チェストー! 伊佐高龍舟チーム!!

奏音 美都

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第八章 いさドラゴンカップ

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 全ての予選が終わってからでないと、後半の組み合わせは発表されない。それまでの間、ジレジレとした気持ちで、テントにいても落ち着かない。

「これから招待チームのレースがやるから、見に行こう」

 海くんに声をかけられ、私たちはレースが良く見える場所まで移動した。郁美の話では、例年のいさドラゴンカップの部門は小学生の部、中学生の部、レディースの部、そしてオープン部門に分かれていて、招待チームの部があるのは郁美が知る限り今年が初めてなのだそうだ。市制10周年だから、強豪チームを招いて盛り上げてるのだろうか。

 私たちが着いたタイミングで、ちょうど全艇がレース開始位置に揃ったところだった。

「パドルを上げー」

 スターターの声が上がる。

「レディー……ゴー!」

 一斉に全艇がスタートを切る。

 は、速いっっ……

 ぐんぐん艇が進んでいく。力強く鳴り響く太鼓の音。ここにいても聞こえて来る掛け声。動きの揃った美しいパドリング。ぶれることなくゴールに向かって直線に進んで行く舵捌き。レベルの差を見せつけられた気がした。

 でも……きっと、ここから学べる何かがあるはず……

 私たちは真剣にレースに見入った。

 全ての予選レースが終了し、後半の組み合わせが決まったと放送が入った。

 テントに戻ってきた海くんがメンバーに告げる。

「俺たちのタイムは1分30秒55……予選、2位だった」

 それを聞き、『わぁーっ!!』とメンバーと親たちから歓声が上がる。海くんの口元も心なしか緩んでいた。

「後半のレースは11時50分からだ。20分前になったらここに集合。それまでは、各自、体を休ませて次のレースに備えるように!」

 タイムが分かり、決勝戦へと進めたことで、みんなから緊張が抜けて笑顔になる。

「なんか急に腹減ってきたが」

 勇気くんの言葉に笑いが起こると、勇気くんのお母さんが顔を顰めた。

「あんたぁもぉ! まこち、げんなかよぉ」
「えーえー、お腹が空くのは元気な証拠がよ! いーっぱい食いもん用意してきたけ、食わんね!」

 タープテントの下には長テーブルが2つ置かれ、隙間なく食べ物や飲み物が置かれていた。おにぎりや唐揚げ、ポテトフライ、サラダと言った定番だけでなく、さつま揚げやガネ、煮物なんかも置かれ、卓上コンロには温かい味噌汁まで用意されていた。鹿児島の味噌汁は麦味噌を使っているので、他の地域のものよりも甘いのだと郁美のお母さんが説明してくれた。

「美和子ちゃん、これぇ食べてみて」

 おばさんがクーラーボックスから何か取り出して、私に見せた。ラップされたお皿の上には生肉《なまにく》が載っている。

「これ、なんのお肉か分かるが?」
「牛肉、ですか?」
「フフッ……桜肉ね」

 桜肉、と言われてもまだ分からなかった。

 困ったように眉を寄せる私の反応に満足したように、おばさんはもう一度フフッと笑った。

「こーれ、馬の肉。馬刺しよ。食べたことあんね?」
「い、いえ……ありません」

 すると、郁美のお母さんが嬉しそうに私に皿を渡し、小皿にチューブのニンニクと生姜を載せ、その上に醤油をかけると小口ネギを添えた。
 
「食べてみて!」

 う、馬の肉……かぁ。

 どうしても頭の中に馬が浮かんでしまい、躊躇う気持ちもあるけど、ここまでしてもらって断れない。すると、郁美が横から顔を覗かせた。

「あ、馬刺し持ってきたんね! これ、あたし大好物!!」
「い、頂きます……」

 決意して箸を手に取り、馬刺しを一切れ挟むとニンニク生姜醤油にネギを絡ませて食べる。

 え……すごくプリプリしてる。思ってた食感と違う。

 歯につく感じがなくて柔らかいのに、歯応えがほどよくある。生肉だから多少の臭みはあるものの、ニンニクと生姜を混ぜた醤油と一緒に食べてるから気にならないどころか、かえって旨味が増してる。

「美味しいっ!!」
「あぁーっ! わっぜ、うまかー!!」

 いつの間にか郁美も箸を手に取り、馬刺しを口に入れていた。

 うわー、こんなに馬刺しが美味しいと思わなかった。

「伊佐は熊本にも近いけ、馬刺しもよぉ食べるんよ」
「へぇ、そうなんですか」

 と言いつつも、熊本が馬刺しで有名というのも初めて知った。二枚目を食べようとしてたら、後ろから声が聞こえてビクッとした。

「鈴木さんと山下さん、試合の前に生物なまものはあまり食べない方がいいよ」
『は、はいぃ!!』

 二人して残念そうに箸を置いて顔を見合わせると、情けない顔に互いに笑い合った。郁美のお母さんがウィンクして「じゃぁ、これぁまた後でね」と言ってクーラーボックスに戻した。
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