4 / 72
第一章 期待はずれの転校生
4
しおりを挟む
おばあちゃんは一人で暮らしてて、自分のことはなんでも自分でする。洗濯、掃除、料理、家事のこまごまとしたことはもちろん、裏に畑も持っていて、そこで野菜や果物、花なんかも育ててる。そんなことも、ここに来るまで知らなかった。
小さなちゃぶ台を囲み、座布団の上に正座し、夕食を一緒に食べる。最初は慣れなかった正座も、1週間もたつと自然に座れるようになった。
カナダの夏休みは日本よりも少し早い。6月下旬にこっちに来た私は期末考査の関係で高校にすぐ転入出来ず、暫くはおばあちゃんと二人きりで毎日過ごしたのだった。周りに友達も知り合いもいない、話すのはおばあちゃんのみで、行動範囲も家と裏の畑ぐらいだったけど、退屈することはなかった。おばあちゃんにコツを習いながら家事を教えてもらったり、畑仕事をお手伝いするのは、新鮮な発見と驚きと感動があったから。
とんこつという豚の軟骨の煮物とガネというさつまいものかき揚げ、味噌汁とご飯とお漬物が食卓に並ぶ。大根や人参、さつまいも、そして伊佐の特産品としても有名な金山ねぎは畑でとれたもので、お米は近所のお米農家の方から頂いてる。伊佐は『鹿児島の北海道』とも言われるほど寒暖差が激しく、天水田で作られる『伊佐米』は幻のお米と呼ばれるほど希少なのだと、この前お米を届けてくれた農家の方が話してくれた。
こってりした甘辛い味付けのとんこつは、初めて食べたはずなのにどこか懐かしい味がして、モチモチで甘みのあるご飯との相性抜群だった。水分の少ないボソボソのご飯に慣れきった私には、これが本当に同じお米なのだろうかと疑問に思うほど美味しくて、ご飯を食べることがこんなに幸せだなんて、初めて感じた。
ご飯を食べながら、おばあちゃんと会話が弾む。いつもそれぞれスマホを弄りながら食べてるお母さんと私の食事風景を見たら、おばあちゃんはビックリするかもしれない。
「学校はいけんやったね?」
「え、学校なら行ったよ?」
「ハハッ、学校はどうやった、っちゅー意味がよ!」
「あ、そうなんだ……うん、みんな凄くフレンドリーで楽しかったよ。早速、クラスの男の子に告白されちゃった」
「まこちな?」
おばあちゃんが目を丸くしたので、クスッと笑う。
「うん。『好きです……かすたどん』って。早速鹿児島人の洗礼を受けた」
「そげなことがあったね。がっついもぅ、ぐらしかぁ!」
おばあちゃんは、かなりのオーバーリアクションをする。箸と茶碗を持ったまま肩を落として、いかにも悲しそうな顔をした。カナダ人でもここまでのリアクションは見られないだろう。
「それ、どんな意味?」
「ほんとにもう、可哀想って意味よ。こげん、もじょか子掴まえてまぁー」
「もじょか子?」
「可愛い子ゆう、意味がよ」
「ふふっ、いいの! みんな笑ってたし、楽しそうで嬉しかったから」
「ほぉけ?」
「うん」
おばあちゃんとの会話は通じ合わないことが多いけど、そんなやりとりが楽しくて、自然に笑みが溢れてくる。
あ、忘れてた!!
食べかけのご飯とおかずを見栄えがいいように整えると、スマホで写真を撮り、即座にインスタにアップした。
おばあちゃんにとっては何気無い日常の風景や食べ物でも、東京や、ましてやカナダの友達にとってみたら珍しいものがたくさんあって、写真をあげる度に『これは何?』とか『ここはどこ?』とか『すっごく美味しそう!』とか反応が返ってくる。
カナダにいた時からインスタやってたけど、現地校でのカリキュラムやプレゼン、補習校での宿題やテスト勉強に追われて、アップする余裕なんか殆どなかった。こっちに来てから持て余すほどの時間が出来て、写真を撮る度にアップしてたら思いのほか反応があって、それから何かある度に写真を撮ってはインスタにあげるようになった。
ご飯を食べ終わって食器を持って台所に行くと、窓から西日が射し込んでくる。
綺麗……
茶碗を洗い終わって外に出ると、ちょうど夕陽が沈むところだった。雲ひとつない空の中、夕陽が稜線の向こう側に沈んでいき、家のすぐ隣の田んぼに鏡のように映し出される。淡いオレンジ色から薄青色のグラデーションは、やがて濃くなっていく薄青色に少しずつ侵食されていく。溜息を吐くと、瞬きするように写真を撮った。
ここにいると、自然の中に自分が生かされていることを実感する。空を見上げて美しいと思うことなんて、いつ以来だろう……ずっと、忘れてた気がする。まだ生温さの残る夕方の風が、頬を優しく撫でていく。生命力が、満ちていく。
「美和子ちゃん、風呂ん浸かってこんね」
台所の窓から、おばあちゃんの声が聞こえてきた。
「うん。今行くー」
暮れなずむ景色に別れを告げ、裏口から家の中へ入った。
小さなちゃぶ台を囲み、座布団の上に正座し、夕食を一緒に食べる。最初は慣れなかった正座も、1週間もたつと自然に座れるようになった。
カナダの夏休みは日本よりも少し早い。6月下旬にこっちに来た私は期末考査の関係で高校にすぐ転入出来ず、暫くはおばあちゃんと二人きりで毎日過ごしたのだった。周りに友達も知り合いもいない、話すのはおばあちゃんのみで、行動範囲も家と裏の畑ぐらいだったけど、退屈することはなかった。おばあちゃんにコツを習いながら家事を教えてもらったり、畑仕事をお手伝いするのは、新鮮な発見と驚きと感動があったから。
とんこつという豚の軟骨の煮物とガネというさつまいものかき揚げ、味噌汁とご飯とお漬物が食卓に並ぶ。大根や人参、さつまいも、そして伊佐の特産品としても有名な金山ねぎは畑でとれたもので、お米は近所のお米農家の方から頂いてる。伊佐は『鹿児島の北海道』とも言われるほど寒暖差が激しく、天水田で作られる『伊佐米』は幻のお米と呼ばれるほど希少なのだと、この前お米を届けてくれた農家の方が話してくれた。
こってりした甘辛い味付けのとんこつは、初めて食べたはずなのにどこか懐かしい味がして、モチモチで甘みのあるご飯との相性抜群だった。水分の少ないボソボソのご飯に慣れきった私には、これが本当に同じお米なのだろうかと疑問に思うほど美味しくて、ご飯を食べることがこんなに幸せだなんて、初めて感じた。
ご飯を食べながら、おばあちゃんと会話が弾む。いつもそれぞれスマホを弄りながら食べてるお母さんと私の食事風景を見たら、おばあちゃんはビックリするかもしれない。
「学校はいけんやったね?」
「え、学校なら行ったよ?」
「ハハッ、学校はどうやった、っちゅー意味がよ!」
「あ、そうなんだ……うん、みんな凄くフレンドリーで楽しかったよ。早速、クラスの男の子に告白されちゃった」
「まこちな?」
おばあちゃんが目を丸くしたので、クスッと笑う。
「うん。『好きです……かすたどん』って。早速鹿児島人の洗礼を受けた」
「そげなことがあったね。がっついもぅ、ぐらしかぁ!」
おばあちゃんは、かなりのオーバーリアクションをする。箸と茶碗を持ったまま肩を落として、いかにも悲しそうな顔をした。カナダ人でもここまでのリアクションは見られないだろう。
「それ、どんな意味?」
「ほんとにもう、可哀想って意味よ。こげん、もじょか子掴まえてまぁー」
「もじょか子?」
「可愛い子ゆう、意味がよ」
「ふふっ、いいの! みんな笑ってたし、楽しそうで嬉しかったから」
「ほぉけ?」
「うん」
おばあちゃんとの会話は通じ合わないことが多いけど、そんなやりとりが楽しくて、自然に笑みが溢れてくる。
あ、忘れてた!!
食べかけのご飯とおかずを見栄えがいいように整えると、スマホで写真を撮り、即座にインスタにアップした。
おばあちゃんにとっては何気無い日常の風景や食べ物でも、東京や、ましてやカナダの友達にとってみたら珍しいものがたくさんあって、写真をあげる度に『これは何?』とか『ここはどこ?』とか『すっごく美味しそう!』とか反応が返ってくる。
カナダにいた時からインスタやってたけど、現地校でのカリキュラムやプレゼン、補習校での宿題やテスト勉強に追われて、アップする余裕なんか殆どなかった。こっちに来てから持て余すほどの時間が出来て、写真を撮る度にアップしてたら思いのほか反応があって、それから何かある度に写真を撮ってはインスタにあげるようになった。
ご飯を食べ終わって食器を持って台所に行くと、窓から西日が射し込んでくる。
綺麗……
茶碗を洗い終わって外に出ると、ちょうど夕陽が沈むところだった。雲ひとつない空の中、夕陽が稜線の向こう側に沈んでいき、家のすぐ隣の田んぼに鏡のように映し出される。淡いオレンジ色から薄青色のグラデーションは、やがて濃くなっていく薄青色に少しずつ侵食されていく。溜息を吐くと、瞬きするように写真を撮った。
ここにいると、自然の中に自分が生かされていることを実感する。空を見上げて美しいと思うことなんて、いつ以来だろう……ずっと、忘れてた気がする。まだ生温さの残る夕方の風が、頬を優しく撫でていく。生命力が、満ちていく。
「美和子ちゃん、風呂ん浸かってこんね」
台所の窓から、おばあちゃんの声が聞こえてきた。
「うん。今行くー」
暮れなずむ景色に別れを告げ、裏口から家の中へ入った。
0
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる