8 / 72
第二章 ドラゴンボートチーム結成
4
しおりを挟む
8時を回って教室を追い出された後、参加申込書を記入する為、海くんの家に集まることになった。彼の家は、高校の隣に建っている市営高校西団地にある。すぐ近くだけど、高校の門が閉まってしまうので駐輪場に自転車を取りに行き、押しながらみんなで団地へと向かうことにした。
4棟あるうちの、高校に隣接した一番近い棟の3階奥が、海くん家だった。
「俺ん家、狭いから覚悟してて」
海くんがそう言いながらチャイムを鳴らすと、暫くしてお母さんが出てきた。目鼻立ちの整った綺麗な人で、海くんはお母さん似なんだなぁと思った。
「お帰り……あら、お友達?」
海くんのお母さんは心底驚いたような声を上げた後、嬉しそうに「狭いところだけど、どうぞ上がって」と笑顔で私たちを迎えてくれた。
『おじゃましまーす』
玄関から溢れ出しそうなくらい、私たちの靴が所狭しと並べられる。
「どうしよう……人数分のジュースあるかしら」
呟いたおばさんに、みんなはそれぞれのスクバからペットボトルを掲げた。
玄関の右手には浴室と洗面所、左手は台所とダイニングルームになっていて、その先には6畳ほどの和室が2部屋あった。
「こっちが、俺の部屋」
右手の部屋に通されたものの、人数が多すぎて入りきらない。そこで、隣の部屋の仕切りとなってる襖を開けて、ひとつの部屋にした。これでようやく、全員が座れる。海くんの部屋は勉強机と書棚があるだけの、すごくシンプルな部屋だった。ベッドは置かれていないので、布団を敷いて寝てるみたいだった。
「なぁ、チーム名どうすっが?」
落ち着いたところで早速、勇気くんが皆に問いかけた。
「ゴーゴーがらっぱ!」
「イーサキングと仲間たち!」
「伊佐のダムは沈んでも、僕たちの船は沈みましぇん!」
私にはどれもイミフな名前ばっかだけど、みんなには分かる地元ネタらしく、盛り上がったものの、全て却下された。
「ねぇ、せっかくクラスのみんなでチーム作ったんだから、高校の名前入れようよ。『伊佐高ドラゴンボートチーム』は?」
「うーん、インパクトが弱いがよ。もっとガツーンと!!」
勇気くんの私へのダメ出しに、今度は海くんが提案する。
「中国ではドラゴンボートって龍舟《りゅうしゅう》って書くんだ。だから、『伊佐高龍舟チーム』は?」
「チェストーー!!」
勇気くんの突然の雄叫びに、目を丸くする。
「Chest?」
そういえば、転入初日にも誰かそんなこと言ってたような……
Chestって箱? 胸? どんな意味!?
