47 / 72
第八章 いさドラゴンカップ
7
しおりを挟む
艇から降りると、興奮を引きずったままみんなでハイタッチした。
「きゃぁぁぁぁ、『チェストー!ズ』やったがよー」
「といはだ、立ったが!!」
加わった由美子と真紀ともハイタッチを交わす。保護者の人たちも艇を降りたすぐ側で待っていてくれて、温かい拍手と歓声で迎えてくれた。
「よぉきばったなー!」
「優勝、おめでとう!!」
「おつかれさーん」
その中から、おばあちゃんが前に出てきた。
「美和子ちゃーん」
「おばあちゃん、レース見てくれた?」
すると、おばあちゃんは眉を下げて申し訳なさそうな表情を浮かべた。
「うんにゃ、どの舟が美和子ちゃんのぉか分がんねくて。みーんな教えてくれだけど、探しとるうちに終わってたがよ」
「そ、そっかぁ……松元先生がレースをビデオに撮っててくれるって言ってたから、後でそれ見よ?」
背の低いおばあちゃんを覗き込んでそう言うと、おばあちゃんは嬉しそうに目尻にたくさんシワを寄せて笑顔になった。
「まこち? うれしかー」
遠くから海くんのチーム招集の声がかかった。
「あ、行かなきゃ! じゃ、またね」
おばあちゃんに手を振って、そちらに向かう。
みんなは興奮状態でふわふわ浮き足立ってたけど、海くんは一人真面目な顔つきだった。
「今年は市制10周年ということで、特別に記念レースがあり、コミュニティミックスの部で優勝した俺たちチームも参加することになる。試合は12時40分からだ。また、20分前には集合することになるので、遅刻しないように!」
すっかり試合は終わった気でいたけど、まだレースはあるんだ。でもチームは完全にリラックスモードに包まれていた。
休憩に入ると、私たちは再び空腹を感じ、用意してくれた食べ物を摘んだ。
「ねぇ、会場にもフードブースあるけぇ、見に行くね?」
「わっぜ、気になっとったがよ」
「行きたーい!!」
女子全員で連れ立って、会場に設置されたフードブースへと向かった。早速郁美が手招きする。
「黒豚の串焼きぃぃ!! これ、一緒に食わんね!!」
「うん、美味しそう」
「あたしもこれ食べたい!」
『あたしも!!』
みんなで串焼きを食べていると、フードブースの方から声を掛けられた。
「これも一緒に食わんね」
差し出されたのは真っ白なネギで、味噌が添えられていた。
「伊佐の名産、金山ネギよ。生で食べても甘いから」
言われてネギを手に取り、味噌をつけて食べると、しゃきしゃきしてて甘みがジュワーッと口に広がる。味噌との相性も抜群だ。
「伊佐ってほんと、美味しいものいっぱいあっていいよねぇ。カナダなんて、何かイベントがあってもファーストフードとかジャンクフードが殆どだもん。羨ましいよー」
「美和子ぉ、伊佐に引っ越して来るね?」
郁美に笑顔で言われて、えっ……と、一瞬言葉に詰まる。そんなこと出来ないのは承知の上で言ってるのは分かってるけど、なぜか胸にグサッと刺さった。
どれだけ伊佐に馴染んで、伊佐を好きになっても、私はもうすぐここを離れなくちゃいけないんだ……
「引っ越しちゃおっかなー」
わだかまりを抱えたまま笑顔を繕った私に、郁美は笑顔で返してくれた。
「きゃぁぁぁぁ、『チェストー!ズ』やったがよー」
「といはだ、立ったが!!」
加わった由美子と真紀ともハイタッチを交わす。保護者の人たちも艇を降りたすぐ側で待っていてくれて、温かい拍手と歓声で迎えてくれた。
「よぉきばったなー!」
「優勝、おめでとう!!」
「おつかれさーん」
その中から、おばあちゃんが前に出てきた。
「美和子ちゃーん」
「おばあちゃん、レース見てくれた?」
すると、おばあちゃんは眉を下げて申し訳なさそうな表情を浮かべた。
