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第二章 ドラゴンボートチーム結成

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 8時を回って教室を追い出された後、参加申込書を記入する為、海くんの家に集まることになった。彼の家は、高校の隣に建っている市営高校西団地にある。すぐ近くだけど、高校の門が閉まってしまうので駐輪場に自転車を取りに行き、押しながらみんなで団地へと向かうことにした。
 4棟あるうちの、高校に隣接した一番近い棟の3階奥が、海くん家だった。

「俺ん家、狭いから覚悟してて」

 海くんがそう言いながらチャイムを鳴らすと、暫くしてお母さんが出てきた。目鼻立ちの整った綺麗な人で、海くんはお母さん似なんだなぁと思った。

「お帰り……あら、お友達?」

 海くんのお母さんは心底驚いたような声を上げた後、嬉しそうに「狭いところだけど、どうぞ上がって」と笑顔で私たちを迎えてくれた。

『おじゃましまーす』

 玄関から溢れ出しそうなくらい、私たちの靴が所狭しと並べられる。

「どうしよう……人数分のジュースあるかしら」

 呟いたおばさんに、みんなはそれぞれのスクバからペットボトルを掲げた。

 玄関の右手には浴室と洗面所、左手は台所とダイニングルームになっていて、その先には6畳ほどの和室が2部屋あった。

「こっちが、俺の部屋」

 右手の部屋に通されたものの、人数が多すぎて入りきらない。そこで、隣の部屋の仕切りとなってる襖を開けて、ひとつの部屋にした。これでようやく、全員が座れる。海くんの部屋は勉強机と書棚があるだけの、すごくシンプルな部屋だった。ベッドは置かれていないので、布団を敷いて寝てるみたいだった。

「なぁ、チーム名どうすっが?」

 落ち着いたところで早速、勇気くんが皆に問いかけた。

「ゴーゴーがらっぱ!」
「イーサキングと仲間たち!」
「伊佐のダムは沈んでも、僕たちの船は沈みましぇん!」

 私にはどれもイミフな名前ばっかだけど、みんなには分かる地元ネタらしく、盛り上がったものの、全て却下された。

「ねぇ、せっかくクラスのみんなでチーム作ったんだから、高校の名前入れようよ。『伊佐高ドラゴンボートチーム』は?」
「うーん、インパクトが弱いがよ。もっとガツーンと!!」

 勇気くんの私へのダメ出しに、今度は海くんが提案する。

「中国ではドラゴンボートって龍舟《りゅうしゅう》って書くんだ。だから、『伊佐高龍舟チーム』は?」

「チェストーー!!」

 勇気くんの突然の雄叫びに、目を丸くする。

「Chest?」

 そういえば、転入初日にも誰かそんなこと言ってたような……
 Chestって箱? 胸? どんな意味!?

「チェストーゆうんは、自分を鼓舞するための掛け声とか気合の叫びでぇ、昔ぃ、薩摩の剣術『示現流』の試合ん時にぃ使っとったらしいがよ」

 横から郁美が説明してくれる。

 そうなんだ。

「だからぁ、『チェストー! 伊佐高龍舟チーム!!』は、どうが?」

 言いながら、勇気くんは机に置かれたメモ用紙とペンを取り、力強く書き記した。メモ用紙を囲むようにして、みんなの頭が集まる。

 誰も反論の声を上げる人はいなかった。

 申込者はチームリーダーである海くんにした。彼が監督も兼任となるため、19日に行われる監督会議は海くんが出席する。この会議に出席しないと、練習をさせてもらうことができないのだ。その後、練習日がいさドラゴンカップのスタッフによって組まれ、どのチームにも公平な回数だけ練習の機会が与えられることになる。

 29日は舵手講習会が開かれるし、今年は市制10周年記念大会ということで、参加者交流会まで予定されていて、イベント当日以外でも忙しそうだった。

「申込書の提出先は大口おおくちふれあいセンターってあるけど、どこ? 市庁舎?」
「おま、図書館行ったことあるが? ふれセンは図書館の下だが。午後10時までオープンしとるけ、明日一緒に行ったる」
「おぅ、ありがと」

 そこへ、海くんのお母さんがたくさんのおにぎりを載せた大皿を運んできてくれた。

「みんな遅くまで大変ね。良かったら、これ食べて」
『うわー、いただきまーす!!』

 2時間前に食べてるけど、すっかり胃の中のものは消化され、お腹が空いていた。

「海ぃとこの母ちゃん、美人で優しくてえぇのー。俺の母ちゃんとえらい違いが!」
「西郷どんとこの母ちゃん、マジで怖いが!!」
「あぁ、小学生ん時ぁ、西郷どん家行くん、怖かったけー」

 ひとしきり勇気くんのお母さん話で盛り上がった後、解散することになった。
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