チェストー! 伊佐高龍舟チーム!!

奏音 美都

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第八章 いさドラゴンカップ

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「レディー」
「伊佐高龍舟、行くよー!!」
『おぉーーーっっ!!』

 高々と上がる声。

『Go!』

 それぞれのパドルに一本の長い棒が繋がってるみたいに、美しい弧を揃って描きながらパドルが水面に触れた。深く力強い一枚目。水しぶきが太陽に反射してキラキラする。

 強く握ったバチで太鼓を打ち鳴らす。

『いーーち、にーー、さーーん』

 勇気くんの声が、郁美の声が、みんなの声が聞こえて来る。それに負けないように太鼓をより強く叩き、より大きな声を張り上げる。

 これなら、もっとピッチを上げられる。

『いーち、にー、いーち、にー』

 ぐんぐん艇のスピードが上がっていく。乱れた横髪を直す余裕などなく、お腹の底から声を絞り上げる。予選で負けた予選1位チームの龍尾を捉えた。

 絶対、今度は逃《の》がさない。

 目の前の郁美の息が少し上がり始めたのを感じたけど、まだ腕は緩んでない。

『いちっ! いちっ! いちっ!』

 途中の声が掠れた。でもみんなの掛け声が、支えてくれている。

「チェストーー!!」

 勇気くんがグイッと腕に力を込め、パドルを漕ぐ。

『チェストォォーー!!』

 後半で体力が落ちてるはずなのに、艇のスピードが落ちていないどころかラストスパートをかけてスピードが上がってる。

 隣のチームの舵取りが、漕手が遠ざかっていく。鼓手が横に並んだ時、一瞬目が合って睨まれた。

 負けない……

「ラスト行くよー!!」
「っしゃー!!」
『おぉーっっ!!』

 みんなの頑張りに胸が熱くなり、潰れそうになりながら、その想いに負けないように太鼓を叩く。隣のチームと平走状態が続く。相手も必死だ。

『いちっ! にっ! さんっ!』

 きばれっ、きばれっ……みんな、どうか最後まで力を出し切って!!

 ゴールを切った。

 けれど、私にはどちらの艇が早かったのか分からなかった。放送席でも確認をしているらしく、結果が流れない。

 どうか……どうか……お願い。
 
 バチを握ったまま両手を合わせ、俯いて目を閉じ、必死に祈る。



「コミュニティミックスの部、決勝戦1位は……『チェストー! 伊佐高龍舟チーム!!』……」



「うぉぉぉぉぉ!!」
「やったがよーーっっ!!」
「っしゃあ!!」
「チェストー!!」
「伊佐高龍舟、サイコーッ!!」

 メンバーそれぞれの口から歓喜の声が上がる。視線を川の外へと向けると、大きな横断幕を持った由美子と真紀がピョンピョン飛び跳ね、歓声を上げてるのが分かった。

 でも、私の声は掠れて出てこなかった。喉も瞳の奥も鼻腔も、どこもかしこも熱くて震える。バチを強く握り締めていた手が未だ太鼓を叩く余韻でジンジンしてて、それが心臓から全身へと伝わっていく。

「み、んな……あり、がと……ウッ、ウッ……」

 ようやく声を絞り出してそう言うと、温かい笑顔が一斉に向けられた。

「美和子も、ありがとね」
「わっぜ、きばったなー!」
「鼓手、おつかれね」
「俺たちを引っ張ってくれて、ありがとな」

 労いの言葉を口々に掛けられ、涙が止まらない。

 ほん、とに……ありがとう。こんな素晴らしいメンバーに出会えて、いいチームに恵まれて。こんな夏、きっともう二度とない……



 ーー私の帰国日は、あと二週間に迫っていた。


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