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259.母の出した条件
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隼斗が去ると、華江はさっそく義昭に矢のような質問を浴びせかけた。
「美羽とはどんなきっかけで出会ったんです?」
「どうして、この子と結婚を前提に付き合おうと思ったのかしら?」
そんな、恋愛から恋人に至る経緯だけでなく、
「朝野さんはどちらの職場にお勤め?」
「年収は?」
「役職は係長ってことですけど、これから先出世の望みはあるんですの?」
「大学はどちら? 職場だけでなく、学歴も大切ですものねぇ」
「ところで、お父様は何をされていらっしゃるのかしら?」
といった、美羽が辟易するほどに失礼だと思われる質問もたくさんあった。せっかく隼斗が用意してくれた美味しそうなモンブランが目の前にあるというのに、すっかり食欲を奪われてしまった。
義昭が気分を害するのではと心配した美羽だったが、彼は穏やかな態度を保ちながらしっかりと答えていた。
出会った当初、顔を真っ赤にしてどもりながら目を逸らして話していた義昭とはまるで別人だ。そんな彼に、頼もしさを覚えた。
華江はひととおり義昭の経歴を聞き出した後、切り出した。
「朝野さんは、美羽と結婚を前提としてお付き合いしているとお聞きしましたけど、どこまで具体的な話は進んでいるんですか」
やはり、華江はどうしても美羽を結婚させたいらしい。
義昭が背筋を伸ばし、眼鏡を直す。
「はい。まだ交際してから間もないですが、僕には美羽さんしか結婚する人はいないと思っています。近いうちに、僕の両親にも紹介するつもりです」
華江がそれを聞き、皮肉な笑みを美羽に浮かべた。
「そう……それは良かったわ。私たち福岡に引っ越しする予定なんですけど、娘を置いていくのが気がかりでねぇ。一緒に連れていくつもりだったんですよ。
でも、朝野さんが美羽を妻に迎えてくれるというのなら、安心だわ」
いかにも娘思いの母親といった台詞に寒気がした。どんどん外堀が固められていくのを感じる。
「そうですか。それを聞いて、僕も嬉しく思います」
ほくほくした義昭に、華江はテーブルに両肘をついて身を乗り出した。その瞳に妖しい光が宿り、恐いぐらいの笑みを浮かべている。
「でもねぇ……もし美羽を欲しいのであれば、条件があります」
「条件……ですか?」
「えぇ」
及び腰になった義昭に、華江は笑みを深めた。
嫌な予感がして、美羽の心臓がドクドクッと波立つ。
「ひとつは、結婚式にかかる費用は全てそちら側の負担とすること。
ふたつめは、結婚式の場所ややり方の一切を私たちに任せること。
フフッ……この条件、あなたに呑めるかしら?」
今まで穏やかな表情の仮面を被っていた義昭も、さすがに顔を引き攣らせた。
「そ、それについては……即答は出来ませんので、あとでお返事させていただいてもよろしいですか」
「えぇ、いいわよ。
……ただし、この条件が呑めないってことであれば、美羽との結婚の話は破断にし、福岡に連れて行きますから」
「お母さんっ!!」
美羽の顔に絶望の色が浮かぶ。
やっぱりお母さんは、私を解放するつもりなんかないんだ。お母さんの脅しに焦って結婚相手を連れて来た私を面白がってただけ……
結局、私を福岡に連れていくつもりなんだ。
声を上げた美羽に、それまで黙って隣に座っていた拓斗が「美羽ちゃん」と制した。
「美羽ちゃんは、お母さんに感謝すべきなんだよ。本来なら先生の意向を伺って美羽ちゃんの結婚相手を選んでもらうところだったのに、結婚相手は自分で見つけるという美羽ちゃんの意思を、華江さんは尊重してくれたんだから」
それの、どこがおかしいっていうの……普通でしょ?
ふたりの方こそ、おかしいよ!