「チェストーゆうんは、自分を鼓舞するための掛け声とか気合の叫びでぇ、昔ぃ、薩摩の剣術『示現流』の試合ん時にぃ使っとったらしいがよ」
横から郁美が説明してくれる。
そうなんだ。
「だからぁ、『チェストー! 伊佐高龍舟チーム!!』は、どうが?」
言いながら、勇気くんは机に置かれたメモ用紙とペンを取り、力強く書き記した。メモ用紙を囲むようにして、みんなの頭が集まる。
誰も反論の声を上げる人はいなかった。
申込者はチームリーダーである海くんにした。彼が監督も兼任となるため、19日に行われる監督会議は海くんが出席する。この会議に出席しないと、練習をさせてもらうことができないのだ。その後、練習日がいさドラゴンカップのスタッフによって組まれ、どのチームにも公平な回数だけ練習の機会が与えられることになる。
29日は舵手講習会が開かれるし、今年は市制10周年記念大会ということで、参加者交流会まで予定されていて、イベント当日以外でも忙しそうだった。
「申込書の提出先は大口ふれあいセンターってあるけど、どこ? 市庁舎?」
「おま、図書館行ったことあるが? ふれセンは図書館の下だが。午後10時までオープンしとるけ、明日一緒に行ったる」
「おぅ、ありがと」
そこへ、海くんのお母さんがたくさんのおにぎりを載せた大皿を運んできてくれた。
「みんな遅くまで大変ね。良かったら、これ食べて」
『うわー、いただきまーす!!』
2時間前に食べてるけど、すっかり胃の中のものは消化され、お腹が空いていた。
「海ぃとこの母ちゃん、美人で優しくてえぇのー。俺の母ちゃんとえらい違いが!」
「西郷どんとこの母ちゃん、マジで怖いが!!」
「あぁ、小学生ん時ぁ、西郷どん家行くん、怖かったけー」
ひとしきり勇気くんのお母さん話で盛り上がった後、解散することになった。
4棟あるうちの、高校に隣接した一番近い棟の3階奥が、海くん家だった。
「俺ん家、狭いから覚悟してて」
海くんがそう言いながらチャイムを鳴らすと、暫くしてお母さんが出てきた。目鼻立ちの整った綺麗な人で、海くんはお母さん似なんだなぁと思った。
「お帰り……あら、お友達?」
海くんのお母さんは心底驚いたような声を上げた後、嬉しそうに「狭いところだけど、どうぞ上がって」と笑顔で私たちを迎えてくれた。
『おじゃましまーす』
玄関から溢れ出しそうなくらい、私たちの靴が所狭しと並べられる。
「どうしよう……人数分のジュースあるかしら」
呟いたおばさんに、みんなはそれぞれのスクバからペットボトルを掲げた。
玄関の右手には浴室と洗面所、左手は台所とダイニングルームになっていて、その先には6畳ほどの和室が2部屋あった。
「こっちが、俺の部屋」
右手の部屋に通されたものの、人数が多すぎて入りきらない。そこで、隣の部屋の仕切りとなってる襖を開けて、ひとつの部屋にした。これでようやく、全員が座れる。海くんの部屋は勉強机と書棚があるだけの、すごくシンプルな部屋だった。ベッドは置かれていないので、布団を敷いて寝てるみたいだった。
「なぁ、チーム名どうすっが?」
落ち着いたところで早速、勇気くんが皆に問いかけた。
「ゴーゴーがらっぱ!」
「イーサキングと仲間たち!」
「伊佐のダムは沈んでも、僕たちの船は沈みましぇん!」
私にはどれもイミフな名前ばっかだけど、みんなには分かる地元ネタらしく、盛り上がったものの、全て却下された。
「ねぇ、せっかくクラスのみんなでチーム作ったんだから、高校の名前入れようよ。『伊佐高ドラゴンボートチーム』は?」
「うーん、インパクトが弱いがよ。もっとガツーンと!!」
勇気くんの私へのダメ出しに、今度は海くんが提案する。
「中国ではドラゴンボートって龍舟《りゅうしゅう》って書くんだ。だから、『伊佐高龍舟チーム』は?」
「チェストーー!!」
勇気くんの突然の雄叫びに、目を丸くする。
「Chest?」
そういえば、転入初日にも誰かそんなこと言ってたような……
Chestって箱? 胸? どんな意味!?
