49 / 72
第九章 異空間へのトリップ
1
しおりを挟む
からりと晴れ上がった青空の下、おばあちゃんの家の前に1台のワンボックスカーが停まった。おばあちゃんに手を振られて、運転席から勇気くんのお母さんが出てきた。
「こん前はおいもよがっで温泉さぁ連れでっでくれで、あいがとさげもした」
「いえいえ、私もうちのおばあちゃん連れてくついでだったし、美和子ちゃんにも湯之尾温泉連れてってあげたかったから、良かったがよ」
「今日はぁ、運転いわっぜしんどいけど、頼んもす」
「心配せんでええがよ。うちの勇気ぃと比べたら、美和子ちゃんなんて大人しいもんやけぇ、楽ね」
「おばさん、すみません。どうぞよろしくお願いします」
「はいはい、じゃ乗って」
おばさんに急かされてドアを開けてスライドすると、助手席には勇気くんが、真ん中の席には郁美が乗っていた。
「美和子ぉ、おはよー! 昨日は大雨だったけぇ、どうなるか思ったけど、晴れて良かったー!! 『チェストー!ズ』のみんなでキャンプなんて、楽しみね!」
「ほんと、楽しみ!」
郁美の隣に座ると荷物を下に下ろし、二人で微笑み合う。
「勇気くんもおはよう」
「ふぁぁ、おはよう」
勇気くんは大きなあくびをすると助手席の窓を開け、ずっとおばあちゃんと話し込んでるおばさんに向かって叫んだ。
「母ちゃーん、はよ行かんと! いつまでも喋っとると昼になるがよ」
「はいはい、分かっとるね! じゃあ、おばあちゃん、またねー」
その声を聞き、窓を開けておばあちゃんに手を振った。
「おばあちゃん、いってきまーす!」
「美和子ちゃん、楽しんでねぇ」
車は伊佐高校の方に向かって走っていた。
「これから、海ぃ拾っていくがよ」
勇気くんの言葉に頷いた。
団地の下には既に海くんが立っていた。スライドドアが開くと、『おはよう』と声を掛け合う。海くんは、後ろの席に1人で座った。
「そいじゃ、出発ー!」
「チェストー!ズ」のメンバーとは楠本川渓流自然公園で午後3時に集合することになってるんだけど、私たちはその前に伊佐の観光名所を回る予定だ。
「これから行く曽木の滝は、川内川《せんだいがわ》の上流にあって『東洋のナイアガラ』ぁ言われてるとこよ」
「へぇ。じゃあ曽木の滝っていさドラゴンカップの会場に近いの?」
運転席から、おばさんの声が飛んできた。
「いやいやー、あっこからは車で20分ぐらいかかるだがよ」
そっか、結構遠いんだ……
車はいつの間にか『ふぁみり庵はいから亭』の前を過ぎていた。そこから国道267号に入る。川内川を越えると、まっすぐに開けた豪快な道が続く。
「この道は、こがねロード呼ばれてるがよ」
夏休みにも関わらず、あまり車の量がなく快適に進んで行く。
車窓を眺めていると、大きな案内板が見えてきた。丸太を何本も並べて作った流線型の大きな看板で、『東洋のナイアガラ 曽木の滝公園 2.4Km』とある。いよいよ近づいてきたんだと思うと、胸が高鳴った。
車が広い駐車場へと入っていく。混んでいたらどうしようかと心配だったけど、平日のせいか、まばらだった。勇気くんのお母さんが、『もみじ祭り』の際には、ここにおさまりきらないぐらいの車で溢れかえるのだと話してくれた。そんなことを聞いていると、紅葉の時期にも来たくなる。駐車場の近くにはお土産屋さんとお食事処が三軒並んで建っていて、いずれも鯉料理が名物なのだそうだ。鯉って、どんな味がするんだろう……
綺麗に整備された公園の中を通って滝へと向かっていると、途中になだらかな階段が続く展望台があった。展望台に上ると、そこから曽木の滝が一望できた。広いスペースにベンチも置かれていて、そこからゆっくり座って景色を眺めることができるようになっているのだけど、私たちは手摺まで歩いて行き、そこから滝を眺めた。
持ってきたパンフレットを確認すると、幅210m、高さ12mとある。カナダのトロントからナイアガラの滝は車で1時間半ほどの距離にあるため、本物のナイアガラの滝を見たことがある。その時には幅も高さも桁違いで、水飛沫が遠くに設置されている柵までかかるほどの大迫力に圧倒された。それに対し、曽木の滝はひとつの滝というより小さな滝が幾つも横に連なっているような印象で、確かに幅や高さではナイアガラの滝に劣るかもしれない。けれど、岩がところどころに剥き出しになっていて、四方八方から勢い良く水が流れていて、美しく幻想的な光景を魅せていた。
「昨日たくさん雨が降ったから、いつもより迫力があるね!」
「あぁ、そうだなぁ。美和子ぉ、ラッキーだなぁ」
もっと近くで見てみようということで、展望台を下り、その先へと向かった。
「うわーっっ!!」
思わず歓声を上げる。
「こん前はおいもよがっで温泉さぁ連れでっでくれで、あいがとさげもした」
「いえいえ、私もうちのおばあちゃん連れてくついでだったし、美和子ちゃんにも湯之尾温泉連れてってあげたかったから、良かったがよ」
「今日はぁ、運転いわっぜしんどいけど、頼んもす」
「心配せんでええがよ。うちの勇気ぃと比べたら、美和子ちゃんなんて大人しいもんやけぇ、楽ね」
「おばさん、すみません。どうぞよろしくお願いします」
「はいはい、じゃ乗って」