「うんにゃ、どの舟が美和子ちゃんのぉか分がんねくて。みーんな教えてくれだけど、探しとるうちに終わってたがよ」
「そ、そっかぁ……松元先生がレースをビデオに撮っててくれるって言ってたから、後でそれ見よ?」
背の低いおばあちゃんを覗き込んでそう言うと、おばあちゃんは嬉しそうに目尻にたくさんシワを寄せて笑顔になった。
「まこち? うれしかー」
遠くから海くんのチーム招集の声がかかった。
「あ、行かなきゃ! じゃ、またね」
おばあちゃんに手を振って、そちらに向かう。
みんなは興奮状態でふわふわ浮き足立ってたけど、海くんは一人真面目な顔つきだった。
「今年は市制10周年ということで、特別に記念レースがあり、コミュニティミックスの部で優勝した俺たちチームも参加することになる。試合は12時40分からだ。また、20分前には集合することになるので、遅刻しないように!」
すっかり試合は終わった気でいたけど、まだレースはあるんだ。でもチームは完全にリラックスモードに包まれていた。
休憩に入ると、私たちは再び空腹を感じ、用意してくれた食べ物を摘んだ。
「ねぇ、会場にもフードブースあるけぇ、見に行くね?」
「わっぜ、気になっとったがよ」
「行きたーい!!」
女子全員で連れ立って、会場に設置されたフードブースへと向かった。早速郁美が手招きする。
「黒豚の串焼きぃぃ!! これ、一緒に食わんね!!」
「うん、美味しそう」
「あたしもこれ食べたい!」
『あたしも!!』
みんなで串焼きを食べていると、フードブースの方から声を掛けられた。
「これも一緒に食わんね」
差し出されたのは真っ白なネギで、味噌が添えられていた。
「伊佐の名産、金山ネギよ。生で食べても甘いから」
言われてネギを手に取り、味噌をつけて食べると、しゃきしゃきしてて甘みがジュワーッと口に広がる。味噌との相性も抜群だ。
「伊佐ってほんと、美味しいものいっぱいあっていいよねぇ。カナダなんて、何かイベントがあってもファーストフードとかジャンクフードが殆どだもん。羨ましいよー」
「美和子ぉ、伊佐に引っ越して来るね?」
郁美に笑顔で言われて、えっ……と、一瞬言葉に詰まる。そんなこと出来ないのは承知の上で言ってるのは分かってるけど、なぜか胸にグサッと刺さった。
どれだけ伊佐に馴染んで、伊佐を好きになっても、私はもうすぐここを離れなくちゃいけないんだ……
「引っ越しちゃおっかなー」
わだかまりを抱えたまま笑顔を繕った私に、郁美は笑顔で返してくれた。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

優等生の裏の顔クラスの優等生がヤンデレオタク女子だった件
石原唯人
ライト文芸
「秘密にしてくれるならいい思い、させてあげるよ?」
隣の席の優等生・出宮紗英が“オタク女子”だと偶然知ってしまった岡田康平は、彼女に口封じをされる形で推し活に付き合うことになる。
紗英と過ごす秘密の放課後。初めは推し活に付き合うだけだったのに、気づけば二人は一緒に帰るようになり、休日も一緒に出掛けるようになっていた。
「ねえ、もっと凄いことしようよ」
そうして積み重ねた時間が徐々に紗英の裏側を知るきっかけとなり、不純な秘密を守るための関係が、いつしか淡く甘い恋へと発展する。
表と裏。二つのカオを持つ彼女との刺激的な秘密のラブコメディ。

クールな生徒会長のオンとオフが違いすぎるっ!?
ブレイブ
恋愛
政治家、資産家の子供だけが通える高校。上流高校がある。上流高校の一年生にして生徒会長。神童燐は普段は冷静に動き、正確な指示を出すが、家族と、恋人、新の前では

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる