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愛するがゆえの罪

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 美姫はそれを聞き、言葉を失った。

 秀一は美姫から瞳を逸らすことなく、説明する。

「ですから、オーストリアで私たちが恋人同士であることは、倫理的に反対する人はいるかもしれませんが、日本のような目で批判されることはありません。
 オーストリアでは、5年以上同棲していれば、結婚していなくても事実婚として認められます。そして……もし、美姫が法的に夫婦として認められたいと思うのなら、日本の国籍を捨て、オーストリアの国籍を取得して結婚することも出来るのですよ」

 秀一の言葉に、美姫の今までの価値観や倫理観、道徳観念がガラガラと崩れていくようだった。

「しゅ、いちさ……ずっと、このこと……知って、たんですか?」

 秀一が睫毛を伏せ、僅かに揺らした。

「いえ、私もずっと知りませんでした。知ったのは、Desire Islandから帰ってきてからです。

 ……モルテッソーニから、聞いたのですよ。彼は、美姫が私のピアニストとしての人生を駄目にすると考えていたので、周囲に牽制し、私にオーストリアで叔姪婚しゅくてつこんが認められていると知られないようにしていたのです。けれど、私が貴女なしでは生きられないと感じ、そのことを私に話したのです」

 美姫が、苦しげに呟く。

「もし、もっと早くに私達が結婚できると知っていたら……あれほど多くの人を、傷つけずに済んだかもしれないのに」

 そうしたら、大和とも結婚せず、父や母にも祝福され、友人たちにも喜んでもらえ、財閥や世間からも後ろ指をさされることはなかったんじゃないだろうか……

 そんな思いが過る。

 秀一は首を振った。

「いいえ。もしもっと早くに知っていたとしても、上手くはいかなかったでしょう。

 美姫は私との旅行でウィーンにいた時、RTSDの症状が強く出ていました。あの時の貴女は、私と短期間ウィーンに滞在することすらままならなかった。
 それに私達の関係が世間に知られ、兄様が危篤状態だった時、貴女がもしあのままウィーンに私と行っていたとしても……父を見捨て、母を裏切り、財閥の信頼を失わせてしまったことを一生悔いていたでしょう。

 今、だから……ですよ。今でなければ、ならなかったのです」

 美姫は、胸が絞られる思いだった。

 確かに、秀一の言う通りだった。

 今ならRTSDの症状も第4ステージに入り、まだ不安要素はあるもののだいぶ安定している。ドイツ語も日常会話程度なら習得したし、海外で生活することに不安はあるものの、恐怖はなくなった。
 秀一の深い愛情を感じた今は、以前のように彼の過去や友人たちに嫉妬することなく受け入れられる。

 財閥は大和が支えてくれ、母の側にいてくれる。全てを捨て、秀一の愛に生きる覚悟が出来た。

 そう、今だから……美姫は、秀一と共にウィーンで新たな生活が出来るのだ。

 けれど、それは……大和や両親、多くの人間を犠牲にして成り立ったものだ。

 利用しようとしていたわけじゃない。
 けれど、結果的にそうなってしまった。

 秀一を愛するがゆえに、その愛を、貫く為に……多くの人たちを傷付け、裏切ってしまった。
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