29 / 72
第五章 初の実践練習
4
しおりを挟む
今日が初日のボート練習日であり、メンバー全員揃っての貴重な練習日ともなるので、気合いが入る。
準備運動を終えて艇の船尾に乗り込むと、備え付けてある太鼓を脚でしっかりと挟み、上体を支えた。艇をまずはレース開始の位置まで漕がないといけないんだけど、それでもう躓いた。原則、艇は右側通行で旋回しないといけないのに、みんなの動きがバラバラでなかなかスムーズに進まない。艇が大きく揺さぶられ、思わず太鼓を両手で掴んだ。まだ、パドルをどう漕げば艇がどう動くのかという感覚が身についてない。下手したら、転覆する恐れもある。
「本田、中村は前の漕手の動きを見て、真似して! 勇気は一人力が入りすぎ!」
舵を操る海くんが、指示を出す。私もチームを引っ張る担い手である鼓手なのに、そこまで声を掛けることが出来ずにどうしても躊躇ってしまう。
ようやく艇がレース位置に着いた。本来ならスターターが声がけするんだけど、今日は監視役の松元先生が拡声器を使って声を掛けてくれることになった。いさドラゴンカップでは、「パドルを上げー」の掛け声で構えの姿勢を取り、「Ready……Go!」の合図で漕ぎ始める。この時漕手はパドルを水面上に上げて待たなくてはならない。大会によってルールが変わるので、ややこしい。
今まで陸上では何度も練習をしていたけど、水上では初めてなので、みんな緊張していた。
「パドルを上げー」
「みんな、構えてー!」
その合図で漕手がグッとパドルを持ち上げる。これだけでも、結構大変だ。
「レデー」
松元先生の酷い発音に吹きそうになるものの、なんとか堪えた。
「ゴォ!」
「Go!」
松元先生のタイミングと少しずれてしまった。理想は、スターターと同時にGoサインを出すことだ。船尾から海くんの「ゴー!」も聞こえてきた。
太鼓を叩きながら、声をかける。
「いーーーーち、にーーーー、さーーーーん」
艇が止まっている状態から動かすのは大変だ。最初はゆっくり大きく動かすように指示を出す。今までカウントは英語だったので、日本語での指示出しに違和感を感じて慣れない。さすがに勇気くんや郁美は身体を使って前から大きく長く、後ろまでしっかりと漕いでいるけど、他の6人は漕ぎが狭くて浅いので、まだ加速が十分つかない。
「全然加速ついてない! もっと深く大きく漕いで!!」
船尾の海くんと視界が合う。鼓手は後ろ向きに座るので、進行方向が見えない。そのため、ただ一人全体を見渡せる舵取りとのアイコンタクトが重要なのだ。
きっと、もっと加速をつけさせろって意味だよね……
パドラーに加速をつけさせる為、さっきよりもピッチを早める。
「いーーち、にーー、いーーち、にーー……」
リズムが揃っているパドラーの描く水紋は見惚れるほどに美しい。けれど、私たちのチームは余計なところに力が入り、バシャバシャと波音を立て、乱れた水紋が散っていた。
後半に入り、ピッチを変える。
「いちっ! いちっ! いちっ!」
みんな疲れが出てきたのか、顔が俯いてる。
「前見てー!」
カウントの合間に声を掛けると、勇気くんや郁美は顔を上げるものの、私の声が小さいのか、漕ぐのに夢中なのか、他のメンバーは下を向いたままだ。他の人のパドルの動きも見えていないのか、まだリズムが全然揃わない。舵を大きく漕ぐ海くんが視界に映る。
「ゴールまであと少しだ! 力を入れて焦げー!!」
大きな声が響き、それに続いて私も声を出す。太鼓を叩く手に力が入る。
「ラストーせーの! いちっ! にっ! さんっ! 合わせてー!!」
ようやくゴールを切り、漕手たちが肩を揺らす中、「ありがとう」と声を掛けた。ようやくみんなが顔を上げ、安心した笑顔を見せた。
