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共依存
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治療の説明や手術までの流れを聞き、美姫と大和は病院を後にした。
大和の運転で自宅へ向かう車中、助手席に座った美姫は黙ったまま車窓を眺めていた。大和も掛ける言葉が見つからず、時々気遣わしげに美姫を見つめるだけだった。
自宅に帰り、リビングのソファに肩を落とし、美姫は呆然と座っていた。
最近、若い女性で卵巣嚢胞にかかる人が多くいるというニュースも聞いていた。けれど、それは全て自分の外での世界の出来事として受け止めていた。
まさかそれが、自分の身に降りかかるとは夢にも思っていなかった。当然、妊娠できるものと信じて疑わなかった。
母も大和の母も薫子も経験してきた『妊娠』、『出産』という女性だけが授けられた特権が自分にはないかもしれないのだと思うと、女性として欠如しているような気持ちになった。
大和が美姫の隣に座り、肩を抱いた。
「大丈夫だ。これから頑張って治療していこう?
俺も、支えるから」
大和の言葉を聞き、美姫の瞳が一気に熱くなり涙が込み上げた。
「ッグ……ご、め……ごめんね、大和……ック……ヒクッ」
「だ、大丈夫。大丈夫、だから……泣くなよ、美姫」
どうして、こんな時にまで大和は優しいんだろう。
余計に、辛くなる……
私は、最低の人間だ。
不妊クリニックに行った時は、子供が欲しいという気持ちはそれほど強くなかったのに。子供を育てられるか、愛していけるのか、不安で堪らなかったのに。
いざ妊娠が出来ないかもしれないと分かった途端、こんなにも落ち込み、この先子供が持てないことに絶望するなんて。
将来的に妊娠できる可能性があったとしても、この躰では、すぐの妊娠なんて望めない。
これから先、どのぐらい時間がかかるのかも分からない。
もうこれ以上、お互いを束縛するべきじゃない……
美姫は肩を震わせ、大和を見つめた。
「や、まと……他の女性を探して。
離婚も、大和が望むなら……受け入れるから。
私はもう、妊娠は望めないかもしれない。子供を産むことが出来ない私は、来栖財閥社長の妻ではいられない……」
大和が唇をギュッと噛み、美姫のもう片方の肩を抱き寄せ、正面からきつく抱き締めた。
「頼むから……んなこと、言うな。俺はもう......絶対に、美姫を裏切らない。
大丈夫だ、治療すれば絶対に治る。何年かかろうと、俺がお前を支えていくから。
離婚なんて、望むわけない。誰がなんと言おうと、お前は俺の大切な嫁だ」
「ウゥッ……ウッ、ウッ……」
痛い。痛いよ。
大和の愛情が、痛い……
大和の腕に力が籠もる。
「愛して、くれなくていいから。
あいつのことを想っててもいいから。
だから、俺の元から離れないでくれ。傍に、いてくれ……」
互いの躰が震えている。
大和は美姫の温もりを確かめようと腕に力を込めるのに。確かに彼女はそこにいるのに。きつく抱き締めれば抱き締めるほど、その存在は消えてなくなりそうだった。
大和の腕にきつく抱き締められながら、美姫は低く嗚咽を漏らした。
私たちは、互いにナイフで切りつけ合い、そこから流れ出る血を舐め合っている。
それが、幸せではないと分かっているのに。これを失ってしまえば、もっと不幸になることを恐れてる。
ーー互いの存在に依存し、断ち切れなくなっている。
鼻の奥がツンと鋭く痛んだ。
大和の運転で自宅へ向かう車中、助手席に座った美姫は黙ったまま車窓を眺めていた。大和も掛ける言葉が見つからず、時々気遣わしげに美姫を見つめるだけだった。
自宅に帰り、リビングのソファに肩を落とし、美姫は呆然と座っていた。
最近、若い女性で卵巣嚢胞にかかる人が多くいるというニュースも聞いていた。けれど、それは全て自分の外での世界の出来事として受け止めていた。
まさかそれが、自分の身に降りかかるとは夢にも思っていなかった。当然、妊娠できるものと信じて疑わなかった。
母も大和の母も薫子も経験してきた『妊娠』、『出産』という女性だけが授けられた特権が自分にはないかもしれないのだと思うと、女性として欠如しているような気持ちになった。
大和が美姫の隣に座り、肩を抱いた。
「大丈夫だ。これから頑張って治療していこう?
俺も、支えるから」
大和の言葉を聞き、美姫の瞳が一気に熱くなり涙が込み上げた。
「ッグ……ご、め……ごめんね、大和……ック……ヒクッ」
「だ、大丈夫。大丈夫、だから……泣くなよ、美姫」
どうして、こんな時にまで大和は優しいんだろう。
余計に、辛くなる……
私は、最低の人間だ。
不妊クリニックに行った時は、子供が欲しいという気持ちはそれほど強くなかったのに。子供を育てられるか、愛していけるのか、不安で堪らなかったのに。
いざ妊娠が出来ないかもしれないと分かった途端、こんなにも落ち込み、この先子供が持てないことに絶望するなんて。
将来的に妊娠できる可能性があったとしても、この躰では、すぐの妊娠なんて望めない。
これから先、どのぐらい時間がかかるのかも分からない。
もうこれ以上、お互いを束縛するべきじゃない……
美姫は肩を震わせ、大和を見つめた。
「や、まと……他の女性を探して。
離婚も、大和が望むなら……受け入れるから。
私はもう、妊娠は望めないかもしれない。子供を産むことが出来ない私は、来栖財閥社長の妻ではいられない……」
大和が唇をギュッと噛み、美姫のもう片方の肩を抱き寄せ、正面からきつく抱き締めた。
「頼むから……んなこと、言うな。俺はもう......絶対に、美姫を裏切らない。
大丈夫だ、治療すれば絶対に治る。何年かかろうと、俺がお前を支えていくから。
離婚なんて、望むわけない。誰がなんと言おうと、お前は俺の大切な嫁だ」
「ウゥッ……ウッ、ウッ……」
痛い。痛いよ。
大和の愛情が、痛い……
大和の腕に力が籠もる。
「愛して、くれなくていいから。
あいつのことを想っててもいいから。
だから、俺の元から離れないでくれ。傍に、いてくれ……」
互いの躰が震えている。
大和は美姫の温もりを確かめようと腕に力を込めるのに。確かに彼女はそこにいるのに。きつく抱き締めれば抱き締めるほど、その存在は消えてなくなりそうだった。
大和の腕にきつく抱き締められながら、美姫は低く嗚咽を漏らした。
私たちは、互いにナイフで切りつけ合い、そこから流れ出る血を舐め合っている。
それが、幸せではないと分かっているのに。これを失ってしまえば、もっと不幸になることを恐れてる。
ーー互いの存在に依存し、断ち切れなくなっている。
鼻の奥がツンと鋭く痛んだ。
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