「チェストーゆうんは、自分を鼓舞するための掛け声とか気合の叫びでぇ、昔ぃ、薩摩の剣術『示現流』の試合ん時にぃ使っとったらしいがよ」
横から郁美が説明してくれる。
そうなんだ。
「だからぁ、『チェストー! 伊佐高龍舟チーム!!』は、どうが?」
言いながら、勇気くんは机に置かれたメモ用紙とペンを取り、力強く書き記した。メモ用紙を囲むようにして、みんなの頭が集まる。
誰も反論の声を上げる人はいなかった。
申込者はチームリーダーである海くんにした。彼が監督も兼任となるため、19日に行われる監督会議は海くんが出席する。この会議に出席しないと、練習をさせてもらうことができないのだ。その後、練習日がいさドラゴンカップのスタッフによって組まれ、どのチームにも公平な回数だけ練習の機会が与えられることになる。
29日は舵手講習会が開かれるし、今年は市制10周年記念大会ということで、参加者交流会まで予定されていて、イベント当日以外でも忙しそうだった。
「申込書の提出先は大口ふれあいセンターってあるけど、どこ? 市庁舎?」
「おま、図書館行ったことあるが? ふれセンは図書館の下だが。午後10時までオープンしとるけ、明日一緒に行ったる」
「おぅ、ありがと」
そこへ、海くんのお母さんがたくさんのおにぎりを載せた大皿を運んできてくれた。
「みんな遅くまで大変ね。良かったら、これ食べて」
『うわー、いただきまーす!!』
2時間前に食べてるけど、すっかり胃の中のものは消化され、お腹が空いていた。
「海ぃとこの母ちゃん、美人で優しくてえぇのー。俺の母ちゃんとえらい違いが!」
「西郷どんとこの母ちゃん、マジで怖いが!!」
「あぁ、小学生ん時ぁ、西郷どん家行くん、怖かったけー」
ひとしきり勇気くんのお母さん話で盛り上がった後、解散することになった。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
【完結】雨上がり、後悔を抱く
私雨
ライト文芸
夏休みの最終週、海外から日本へ帰国した田仲雄己(たなか ゆうき)。彼は雨之島(あまのじま)という離島に住んでいる。
雄己を真っ先に出迎えてくれたのは彼の幼馴染、山口夏海(やまぐち なつみ)だった。彼女が確実におかしくなっていることに、誰も気づいていない。
雨之島では、とある迷信が昔から吹聴されている。それは、雨に濡れたら狂ってしまうということ。
『信じる』彼と『信じない』彼女――
果たして、誰が正しいのだろうか……?
これは、『しなかったこと』を後悔する人たちの切ない物語。
Bo★ccia!!―アィラビュー×コザィラビュー*
gaction9969
ライト文芸
ゴッドオブスポーツ=ボッチャ!!
ボッチャとはッ!! 白き的球を狙いて自らの手球を投擲し、相手よりも近づけた方が勝利を得るというッ!! 年齢人種性別、そして障害者/健常者の区別なく、この地球の重力を背負いし人間すべてに平等たる、完全なる球技なのであるッ!!
そしてこの物語はッ!! 人智を超えた究極競技「デフィニティボッチャ」に青春を捧げた、五人の青年のッ!! 愛と希望のヒューマンドラマであるッ!!
ネットで出会った最強ゲーマーは人見知りなコミュ障で俺だけに懐いてくる美少女でした
黒足袋
青春
インターネット上で†吸血鬼†を自称する最強ゲーマー・ヴァンピィ。
日向太陽はそんなヴァンピィとネット越しに交流する日々を楽しみながら、いつかリアルで会ってみたいと思っていた。
ある日彼はヴァンピィの正体が引きこもり不登校のクラスメイトの少女・月詠夜宵だと知ることになる。
人気コンシューマーゲームである魔法人形(マドール)の実力者として君臨し、ネットの世界で称賛されていた夜宵だが、リアルでは友達もおらず初対面の相手とまともに喋れない人見知りのコミュ障だった。
そんな夜宵はネット上で仲の良かった太陽にだけは心を開き、外の世界へ一緒に出かけようという彼の誘いを受け、不器用ながら交流を始めていく。
太陽も世間知らずで危なっかしい夜宵を守りながら二人の距離は徐々に近づいていく。
青春インターネットラブコメ! ここに開幕!
※表紙イラストは佐倉ツバメ様(@sakura_tsubame)に描いていただきました。
僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた
楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。
この作品はハーメルン様でも掲載しています。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる