チェストー! 伊佐高龍舟チーム!!

奏音 美都

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第五章 初の実践練習

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「ドラゴンボート、わっぜかっこええのぉ!」
「いやぁ、テンション上がっがよ!!」
「やーっと、川で練習出来るが!!」

 この日、私たちは初めてのドラゴンボートの実践練習のため、菱刈カヌー競技場に来ていた。郁美の話では、この菱刈カヌー競技場は川内《せんだい》川の上流に位置し、流れもほとんどなく、『九州のカヌー場』と呼ばれているらしい。夕方6時だけどまだ明るく、川は太陽の光を受けてキラキラと輝いていた。

 私の隣に立っていた監視役として来てくれた松元先生が、川内川を感慨深げに見つめて大きく息を吐き出した。

「今年んドラゴンカップ開催はもぉダメかぁ思っちょったが、開催できて良かったね」

 そういえば、前に郁美が4月の予定だったのが8月に変更になったって話してたっけ。

「どうして、大会が延期になったんですか?」

 私がそう聞くと松元先生は少し眉を寄せて唇をキュッと結んだ後、説明してくれた。

 4月19日、宮崎県と鹿児島の県境にある霧島連山・えびの高原(硫黄山)が250年ぶりに噴火した。その後、近くの川から環境基準値の約200倍のヒ素が検出されたことを受け、麓にある鹿児島県の伊佐市と湧水町では、農家が下流の川内川から取水する本年度の稲作を断念することを決めたそうだ。それからしばらくして、川内川で大量の魚が死んでいるのが発見され、その屍骸を皆で協力して回収したのだが、29日に予定していたドラゴンカップ開催は難しく、見送りになったとのことだった。

「鈴木さん、鹿児島の天気予報見たことあるけ?」
「え。あ、はい……」

 突然の質問に驚きつつも答えると、松元先生は大きく頷いた。

「鹿児島の天気予報には、常に降灰予報も流れる。桜島からは常に噴煙が巻き上がり、いつ噴火するかもしれん危険と隣り合わせだ。灰が降れば、洗濯もんも外に干せんし、車も灰だらけ、窓も開けられんくなる。周りから見たら過酷な環境だと思われるかもしれんが、おいたち鹿児島《かごんま》人は、桜島に脅威と同時に誇りを持ち、共存して暮らしとる。だけー、今回のことがあっても、落ち着いて対策に取り組めることが出来るがよ」
「そうなんですね……」

 きっと、伊佐の人たちはどうしてもドラゴンカップを開催したくて、そのために奔走して今回の大会にこぎつけたのだろう。そう思うと、この大会が市制10周年というだけでなく、とても特別なものに思えた。

「美和子ぉ、これから練習するがよー!」

 郁美がドラゴンボートの横に立ち、大きく手を振っていた。

「あ、ごめん。今行くー!」

 慌てて手を振り返すと、松元先生が笑顔を向けた。

「あんたぁすっかり、伊佐に馴染んだね」

 そんな様子は全然見せてなかったけど、松元先生は担任教師として私のことを心配してくれてたんだなと感じて、嬉しくなった。

「はい! すっかり伊佐高の生徒です!」

 そう答えてお辞儀すると、みんなの元へ駆け出した。
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