意は、以前に比べて増した。

 だが、美羽の中にある類への想いは、義昭と付き合っていても決して消えることはなかった。

 義昭と付き合ったことを感じ取った類が、あるいは迎えにきてくれるのではないかと期待した美羽だったが、類は一向に迎えに来ることなく、彼の存在を感じることも出来ないままだった。

 類……もう、私のことなんて忘れてしまったの?
 私が他の人と付き合っても……結婚してしまってもいいの!?

 類……お願い、答えてよ……

 そんな寂しい気持ちを埋めるように、美羽は義昭とのデートを重ねた。

 交際してから1ヶ月が経った。美羽は義昭とのデートを毎回母に報告し、電話越しに挨拶したことはあったものの、何かと理由をつけては直接会わせることを避けていた。

 母に会えば、必ず結婚の話を持ち出されることは明らかだ。美羽は、なんとか両親が福岡に引っ越すまでにやり過ごせないかと、伸ばし伸ばしにしていた。

 だが、華江がそんな美羽の思惑に気づかないはずがない。



「ちょっと美羽! あなた、いつ朝野さんを紹介するつもりなの? 会わせるつもりがないなら、結婚の意思がないとみなして、あなたを福岡に連れていくから!」



 そう脅され、美羽は『ついにこの時が来た……』と、覚悟を決めざるをえなかった。

 翌日、いつものようにカフェでの仕事を終えて、『憩い』で義昭と会った美羽は、母に言われたことを打ち明けた。

「義昭さん。実は、母が義昭さんを紹介して欲しいって言ってるんですが……」

 そう打診しながらも、義昭が母が納得するような理由をつけて断ってくれないかと願っていた。

 義昭がティーカップを置き、背筋を伸ばして美羽を見つめる。交際1ヶ月が経ち、さすがに以前のように目を逸らしたり、顔を真っ赤にすることはなくなっていた。

「僕も、美羽さんのご両親には正式にご挨拶をしなければと思っていたので、ちょうど良かったです」

 義昭の返事に、美羽はおそるおそる尋ねた。

「義昭さん、は……今でも私と結婚を前提にと考えてますか?」

 本当は義昭との結婚を望んでいないのに、自分がまるで彼と結婚してたまらないような言い方に嫌気が差す。

 義昭は一瞬目を丸くしてから、ずり落ちた眼鏡を引き上げた。

「はい! もちろんです!!」
「ありが、とう……」

 義昭の勢いに微笑みながら、美羽の胸が罪悪感で押し潰される。

 義昭さんとこのまま付き合っていてもいいのかな。義昭さんは私と結婚まで考えてくれてるのに、私はお母さんから逃れるため、類が迎えに来てくれるまでの手段として利用してしまっている。

 ごめんなさい、義昭さん……
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