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愛するがゆえの罪
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ウィーンのシンボルであり、世界遺産にもなっているシュテファン大聖堂。ハプスブルク家の通称『建設公』ルドルフ4世によって建てられたゴシック様式の教会で、ハプスブルク家の墓所であり、モーツァルトの結婚式も葬儀もここで行われた。
外観はゴシック様式だが、内部はバロック様式となっている大聖堂の回廊を歩く。当然、他に観光客はなく、二人が歩く足音だけが大きく響き渡る。
献灯の蝋燭が多くたてられているものの、その光自体が弱いので室内は暗く、寒いほど空気がひんやりしている。それがより一層、この聖堂の荘厳な雰囲気を強めていた。高い窓には淡いパステルカラーのステンドグラスがはめ込まれ、僅かな光を受けて幻想的な光を生み出していた。
中央祭壇まで進むと、奥の壁にはキリスト教最初の殉教者となった聖ステファノの処刑が描かれた祭壇画が飾られている。
ユダヤ教信者によって罪を着せられ、裁判で弁明したにも関わらず、彼らによって外に引き摺り出され、石打ちの刑に処された聖ステファノ。その酷い最期にも関わらず、「主よ、この罪を彼らに負わせないでください」と赦しを祈りながら、息絶えたと言われている。
秀一は祭壇画を見上げた後、美姫の手を取った。
「美姫。私たちの犯した罪は、とても大きいです。
貴女は、一生この罪を背負って生きていくことは出来ますか」
美姫は祭壇画を見上げた後、秀一の瞳を見つめた。
「私は、自分の犯した罪を忘れることはありません。一生背負って、行きていくつもりです。
秀一さん、貴方との愛に生きると決めたのですから」
秀一が、美姫の目の前で片膝を付いて跪く。
「美姫……ここで再び、誓います。貴女を一生、愛し続けると。
病める時も健やかなる時も...どんな苦難が襲いかかろうとも、私は生涯貴女だけを愛し、守り抜きます」
「秀一、さん……」
舞踏会でのドレスを前に永遠の愛を誓った秀一を思い出し、美姫の瞳の奥が焼け付くように熱くなった。
今日、この日を迎えるまでにどれだけの壁を超え、底に落ち、回り道をし、道を失いかけてきただろう。
ようやく、ここに辿り着いた。
愛する人の元へ。
秀一は潤んだ瞳で見つめる美姫の手を取り、恭しく手の甲に誓いの口づけを落とした。
秀一がコートのポケットから深紫のベルベットの箱を取り出し、パカッと蓋を開ける。そこには、煌く大粒のダイヤモンドのプラチナリングが光っていた。
「美姫。
どうか私の一生の伴侶となって頂けますか」
美姫の目尻から、大粒の涙が零れた。
「は、い。よろしく、お願いします……」
秀一が美姫の左手を取り、薬指にスッと指輪を嵌める。立ち上がった秀一に美姫は抱きつき、二人は唇を重ねた。
「私の指にも、嵌めて頂けますか」
「え?」
渡されたのは、アルミホイルで作った指輪だった。幼い頃、美姫が秀一との結婚式ごっこで使ったものだった。
秀一さん、今でもこれ……持っててくれてたんだ。
美姫は指輪を手に取り、甘さと切なさが胸に広がっていった。
本当の夫婦になることは、出来ない。
けれど、私たちは一生を共にすることは出来る。
たとえ誰に認められることはなくても……私たちの想いさえあれば、それでいい。
誰の物差しでもない。
ーーこれが、私にとっての『幸福』なのだから。
美姫は、秀一の左手を取り、指輪を嵌めた。指輪は、ぴったりと秀一の指に嵌った。
二人は、これからの未来を思い、微笑み合った。
秀一が、美姫をまじろぎもせず見つめる。そのライトグレーの瞳は、いつもよりも深く美しく見えた。