おばさんに急かされてドアを開けてスライドすると、助手席には勇気くんが、真ん中の席には郁美が乗っていた。
「美和子ぉ、おはよー! 昨日は大雨だったけぇ、どうなるか思ったけど、晴れて良かったー!! 『チェストー!ズ』のみんなでキャンプなんて、楽しみね!」
「ほんと、楽しみ!」
郁美の隣に座ると荷物を下に下ろし、二人で微笑み合う。
「勇気くんもおはよう」
「ふぁぁ、おはよう」
勇気くんは大きなあくびをすると助手席の窓を開け、ずっとおばあちゃんと話し込んでるおばさんに向かって叫んだ。
「母ちゃーん、はよ行かんと! いつまでも喋っとると昼になるがよ」
「はいはい、分かっとるね! じゃあ、おばあちゃん、またねー」
その声を聞き、窓を開けておばあちゃんに手を振った。
「おばあちゃん、いってきまーす!」
「美和子ちゃん、楽しんでねぇ」
車は伊佐高校の方に向かって走っていた。
「これから、海ぃ拾っていくがよ」
勇気くんの言葉に頷いた。
団地の下には既に海くんが立っていた。スライドドアが開くと、『おはよう』と声を掛け合う。海くんは、後ろの席に1人で座った。
「そいじゃ、出発ー!」
「チェストー!ズ」のメンバーとは楠本川渓流自然公園で午後3時に集合することになってるんだけど、私たちはその前に伊佐の観光名所を回る予定だ。
「これから行く曽木の滝は、川内川《せんだいがわ》の上流にあって『東洋のナイアガラ』ぁ言われてるとこよ」
「へぇ。じゃあ曽木の滝っていさドラゴンカップの会場に近いの?」
運転席から、おばさんの声が飛んできた。
「いやいやー、あっこからは車で20分ぐらいかかるだがよ」
そっか、結構遠いんだ……
車はいつの間にか『ふぁみり庵はいから亭』の前を過ぎていた。そこから国道267号に入る。川内川を越えると、まっすぐに開けた豪快な道が続く。
「この道は、こがねロード呼ばれてるがよ」
夏休みにも関わらず、あまり車の量がなく快適に進んで行く。
車窓を眺めていると、大きな案内板が見えてきた。丸太を何本も並べて作った流線型の大きな看板で、『東洋のナイアガラ 曽木の滝公園 2.4Km』とある。いよいよ近づいてきたんだと思うと、胸が高鳴った。
車が広い駐車場へと入っていく。混んでいたらどうしようかと心配だったけど、平日のせいか、まばらだった。勇気くんのお母さんが、『もみじ祭り』の際には、ここにおさまりきらないぐらいの車で溢れかえるのだと話してくれた。そんなことを聞いていると、紅葉の時期にも来たくなる。駐車場の近くにはお土産屋さんとお食事処が三軒並んで建っていて、いずれも鯉料理が名物なのだそうだ。鯉って、どんな味がするんだろう……
綺麗に整備された公園の中を通って滝へと向かっていると、途中になだらかな階段が続く展望台があった。展望台に上ると、そこから曽木の滝が一望できた。広いスペースにベンチも置かれていて、そこからゆっくり座って景色を眺めることができるようになっているのだけど、私たちは手摺まで歩いて行き、そこから滝を眺めた。
持ってきたパンフレットを確認すると、幅210m、高さ12mとある。カナダのトロントからナイアガラの滝は車で1時間半ほどの距離にあるため、本物のナイアガラの滝を見たことがある。その時には幅も高さも桁違いで、水飛沫が遠くに設置されている柵までかかるほどの大迫力に圧倒された。それに対し、曽木の滝はひとつの滝というより小さな滝が幾つも横に連なっているような印象で、確かに幅や高さではナイアガラの滝に劣るかもしれない。けれど、岩がところどころに剥き出しになっていて、四方八方から勢い良く水が流れていて、美しく幻想的な光景を魅せていた。
「昨日たくさん雨が降ったから、いつもより迫力があるね!」
「あぁ、そうだなぁ。美和子ぉ、ラッキーだなぁ」
もっと近くで見てみようということで、展望台を下り、その先へと向かった。
「うわーっっ!!」
思わず歓声を上げる。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。


優等生の裏の顔クラスの優等生がヤンデレオタク女子だった件
石原唯人
ライト文芸
「秘密にしてくれるならいい思い、させてあげるよ?」
隣の席の優等生・出宮紗英が“オタク女子”だと偶然知ってしまった岡田康平は、彼女に口封じをされる形で推し活に付き合うことになる。
紗英と過ごす秘密の放課後。初めは推し活に付き合うだけだったのに、気づけば二人は一緒に帰るようになり、休日も一緒に出掛けるようになっていた。
「ねえ、もっと凄いことしようよ」
そうして積み重ねた時間が徐々に紗英の裏側を知るきっかけとなり、不純な秘密を守るための関係が、いつしか淡く甘い恋へと発展する。
表と裏。二つのカオを持つ彼女との刺激的な秘密のラブコメディ。

クールな生徒会長のオンとオフが違いすぎるっ!?
ブレイブ
恋愛
政治家、資産家の子供だけが通える高校。上流高校がある。上流高校の一年生にして生徒会長。神童燐は普段は冷静に動き、正確な指示を出すが、家族と、恋人、新の前では

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる