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第十章 同じ空の下
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翌朝、朝ご飯を済ませた私たちは公園内を散策することにした。この楠本川渓流公園には、昨日男子たちが遊んでいた川のあった辺りにせせらぎの森があり、その反対側に野鳥の森、冒険の森、昆虫の森、あじさいの森、林業の森、町民の森と名付けられたエリアがあり、それぞれ道が繋がっていた。
地図を手に、勇気くんが指示をする。
「おぉし、じゃあキャンプサイトを左に出て冒険の森、昆虫の森、あじさいの森、上に上がって林業の森で、ぐるっと回って野鳥の森で戻ってくるがよ!」
「西郷どん、任せたがよ!」
「こっこは勇気にとって、庭みたいなもんやけ、安心ね」
女子全員で入念に日焼け止めと虫除けスプレーをしてから、出発した。蚊は見かけないけど、蝿やアブが結構いる。トレイルは整備されているので、歩きやすい。緑豊かな樹々に囲まれ、隙間から漏れる柔らかい太陽の光を感じ、爽やかな風を受けて歩いていると新鮮な空気が鼻腔から肺の奥にまで入り込み、清々しい。
ふと見ると、涼子の隣を少し間を空けて田中くんが歩いていて、昨日のことを聞いたせいか意識してしまう。やっぱりカップルと知ってしまうと、そういう目でどうしても見てしまうんだなぁと考えていると、後ろから海くんが追い越してきた。
「なんか、気になるものがあった?」
「えっ、あぁ……ううん」
慌てて答えていると、前から「ミヤマクワガタ、発見したがよー!!」と勇気くんの声が響いた。
「小学生のガキみたいだよな」
クスッと笑った瞳が私を捉えて、ドクンと心臓が跳ねる。
「うん、そうだね……」
うまく笑えたか分からないけど、笑顔で返した。
昆虫の森を抜け、池を渡り、樹齢500年の木を見上げながらあじさいの森を抜け、たくさんの樹々が林立する林業の森を歩く。最初は足取り軽く、はしゃぎながら歩いてたけど、疲れが出てくるにつれ、みんな無口になっていた。
すると、前を歩いていた郁美が歌い出した。
『うーんだもーこら いーけなもんな♪』
みんながそれに続く。
『あーたいげんどん ちゃーわんなんだ
ひにひにさんどもあるもんせーば きれいなもんごわさー
ちゃわんにつーいた むしじゃろかい めごなどけあるく むしじゃろかい
まこてげんねこっじゃ わっはっはー まこてげんねこっじゃ わっはっはー♪』
歌い終わると、みんなが立ち止まり、私を見つめる。
「美和子ぉ、あんたぁ『茶碗蒸しの歌』、歌っとったがよね?」
「聞こえたがよー!!」
「おぉ、俺も聞こえたが!!」
みんなに指摘され、カーッと一気に顔が熱くなる。
「……文化祭の練習の時にみんながこの歌歌ってるの聞いてから、耳に残って気になって。それから何度も繰り返し聞いてたら、すっかりリズムも歌詞も覚えてたの……」
郁美が前から抱きつき、由美子と真紀に両腕を絡められ、背中を涼子にポンと軽く叩かれる。
『美和子ぉも、立派な鹿児島《かごんま》人ね!!』
それからジトーッとした視線が海くんに向けられる。
「変わらんはぁ……」
「お、俺は歌わない」
少しタジタジしながらも、あくまで海くんは歌うことを拒否した。
地図を手に、勇気くんが指示をする。
「おぉし、じゃあキャンプサイトを左に出て冒険の森、昆虫の森、あじさいの森、上に上がって林業の森で、ぐるっと回って野鳥の森で戻ってくるがよ!」
「西郷どん、任せたがよ!」
「こっこは勇気にとって、庭みたいなもんやけ、安心ね」
女子全員で入念に日焼け止めと虫除けスプレーをしてから、出発した。蚊は見かけないけど、蝿やアブが結構いる。トレイルは整備されているので、歩きやすい。緑豊かな樹々に囲まれ、隙間から漏れる柔らかい太陽の光を感じ、爽やかな風を受けて歩いていると新鮮な空気が鼻腔から肺の奥にまで入り込み、清々しい。
ふと見ると、涼子の隣を少し間を空けて田中くんが歩いていて、昨日のことを聞いたせいか意識してしまう。やっぱりカップルと知ってしまうと、そういう目でどうしても見てしまうんだなぁと考えていると、後ろから海くんが追い越してきた。
「なんか、気になるものがあった?」
「えっ、あぁ……ううん」
慌てて答えていると、前から「ミヤマクワガタ、発見したがよー!!」と勇気くんの声が響いた。
「小学生のガキみたいだよな」
クスッと笑った瞳が私を捉えて、ドクンと心臓が跳ねる。
「うん、そうだね……」
うまく笑えたか分からないけど、笑顔で返した。
昆虫の森を抜け、池を渡り、樹齢500年の木を見上げながらあじさいの森を抜け、たくさんの樹々が林立する林業の森を歩く。最初は足取り軽く、はしゃぎながら歩いてたけど、疲れが出てくるにつれ、みんな無口になっていた。
すると、前を歩いていた郁美が歌い出した。
『うーんだもーこら いーけなもんな♪』
みんながそれに続く。
『あーたいげんどん ちゃーわんなんだ
ひにひにさんどもあるもんせーば きれいなもんごわさー
ちゃわんにつーいた むしじゃろかい めごなどけあるく むしじゃろかい
まこてげんねこっじゃ わっはっはー まこてげんねこっじゃ わっはっはー♪』
歌い終わると、みんなが立ち止まり、私を見つめる。
「美和子ぉ、あんたぁ『茶碗蒸しの歌』、歌っとったがよね?」
「聞こえたがよー!!」
「おぉ、俺も聞こえたが!!」
みんなに指摘され、カーッと一気に顔が熱くなる。
「……文化祭の練習の時にみんながこの歌歌ってるの聞いてから、耳に残って気になって。それから何度も繰り返し聞いてたら、すっかりリズムも歌詞も覚えてたの……」
郁美が前から抱きつき、由美子と真紀に両腕を絡められ、背中を涼子にポンと軽く叩かれる。
『美和子ぉも、立派な鹿児島《かごんま》人ね!!』
それからジトーッとした視線が海くんに向けられる。
「変わらんはぁ……」
「お、俺は歌わない」
少しタジタジしながらも、あくまで海くんは歌うことを拒否した。
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