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共依存

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 内藤から預かった紹介状と超音波写真を担当医である小林に渡す。小林は年齢は30代半ばで黒縁眼鏡を掛け、後ろに一つ髪を纏めており、いかにも優秀な女医といった印象だった。

 紹介状と共に詳しい申し送りが記載されていたらしく、同じことを何度も説明せずに済み、美姫は安堵した。

 クリニックと同様の診察台に座らされ、脚を大きく広げられる。カーテンの向こう側では手袋を嵌めた小林が美姫の膣に片方の指を入れ、もう片方の手で下腹部を優しく押した。

「ッ!」

 あまりの痛さに飛び上がり、脂汗が滲み出た。

 小林はPCの画面に向かって打ち込むと、衣服を整えた美姫に告げた。

「では、この後血液採取をしたら、この紙を持って放射線科に行き、CTとMRIと超音波検査を撮ってきてください」
「超音波検査なら、クリニックでも撮りましたが……」

 内藤は受け取った超音波の写真を眺め、戻した。

「クリニックで撮ったのは経膣超音波検査でしたが、今回は経腹超音波検査といって、下腹部を調べます」

 紙を渡され、血液採取を終えると診察室を後にした。待合室に戻ると、皆の好奇の視線が集中しているのを感じ、美姫は足早に放射線科へと向かった。

 一通り造影撮影が終わり、再び産婦人科で待つ時間は耐え切れないほど長かった。赤ん坊の泣き声や子供の喚き声がやたらと耳につく。妊婦たちからの視線も痛かった。

 やめて。
 やめて!!

 早く、終わって。

 小刻みに震える美姫の手を、大和が上から包み込み、肩を抱く。そんな優しささえも、痛かった。

 呼ばれた診察室には、先程撮った造影写真が既にシャーカステンに挟んで並べられていた。

「卵巣嚢胞ですね。卵巣嚢腫の一種で、卵巣に袋状の腫瘍が出来て、中に液体が溜まる病気です」

 卵巣嚢胞と聞き、美姫は緊張していた表情を緩めた。

 癌じゃ、なかった……

「癌、ではないんですよね?」

 それでも美姫は、確認せずにはいられなかった。

「検査の結果から判断して、良性である可能性は90%ぐらいです。良性か悪性かの最終診断は、手術をして嚢腫を切りとって調べないことにはつかないんです」

 じゃあ、まだ悪性である可能性も10%はあるってこと?

 一旦小さくなりかけた不安が、また大きく膨らんだ。

 小林はシャーカステンに挟まれた写真を、指で指しながら説明した。

「来栖さんの場合は、左の卵巣に拳大の嚢胞が出来ています」

 美姫は膝に置かれた自分の拳を見つめた。

 こんなに大きいものが……

「卵巣嚢胞は自覚症状がないことが多いんですが、これほど大きなものだと下腹部の膨らみや違和感、性交時の痛みや月経痛、吐き気や嘔吐等の症状があるんですが、何か気づきませんでしたか」
「月経はいつも重いのと、ずっと来ていなかったので……下腹部の違和感や吐き気は感じていました」

 でもそれは、精神的なストレスからだと思ってた。

「卵巣嚢胞は基本的に良性の腫瘍なので、生命を脅かすことはありません。嚢胞が小さければ体外法といって、腹部に小さな穴を開けて嚢胞を引きずり出したり、体内法で鉗子を使って体内に施術する方法もあるんですが……
 美姫さんの場合は嚢胞が大きいため開腹手術をし、卵巣を摘出します」
「卵巣を、取るんですか!?」

 そんなことをしたら……

 顔を蒼白にした美姫を宥めるように、小林が説明する。

「たとえ卵巣を摘出しても右側の卵巣は残りますので、妊娠できる可能性はありますよ。
 これは可能性として心に留めておいて頂きたいのですが、摘出した嚢胞が悪性だった場合、そのまま子宮摘出手術に移行することもあります。子宮を摘出すると妊娠は望めなくなりますので、もし妊娠を望む場合は嚢胞部分だけ摘出となりますが、そうなると再発の可能性が残ることを覚えておいてください」

 紹介先が不妊クリニックだったため、小林は美姫たちが子供を望んでいることを知っている。だから、その言葉掛けは優しさだと分かっている。

 けれど、

 排卵もしていない状態で、片方の卵巣まで摘出してしまったら……
 もし嚢胞が悪性だったら……



 この先ずっと、妊娠出来ないかもしれない。



 美姫は絶望的な気持ちになった。
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