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愛するがゆえの罪
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「美姫、着きましたよ」
秀一に声を掛けられ、美姫は目を覚ました。まだぼんやりとした頭で視界を見回し、ここが機内であることが分かると、途端に記憶が蘇った。
慌てて下を見下ろすと、ワンピースを着て髪も綺麗に整えられている。寝ている間、あられもない格好をしていたのではないかとか、色々な不安が押し寄せ、顔を赤らめたり青褪めたりする美姫に、秀一が笑みを零す。
「もう美姫の全てを見ていますから、今更慌てることはありませんよ。
さぁ、行きましょうか」
秀一の言葉に、美姫は小さくなりながら頷いた。
「はい……」
ウィーン・シュヴェヒャート空港に着いた時には、もう夜の10時を過ぎていた。
「よく眠れましたか?」
「……みたいですね、すみません」
美姫は申し訳なく答えた。気づいた時には意識がなくなっていた。どのくらい寝ていたのかも分からない。
秀一は腕時計に視線を落とすと、美姫に告げた。
「ちょうど、CAT(シティ・エアポート・トレイン)を逃してしまいました。次の電車まで30分あるので、タクシーに乗りましょう」
到着ロビーからすぐにタクシー乗り場へと向かった。
空港から外に出ると、躰が芯から冷える寒波が吹き付ける。マフラーに顔を埋め、秀一の腕に自分の腕を回すと優しく微笑まれ、胸がキュッと縮まった。
秀一が窓越しにタクシーの運転手に目で合図をしてから、扉を開けて美姫をエスコートする。寒さから逃れるように、素早く乗り込んだ。
「疲れていませんか。
少し寄りたいところがあるのですが」
美姫はにこっと笑みを返した。
「私は大丈夫ですよ」
それを受けて秀一は運転手にメモを渡し、車が発進した。
どこへ行くのだろう……
美姫の心に、少しの不安と緊張が広がった。
車はウィーン市内のダウンタウンへと向けて走っていた。懐かしい景色に目を奪われていると、秀一の手が美姫の手を取り、繋いだ。
なんだか嫉妬しているようにも見えて、美姫は思わず秀一を見つめて微笑んだ。すると、美姫の肩に甘えるように秀一が頭を寄せた。
「機内ではあまり眠れませんでした。少し、こうしていていいですか」
「はい」
瞳を閉じた秀一の綺麗に整った睫毛を見つめ、魅入られる。秀一の匂いが自分の服にも沁み込んで、同じ匂いになればいいのにと思った。
この人とずっとこの先もこうしていられるのかと思うと、涙が出るほど幸せな気持ちになり、胸が熱くなる。
どうしようもないくらい……本当に、好き。
タクシーが停車すると、秀一は瞳を開け、ゆっくりと躰を起こした。運転手にお金を支払って礼を言うと、扉を開ける。
手を差し伸べられ、甘く疼く胸と共に手を重ねる。
タクシーを降りた右手には、シュテファン大聖堂があった。
「秀一さんが来たかった場所って、ここですか」
「えぇ、そうです」
秀一はギリギリまで美姫に目的地を隠しておくため、わざと運転手にメモを渡したのだ。
だが、シュテファン大聖堂の周りは誰もおらず、扉も固く閉ざされていた。
そういえば、確か大聖堂へ入れるのは10時までだったはず……
美姫は、せっかく来たのにと残念な気持ちになった。
だが秀一は気にすることなく、小さな扉の方に向かってノックした。
暫くして扉が開き、教会関係者と思われる者と秀一が会話を交わす。
秀一が扉を支えた。
「美姫、どうぞ入って下さい」
「え、いいんですか!?」
驚いて見上げる美姫に、秀一がにっこりと微笑んだ。
「えぇ。貸し切ってますから」
秀一に声を掛けられ、美姫は目を覚ました。まだぼんやりとした頭で視界を見回し、ここが機内であることが分かると、途端に記憶が蘇った。
慌てて下を見下ろすと、ワンピースを着て髪も綺麗に整えられている。寝ている間、あられもない格好をしていたのではないかとか、色々な不安が押し寄せ、顔を赤らめたり青褪めたりする美姫に、秀一が笑みを零す。
「もう美姫の全てを見ていますから、今更慌てることはありませんよ。
さぁ、行きましょうか」
秀一の言葉に、美姫は小さくなりながら頷いた。
「はい……」
ウィーン・シュヴェヒャート空港に着いた時には、もう夜の10時を過ぎていた。
「よく眠れましたか?」
「……みたいですね、すみません」
美姫は申し訳なく答えた。気づいた時には意識がなくなっていた。どのくらい寝ていたのかも分からない。
秀一は腕時計に視線を落とすと、美姫に告げた。
「ちょうど、CAT(シティ・エアポート・トレイン)を逃してしまいました。次の電車まで30分あるので、タクシーに乗りましょう」
到着ロビーからすぐにタクシー乗り場へと向かった。
空港から外に出ると、躰が芯から冷える寒波が吹き付ける。マフラーに顔を埋め、秀一の腕に自分の腕を回すと優しく微笑まれ、胸がキュッと縮まった。
秀一が窓越しにタクシーの運転手に目で合図をしてから、扉を開けて美姫をエスコートする。寒さから逃れるように、素早く乗り込んだ。
「疲れていませんか。
少し寄りたいところがあるのですが」
美姫はにこっと笑みを返した。
「私は大丈夫ですよ」
それを受けて秀一は運転手にメモを渡し、車が発進した。
どこへ行くのだろう……
美姫の心に、少しの不安と緊張が広がった。
車はウィーン市内のダウンタウンへと向けて走っていた。懐かしい景色に目を奪われていると、秀一の手が美姫の手を取り、繋いだ。
なんだか嫉妬しているようにも見えて、美姫は思わず秀一を見つめて微笑んだ。すると、美姫の肩に甘えるように秀一が頭を寄せた。
「機内ではあまり眠れませんでした。少し、こうしていていいですか」
「はい」
瞳を閉じた秀一の綺麗に整った睫毛を見つめ、魅入られる。秀一の匂いが自分の服にも沁み込んで、同じ匂いになればいいのにと思った。
この人とずっとこの先もこうしていられるのかと思うと、涙が出るほど幸せな気持ちになり、胸が熱くなる。
どうしようもないくらい……本当に、好き。
タクシーが停車すると、秀一は瞳を開け、ゆっくりと躰を起こした。運転手にお金を支払って礼を言うと、扉を開ける。
手を差し伸べられ、甘く疼く胸と共に手を重ねる。
タクシーを降りた右手には、シュテファン大聖堂があった。
「秀一さんが来たかった場所って、ここですか」
「えぇ、そうです」
秀一はギリギリまで美姫に目的地を隠しておくため、わざと運転手にメモを渡したのだ。
だが、シュテファン大聖堂の周りは誰もおらず、扉も固く閉ざされていた。
そういえば、確か大聖堂へ入れるのは10時までだったはず……
美姫は、せっかく来たのにと残念な気持ちになった。
だが秀一は気にすることなく、小さな扉の方に向かってノックした。
暫くして扉が開き、教会関係者と思われる者と秀一が会話を交わす。
秀一が扉を支えた。
「美姫、どうぞ入って下さい」
「え、いいんですか!?」
驚いて見上げる美姫に、秀一がにっこりと微笑んだ。
「えぇ。貸し切ってますから」
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