そう言いたい気持ちを、グッと堪えた。
もし反論しようものなら今すぐにでも福岡に連れて行かれ、軟禁生活を余儀なくされる。
今は、耐えるしかない。
義昭さんは、こんなうちの親のことをどう思っているんだろう。気味悪がって、逃げ出したくなってないかな……
美羽は義昭に申し訳なく思いつつ、一縷の望みさえも儚く消え去っていくのを感じていた。
「美羽とはどんなきっかけで出会ったんです?」
「どうして、この子と結婚を前提に付き合おうと思ったのかしら?」
そんな、恋愛から恋人に至る経緯だけでなく、
「朝野さんはどちらの職場にお勤め?」
「年収は?」
「役職は係長ってことですけど、これから先出世の望みはあるんですの?」
「大学はどちら? 職場だけでなく、学歴も大切ですものねぇ」
「ところで、お父様は何をされていらっしゃるのかしら?」
といった、美羽が辟易するほどに失礼だと思われる質問もたくさんあった。せっかく隼斗が用意してくれた美味しそうなモンブランが目の前にあるというのに、すっかり食欲を奪われてしまった。
義昭が気分を害するのではと心配した美羽だったが、彼は穏やかな態度を保ちながらしっかりと答えていた。
出会った当初、顔を真っ赤にしてどもりながら目を逸らして話していた義昭とはまるで別人だ。そんな彼に、頼もしさを覚えた。
華江はひととおり義昭の経歴を聞き出した後、切り出した。
「朝野さんは、美羽と結婚を前提としてお付き合いしているとお聞きしましたけど、どこまで具体的な話は進んでいるんですか」
やはり、華江はどうしても美羽を結婚させたいらしい。
義昭が背筋を伸ばし、眼鏡を直す。
「はい。まだ交際してから間もないですが、僕には美羽さんしか結婚する人はいないと思っています。近いうちに、僕の両親にも紹介するつもりです」
華江がそれを聞き、皮肉な笑みを美羽に浮かべた。
「そう……それは良かったわ。私たち福岡に引っ越しする予定なんですけど、娘を置いていくのが気がかりでねぇ。一緒に連れていくつもりだったんですよ。
でも、朝野さんが美羽を妻に迎えてくれるというのなら、安心だわ」
いかにも娘思いの母親といった台詞に寒気がした。どんどん外堀が固められていくのを感じる。
「そうですか。それを聞いて、僕も嬉しく思います」
ほくほくした義昭に、華江はテーブルに両肘をついて身を乗り出した。その瞳に妖しい光が宿り、恐いぐらいの笑みを浮かべている。
「でもねぇ……もし美羽を欲しいのであれば、条件があります」
「条件……ですか?」
「えぇ」
及び腰になった義昭に、華江は笑みを深めた。
嫌な予感がして、美羽の心臓がドクドクッと波立つ。
「ひとつは、結婚式にかかる費用は全てそちら側の負担とすること。
ふたつめは、結婚式の場所ややり方の一切を私たちに任せること。
フフッ……この条件、あなたに呑めるかしら?」
今まで穏やかな表情の仮面を被っていた義昭も、さすがに顔を引き攣らせた。
「そ、それについては……即答は出来ませんので、あとでお返事させていただいてもよろしいですか」
「えぇ、いいわよ。
……ただし、この条件が呑めないってことであれば、美羽との結婚の話は破断にし、福岡に連れて行きますから」
「お母さんっ!!」
美羽の顔に絶望の色が浮かぶ。
やっぱりお母さんは、私を解放するつもりなんかないんだ。お母さんの脅しに焦って結婚相手を連れて来た私を面白がってただけ……
結局、私を福岡に連れていくつもりなんだ。
声を上げた美羽に、それまで黙って隣に座っていた拓斗が「美羽ちゃん」と制した。
「美羽ちゃんは、お母さんに感謝すべきなんだよ。本来なら先生の意向を伺って美羽ちゃんの結婚相手を選んでもらうところだったのに、結婚相手は自分で見つけるという美羽ちゃんの意思を、華江さんは尊重してくれたんだから」
それの、どこがおかしいっていうの……普通でしょ?
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そう言いたい気持ちを、グッと堪えた。
もし反論しようものなら今すぐにでも福岡に連れて行かれ、軟禁生活を余儀なくされる。
今は、耐えるしかない。
義昭さんは、こんなうちの親のことをどう思っているんだろう。気味悪がって、逃げ出したくなってないかな……
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