「美姫、知っていますか」
「え、何をですか?」
美姫は、秀一を見上げた。
「オーストリアでは、叔父と姪による叔姪婚は、法律で認められているのですよ」
外観はゴシック様式だが、内部はバロック様式となっている大聖堂の回廊を歩く。当然、他に観光客はなく、二人が歩く足音だけが大きく響き渡る。
献灯の蝋燭が多くたてられているものの、その光自体が弱いので室内は暗く、寒いほど空気がひんやりしている。それがより一層、この聖堂の荘厳な雰囲気を強めていた。高い窓には淡いパステルカラーのステンドグラスがはめ込まれ、僅かな光を受けて幻想的な光を生み出していた。
中央祭壇まで進むと、奥の壁にはキリスト教最初の殉教者となった聖ステファノの処刑が描かれた祭壇画が飾られている。
ユダヤ教信者によって罪を着せられ、裁判で弁明したにも関わらず、彼らによって外に引き摺り出され、石打ちの刑に処された聖ステファノ。その酷い最期にも関わらず、「主よ、この罪を彼らに負わせないでください」と赦しを祈りながら、息絶えたと言われている。
秀一は祭壇画を見上げた後、美姫の手を取った。
「美姫。私たちの犯した罪は、とても大きいです。
貴女は、一生この罪を背負って生きていくことは出来ますか」
美姫は祭壇画を見上げた後、秀一の瞳を見つめた。
「私は、自分の犯した罪を忘れることはありません。一生背負って、行きていくつもりです。
秀一さん、貴方との愛に生きると決めたのですから」
秀一が、美姫の目の前で片膝を付いて跪く。
「美姫……ここで再び、誓います。貴女を一生、愛し続けると。
病める時も健やかなる時も...どんな苦難が襲いかかろうとも、私は生涯貴女だけを愛し、守り抜きます」
「秀一、さん……」
舞踏会でのドレスを前に永遠の愛を誓った秀一を思い出し、美姫の瞳の奥が焼け付くように熱くなった。
今日、この日を迎えるまでにどれだけの壁を超え、底に落ち、回り道をし、道を失いかけてきただろう。
ようやく、ここに辿り着いた。
愛する人の元へ。
秀一は潤んだ瞳で見つめる美姫の手を取り、恭しく手の甲に誓いの口づけを落とした。
秀一がコートのポケットから深紫のベルベットの箱を取り出し、パカッと蓋を開ける。そこには、煌く大粒のダイヤモンドのプラチナリングが光っていた。
「美姫。
どうか私の一生の伴侶となって頂けますか」
美姫の目尻から、大粒の涙が零れた。
「は、い。よろしく、お願いします……」
秀一が美姫の左手を取り、薬指にスッと指輪を嵌める。立ち上がった秀一に美姫は抱きつき、二人は唇を重ねた。
「私の指にも、嵌めて頂けますか」
「え?」
渡されたのは、アルミホイルで作った指輪だった。幼い頃、美姫が秀一との結婚式ごっこで使ったものだった。
秀一さん、今でもこれ……持っててくれてたんだ。
美姫は指輪を手に取り、甘さと切なさが胸に広がっていった。
本当の夫婦になることは、出来ない。
けれど、私たちは一生を共にすることは出来る。
たとえ誰に認められることはなくても……私たちの想いさえあれば、それでいい。
誰の物差しでもない。
ーーこれが、私にとっての『幸福』なのだから。
美姫は、秀一の左手を取り、指輪を嵌めた。指輪は、ぴったりと秀一の指に嵌った。
二人は、これからの未来を思い、微笑み合った。
秀一が、美姫をまじろぎもせず見つめる。そのライトグレーの瞳は、いつもよりも深く美しく見えた。
「美姫、知っていますか」
「え、何をですか?」
美姫は、秀一を見上げた。
「オーストリアでは、叔父と姪による叔姪婚は、法律で認められているのですよ」
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