準備運動を終えて艇の船尾に乗り込むと、備え付けてある太鼓を脚でしっかりと挟み、上体を支えた。艇をまずはレース開始の位置まで漕がないといけないんだけど、それでもう躓いた。原則、艇は右側通行で旋回しないといけないのに、みんなの動きがバラバラでなかなかスムーズに進まない。艇が大きく揺さぶられ、思わず太鼓を両手で掴んだ。まだ、パドルをどう漕げば艇がどう動くのかという感覚が身についてない。下手したら、転覆する恐れもある。
「本田、中村は前の漕手の動きを見て、真似して! 勇気は一人力が入りすぎ!」
舵を操る海くんが、指示を出す。私もチームを引っ張る担い手である鼓手なのに、そこまで声を掛けることが出来ずにどうしても躊躇ってしまう。
ようやく艇がレース位置に着いた。本来ならスターターが声がけするんだけど、今日は監視役の松元先生が拡声器を使って声を掛けてくれることになった。いさドラゴンカップでは、「パドルを上げー」の掛け声で構えの姿勢を取り、「Ready……Go!」の合図で漕ぎ始める。この時漕手はパドルを水面上に上げて待たなくてはならない。大会によってルールが変わるので、ややこしい。
今まで陸上では何度も練習をしていたけど、水上では初めてなので、みんな緊張していた。
「パドルを上げー」
「みんな、構えてー!」
その合図で漕手がグッとパドルを持ち上げる。これだけでも、結構大変だ。
「レデー」
松元先生の酷い発音に吹きそうになるものの、なんとか堪えた。
「ゴォ!」
「Go!」
松元先生のタイミングと少しずれてしまった。理想は、スターターと同時にGoサインを出すことだ。船尾から海くんの「ゴー!」も聞こえてきた。
太鼓を叩きながら、声をかける。
「いーーーーち、にーーーー、さーーーーん」
艇が止まっている状態から動かすのは大変だ。最初はゆっくり大きく動かすように指示を出す。今までカウントは英語だったので、日本語での指示出しに違和感を感じて慣れない。さすがに勇気くんや郁美は身体を使って前から大きく長く、後ろまでしっかりと漕いでいるけど、他の6人は漕ぎが狭くて浅いので、まだ加速が十分つかない。
「全然加速ついてない! もっと深く大きく漕いで!!」
船尾の海くんと視界が合う。鼓手は後ろ向きに座るので、進行方向が見えない。そのため、ただ一人全体を見渡せる舵取りとのアイコンタクトが重要なのだ。
きっと、もっと加速をつけさせろって意味だよね……
パドラーに加速をつけさせる為、さっきよりもピッチを早める。
「いーーち、にーー、いーーち、にーー……」
リズムが揃っているパドラーの描く水紋は見惚れるほどに美しい。けれど、私たちのチームは余計なところに力が入り、バシャバシャと波音を立て、乱れた水紋が散っていた。
後半に入り、ピッチを変える。
「いちっ! いちっ! いちっ!」
みんな疲れが出てきたのか、顔が俯いてる。
「前見てー!」
カウントの合間に声を掛けると、勇気くんや郁美は顔を上げるものの、私の声が小さいのか、漕ぐのに夢中なのか、他のメンバーは下を向いたままだ。他の人のパドルの動きも見えていないのか、まだリズムが全然揃わない。舵を大きく漕ぐ海くんが視界に映る。
「ゴールまであと少しだ! 力を入れて焦げー!!」
大きな声が響き、それに続いて私も声を出す。太鼓を叩く手に力が入る。
「ラストーせーの! いちっ! にっ! さんっ! 合わせてー!!」
ようやくゴールを切り、漕手たちが肩を揺らす中、「ありがとう」と声を掛けた。ようやくみんなが顔を上げ、安心した笑顔を見せた。
0
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる