122 / 124
愛するがゆえの罪
3
しおりを挟む
美姫はそれを聞き、言葉を失った。
秀一は美姫から瞳を逸らすことなく、説明する。
「ですから、オーストリアで私たちが恋人同士であることは、倫理的に反対する人はいるかもしれませんが、日本のような目で批判されることはありません。
オーストリアでは、5年以上同棲していれば、結婚していなくても事実婚として認められます。そして……もし、美姫が法的に夫婦として認められたいと思うのなら、日本の国籍を捨て、オーストリアの国籍を取得して結婚することも出来るのですよ」
秀一の言葉に、美姫の今までの価値観や倫理観、道徳観念がガラガラと崩れていくようだった。
「しゅ、いちさ……ずっと、このこと……知って、たんですか?」
秀一が睫毛を伏せ、僅かに揺らした。
「いえ、私もずっと知りませんでした。知ったのは、Desire Islandから帰ってきてからです。
……モルテッソーニから、聞いたのですよ。彼は、美姫が私のピアニストとしての人生を駄目にすると考えていたので、周囲に牽制し、私にオーストリアで叔姪婚が認められていると知られないようにしていたのです。けれど、私が貴女なしでは生きられないと感じ、そのことを私に話したのです」
美姫が、苦しげに呟く。
「もし、もっと早くに私達が結婚できると知っていたら……あれほど多くの人を、傷つけずに済んだかもしれないのに」
そうしたら、大和とも結婚せず、父や母にも祝福され、友人たちにも喜んでもらえ、財閥や世間からも後ろ指をさされることはなかったんじゃないだろうか……
そんな思いが過る。
秀一は首を振った。
「いいえ。もしもっと早くに知っていたとしても、上手くはいかなかったでしょう。
美姫は私との旅行でウィーンにいた時、RTSDの症状が強く出ていました。あの時の貴女は、私と短期間ウィーンに滞在することすらままならなかった。
それに私達の関係が世間に知られ、兄様が危篤状態だった時、貴女がもしあのままウィーンに私と行っていたとしても……父を見捨て、母を裏切り、財閥の信頼を失わせてしまったことを一生悔いていたでしょう。
今、だから……ですよ。今でなければ、ならなかったのです」
美姫は、胸が絞られる思いだった。
確かに、秀一の言う通りだった。
今ならRTSDの症状も第4ステージに入り、まだ不安要素はあるもののだいぶ安定している。ドイツ語も日常会話程度なら習得したし、海外で生活することに不安はあるものの、恐怖はなくなった。
秀一の深い愛情を感じた今は、以前のように彼の過去や友人たちに嫉妬することなく受け入れられる。
財閥は大和が支えてくれ、母の側にいてくれる。全てを捨て、秀一の愛に生きる覚悟が出来た。
そう、今だから……美姫は、秀一と共にウィーンで新たな生活が出来るのだ。
けれど、それは……大和や両親、多くの人間を犠牲にして成り立ったものだ。
利用しようとしていたわけじゃない。
けれど、結果的にそうなってしまった。
秀一を愛するがゆえに、その愛を、貫く為に……多くの人たちを傷付け、裏切ってしまった。
秀一は美姫から瞳を逸らすことなく、説明する。
「ですから、オーストリアで私たちが恋人同士であることは、倫理的に反対する人はいるかもしれませんが、日本のような目で批判されることはありません。
オーストリアでは、5年以上同棲していれば、結婚していなくても事実婚として認められます。そして……もし、美姫が法的に夫婦として認められたいと思うのなら、日本の国籍を捨て、オーストリアの国籍を取得して結婚することも出来るのですよ」
秀一の言葉に、美姫の今までの価値観や倫理観、道徳観念がガラガラと崩れていくようだった。
「しゅ、いちさ……ずっと、このこと……知って、たんですか?」
秀一が睫毛を伏せ、僅かに揺らした。
「いえ、私もずっと知りませんでした。知ったのは、Desire Islandから帰ってきてからです。
……モルテッソーニから、聞いたのですよ。彼は、美姫が私のピアニストとしての人生を駄目にすると考えていたので、周囲に牽制し、私にオーストリアで叔姪婚が認められていると知られないようにしていたのです。けれど、私が貴女なしでは生きられないと感じ、そのことを私に話したのです」
美姫が、苦しげに呟く。
「もし、もっと早くに私達が結婚できると知っていたら……あれほど多くの人を、傷つけずに済んだかもしれないのに」
そうしたら、大和とも結婚せず、父や母にも祝福され、友人たちにも喜んでもらえ、財閥や世間からも後ろ指をさされることはなかったんじゃないだろうか……
そんな思いが過る。
秀一は首を振った。
「いいえ。もしもっと早くに知っていたとしても、上手くはいかなかったでしょう。
美姫は私との旅行でウィーンにいた時、RTSDの症状が強く出ていました。あの時の貴女は、私と短期間ウィーンに滞在することすらままならなかった。
それに私達の関係が世間に知られ、兄様が危篤状態だった時、貴女がもしあのままウィーンに私と行っていたとしても……父を見捨て、母を裏切り、財閥の信頼を失わせてしまったことを一生悔いていたでしょう。
今、だから……ですよ。今でなければ、ならなかったのです」
美姫は、胸が絞られる思いだった。
確かに、秀一の言う通りだった。
今ならRTSDの症状も第4ステージに入り、まだ不安要素はあるもののだいぶ安定している。ドイツ語も日常会話程度なら習得したし、海外で生活することに不安はあるものの、恐怖はなくなった。
秀一の深い愛情を感じた今は、以前のように彼の過去や友人たちに嫉妬することなく受け入れられる。
財閥は大和が支えてくれ、母の側にいてくれる。全てを捨て、秀一の愛に生きる覚悟が出来た。
そう、今だから……美姫は、秀一と共にウィーンで新たな生活が出来るのだ。
けれど、それは……大和や両親、多くの人間を犠牲にして成り立ったものだ。
利用しようとしていたわけじゃない。
けれど、結果的にそうなってしまった。
秀一を愛するがゆえに、その愛を、貫く為に……多くの人たちを傷付け、裏切ってしまった。
0
あなたにおすすめの小説
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』
鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、
仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。
厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議――
最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。
だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、
結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。
そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、
次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。
同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。
数々の試練が二人を襲うが――
蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、
結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。
そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、
秘書と社長の関係を静かに越えていく。
「これからの人生も、そばで支えてほしい。」
それは、彼が初めて見せた弱さであり、
結衣だけに向けた真剣な想いだった。
秘書として。
一人の女性として。
結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。
仕事も恋も全力で駆け抜ける、
“冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる