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愛するがゆえの罪
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青褪めた表情の美姫に、秀一は彼女の肩を支え、瞳を真っ直ぐに向けた。
「もう一度、聞きます。
それでも貴女は、私と共に人生を歩んで下さいますか。罪を背負って生きる覚悟はありますか」
美姫は、肩を震わせ、涙を浮かべながらも……真剣な表情で見つめる秀一を、瞳に映した。
「はい。何度聞いても、答えは同じです。
私は……私たちは、大きな罪を犯しました。それは、一生背負っていかなければならない。
けれど、その代償を払ってでも一緒にいたいと願ってしまった。
私は、秀一さんと共に人生を歩みたい。後悔は、しません」
秀一はそれでも、表情を崩さなかった。
「オーストリアは非常に永住権が取得しにくく、国籍取得に至っては世界一厳しい国と言われています。
最初の定住許可証を取得して4年以内にドイツ語試験A2に合格しなくてはならず、不合格の場合、母国へ帰されます。それ以降の定住許可取得は1年毎の更新。A2合格後、B1(次のレベル)に合格し、問題がないと判断されればようやく永住許可が下ります。私も定住許可は持っていますが、永住許可証は持っていないので、この申請が必要になります。
国籍を取得するには、30年以上オーストリアに住んでいるか、15年以上オーストリアに住み、かつオーストリア社会に貢献していることを証明できることが条件になります。つまり、オーストリアの国籍を取得するのに15年から30年は掛かるということです。
オーストリア人の配偶者は、6年以上オーストリアに滞在し、配偶者と法的または事実婚が5年以上あれば、国籍を取得することが出来ます」
秀一のライトグレーの瞳が、美姫を正面から見据える。
「いくらオーストリアで叔姪婚が認められているからと言って、簡単に私が貴女に打ち明けられなかった理由が分かりましたか? 非常に困難で、相当の覚悟が必要な上に、長い年月がかかります。
もし、そんな中で美姫の心に少しでも迷いがあれば、私達のウィーンでの生活は容易く破綻してしまうでしょう。
ですから、私は貴女に一切の迷いを無くさせたかったのです。全てを捨てる覚悟をして欲しかったのです。
叔父と姪の禁忌の関係であっても一緒に生きていきたいと、思えるほどの覚悟を」
美姫は秀一の真意を汲み取り、胸を打たれた。
「事実婚であれば5年ですが、法的に夫婦となるには早くて16年、もしかしたら20年は掛かるかもしれません。
美姫はそれでも、法的に夫婦となる道を選びますか」
もし事実婚であれば、永住許可証だけ持っていても認められる。だが、法的に夫婦となるには二重国籍が認められていない日本とオーストリアにおいて、日本の国籍を捨て、気の遠くなるような年月をかけなければならない。
それでも、美姫は……
「私は、秀一さんと法的に夫婦になりたいです。
秀一さんと結婚することが、私の幼い頃からの夢でしたから……」
絶対に叶えられることなどないと思っていた夢が叶うのだ。何十年かかろうとも、美姫は待てると思った。
秀一は優しく微笑み、美姫を抱き寄せると彼女の美しい黒髪に口づけた。
「そうですね。私たちはずっと一生いるのですから、20年経ってから夫婦になるのもいいかもしれませんね」
20年後なら私は44歳、秀一さんは56歳になってるんだ……
そう考えた時、美姫は不安よりも、その先の未来までも秀一と一緒にいられることを幸せに思った。
秀一が、美姫に手を差し出した。
「行きましょうか」
「はい」
秀一の手を、しっかりと握り締めた。
一旦振り返って祭壇画を見つめ、再び正面を向いて歩き出した。
私たちは、ずっとこの先も罪を背負って歩んでいく。
『愛するがゆえの罪』を背負ってーー
「もう一度、聞きます。
それでも貴女は、私と共に人生を歩んで下さいますか。罪を背負って生きる覚悟はありますか」
美姫は、肩を震わせ、涙を浮かべながらも……真剣な表情で見つめる秀一を、瞳に映した。
「はい。何度聞いても、答えは同じです。
私は……私たちは、大きな罪を犯しました。それは、一生背負っていかなければならない。
けれど、その代償を払ってでも一緒にいたいと願ってしまった。
私は、秀一さんと共に人生を歩みたい。後悔は、しません」
秀一はそれでも、表情を崩さなかった。
「オーストリアは非常に永住権が取得しにくく、国籍取得に至っては世界一厳しい国と言われています。
最初の定住許可証を取得して4年以内にドイツ語試験A2に合格しなくてはならず、不合格の場合、母国へ帰されます。それ以降の定住許可取得は1年毎の更新。A2合格後、B1(次のレベル)に合格し、問題がないと判断されればようやく永住許可が下ります。私も定住許可は持っていますが、永住許可証は持っていないので、この申請が必要になります。
国籍を取得するには、30年以上オーストリアに住んでいるか、15年以上オーストリアに住み、かつオーストリア社会に貢献していることを証明できることが条件になります。つまり、オーストリアの国籍を取得するのに15年から30年は掛かるということです。
オーストリア人の配偶者は、6年以上オーストリアに滞在し、配偶者と法的または事実婚が5年以上あれば、国籍を取得することが出来ます」
秀一のライトグレーの瞳が、美姫を正面から見据える。
「いくらオーストリアで叔姪婚が認められているからと言って、簡単に私が貴女に打ち明けられなかった理由が分かりましたか? 非常に困難で、相当の覚悟が必要な上に、長い年月がかかります。
もし、そんな中で美姫の心に少しでも迷いがあれば、私達のウィーンでの生活は容易く破綻してしまうでしょう。
ですから、私は貴女に一切の迷いを無くさせたかったのです。全てを捨てる覚悟をして欲しかったのです。
叔父と姪の禁忌の関係であっても一緒に生きていきたいと、思えるほどの覚悟を」
美姫は秀一の真意を汲み取り、胸を打たれた。
「事実婚であれば5年ですが、法的に夫婦となるには早くて16年、もしかしたら20年は掛かるかもしれません。
美姫はそれでも、法的に夫婦となる道を選びますか」
もし事実婚であれば、永住許可証だけ持っていても認められる。だが、法的に夫婦となるには二重国籍が認められていない日本とオーストリアにおいて、日本の国籍を捨て、気の遠くなるような年月をかけなければならない。
それでも、美姫は……
「私は、秀一さんと法的に夫婦になりたいです。
秀一さんと結婚することが、私の幼い頃からの夢でしたから……」
絶対に叶えられることなどないと思っていた夢が叶うのだ。何十年かかろうとも、美姫は待てると思った。
秀一は優しく微笑み、美姫を抱き寄せると彼女の美しい黒髪に口づけた。
「そうですね。私たちはずっと一生いるのですから、20年経ってから夫婦になるのもいいかもしれませんね」
20年後なら私は44歳、秀一さんは56歳になってるんだ……
そう考えた時、美姫は不安よりも、その先の未来までも秀一と一緒にいられることを幸せに思った。
秀一が、美姫に手を差し出した。
「行きましょうか」
「はい」
秀一の手を、しっかりと握り締めた。
一旦振り返って祭壇画を見つめ、再び正面を向いて歩き出した。
私たちは、ずっとこの先も罪を背負って歩んでいく。
『愛するがゆえの罪』を背負ってーー
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