チェストー! 伊佐高龍舟チーム!!

奏音 美都

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第九章 異空間へのトリップ

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 先ほど展望台から見ていたものとは比べものにならないぐらい、扇型のように広がった滝がパノラマとなって視界に迫ってくる。

 千畳岩の岩肌を削るように流れ落ちる豊富な水量に圧倒される。水飛沫が飛んできて肌を濡らし、マイナスイオンが全身に降り注がれているような気分だ。轟音が耳を揺らし、それでいて不快ではなく、心地いい。水によって削り出されたひとつひとつ違う岩の形に、流れていく水の変化に、視線が引き込まれ、吸い寄せられる。自然が創り出した造形美に、溜息が漏れる。

 立っているだけで身が清められていくようで、神聖な面持ちになった。

「凄いな……」

 ポツリと呟いた海くんの言葉に、無言で頷いた。

 今日はスマホではなく、ちゃんとした写真を撮ろうと思ってカメラを持ってきたんだけど、構えても幅が広くて全体を収めることが出来ない。さっき、展望所からも撮ったけど、あの時は水飛沫が上がる迫力とか臨場感とか表せていなかったし、この曽木の滝の魅力は写真では伝えきれない……実際にここに来て五感で感じることによって、伝わってくるんだと思った。それでも、そのほんの一部でもいいから伝えたくて、夢中でシャッターを切った。

 シャッターを切る私の横で、勇気くんのお母さんが説明してくれた。

「前はねぇ、滝の上に橋がかかっとったんだがよ。けど、これがあると景観がそこなわれるぅ言うて、撤去されてね。代わりに、下流に新曽木大橋が架けられたんよ」
「あん橋があった時はぁ、真上から滝が見下ろせてわっぜ迫力あったがよー」
「うんにゃ、ボロボロでぇ橋渡る時ぃ、あたしわっぜ怖かったがよー」

 勇気くんと郁美のやりとりを聞いてから下流を見てみると、そこには大きくて立派な橋が架かっていた。

「ねっねっ! ここに滝見台があるから行くね?」
「うん、行ってみたい」
「フフッ、ここのは特別やけー」

 郁美の言葉を疑問に思いつつ、目的の滝見台へと歩くと、橋の入口に看板が掲示されていた。そこには、発電所のキャラクターと思われる太陽の形をした頭にロボットのような体のキャラクターの絵が添えられている。

「ねぇ、このキャラクターは?」
「おぉ、伊佐市公認キャラクター第1号の『いーさーくん』がよ。ちなみに、女の子の『そぎーちゃん』もおるがよ!」

 イーサキングに続き、勇気くんが答えてくれた。キャラ好きというか、伊佐キャラオタクの勇気くんの意外な一面は、可愛くも思えた。それにしても、伊佐のキャラは濃いなぁ。

 水車を通り抜けた水は、地下13メートルの岩盤を掘った放水路トンネルを通じて、川内川に放流され、その様子を「イーサウォーク」から見ることができるとあった。どうやらこの展望台を通る道が「イーサウォーク」と呼ばれているらしい。
 木製の「イーサウォーク」の先は崖縁から川の上にせり出した3メートル四方の分厚い透明なアクリル板になっていて、下が覗き込めるようになっていた。

 ちょっと、怖いかも……

 ゴクリと生唾を飲み込む。

 トロントのCNタワーにも同じようなのがあるんだけど、足を乗せたものの、写真を撮ったらすぐにそこから退いていた。強固なアクリル板で決して落ちることはないと分かっていても、下が透明だと落ち着かないし、そこにいればいるほど不安感が募ってくる。

 先に郁美が乗り、私に手を伸ばした。

「美和子ぉ、はよんね!」

 郁美に手を伸ばし、恐る恐る足を伸ばし、今度は膝をついて下を覗いてみる。少し曇っていて、すりガラスのようになってる。勢い良く水が流れ、その先に看板の写真にあったのと同じものと思われる放水路トンネルが見えた。

「あぁ、あれか……」

 耳の近くで呟かれて思わずビクッとして振り返ると、すぐ近くに海くんの顔があった。

『ッッ……』

 互いに慌てて別方向を向くと、勇気くんが身を乗り出した。

「俺も見たいがよ!」

 郁美が慌てて手を振って叫んだ。

「勇気はだめぇ! あんたが乗ると、このアクリル板が落っこちるがよ!!」
「やぜらしかー。俺は乗るがよ!」
「あっ、大丈夫。私もう、見たから……」

 立ち上がってアクリル板から立ち退くと海くんも続いて出て、代わりに勇気くんがアクリル板に乗り、覗いた。

「おぉ、こげなもんがあったとは! 今まで知らんかったが!」
「勇気ぃは、全然説明読まんけー」

 ふたりで頭を突き合わせて眺めている様は微笑ましい。すると、さっきの海くんのどアップの顔が急に脳裏に蘇ってきて、顔が熱くなって心臓がトクトクと速まった。

 急にあんな風になったら、誰だってビックリするよね……うん。

「あたしも見せんね!」
「母ちゃん乗ったらぶっ壊れるが!」

 勇気くんのおばさんが乗り、慌てて勇気くんがアクリル板から退き、郁美がそれを見て大笑いした。
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