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共依存
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「先日の経膣超音波検査にて、腫瘍が見つかりました」
「腫瘍……」
突然の内藤からの言葉に、美姫はただ繰り返すことしか出来ず、呆然とした。
内藤は、前回撮った超音波写真を見せた。
「これが卵巣で、ここに塊があるのが分かりますか?」
そう言われると、なんとなく黒っぽい塊に中心が白くなっているものが見えるが、それが腫瘍だと言われても美姫にはピンとこなかった。
「うちではそれ以上の検査や治療、手術は出来ませんので、専門の病院を紹介します」
紹介状を書く内藤に、美姫は恐る恐る尋ねた。
「これって……癌ってことですか?」
「良性か悪性か、私では判断出来ませんので、今から紹介する病院で精査してもらってください」
内藤は申し訳なさそうに、頭を振った。
週明けの月曜日、美姫は大和と共に紹介された総合病院の待合室に座っていた。ここは産婦人科のため、待合室にはお腹の大きい妊婦や子供連れもいた。
内藤から『腫瘍がある』と告げられてから、美姫はネットで卵巣や子宮に関する病気を色々と検索したが、検索すればするほど、ネガティブな考えに支配されていった。
もし、卵巣癌だったら……卵巣だけでなく、子宮も摘出することになってしまったら……
私は一生妊娠できず、子供も授かることはないのかもしれない。
そう思うとここにいるのが辛く、視界に子供や妊婦が入り、彼らの声が聞こえてくると涙が滲みそうになる。
「大丈夫か?」
俯いた美姫を心配そうに大和が見つめる。
『大丈夫か?』と聞かれて、『大丈夫じゃない』なんて答えられない。
それに、子供を誰よりも望んでいるのは大和の方だ。大和もまた、不安な思いを抱えているに違いない。
「うん……」
美姫は、力なく笑みを返した。
二人とも帽子を深く被り、眼鏡を掛けているものの、周囲からはチラチラと視線が寄せられていた。美姫は、早く診察室へと行きたい気持ちに駆られた。
「来栖さーん。
来栖美姫さーん、診察室へお入りください」
看護師に呼ばれ、美姫はビクッと躰を震わせた。受付の際に番号で呼ぶか名前で呼ぶか選ぶ項目があり、番号を選択していたのに、看護師が間違えたのだ。
その途端、周囲は『やっぱり……』というように、二人を見つめた。針の筵に座るような美姫の肩を大和が抱き寄せ、診察室へと向かう。
「おめでとうございます」
1人の妊婦が、美姫ににこやかに声を掛けた。
好意で、言ってくれてるんだ……
「どう、も……」
美姫はお辞儀をし、通り過ぎた。眩暈と吐き気で倒れそうだった。
「腫瘍……」
突然の内藤からの言葉に、美姫はただ繰り返すことしか出来ず、呆然とした。
内藤は、前回撮った超音波写真を見せた。
「これが卵巣で、ここに塊があるのが分かりますか?」
そう言われると、なんとなく黒っぽい塊に中心が白くなっているものが見えるが、それが腫瘍だと言われても美姫にはピンとこなかった。
「うちではそれ以上の検査や治療、手術は出来ませんので、専門の病院を紹介します」
紹介状を書く内藤に、美姫は恐る恐る尋ねた。
「これって……癌ってことですか?」
「良性か悪性か、私では判断出来ませんので、今から紹介する病院で精査してもらってください」
内藤は申し訳なさそうに、頭を振った。
週明けの月曜日、美姫は大和と共に紹介された総合病院の待合室に座っていた。ここは産婦人科のため、待合室にはお腹の大きい妊婦や子供連れもいた。
内藤から『腫瘍がある』と告げられてから、美姫はネットで卵巣や子宮に関する病気を色々と検索したが、検索すればするほど、ネガティブな考えに支配されていった。
もし、卵巣癌だったら……卵巣だけでなく、子宮も摘出することになってしまったら……
私は一生妊娠できず、子供も授かることはないのかもしれない。
そう思うとここにいるのが辛く、視界に子供や妊婦が入り、彼らの声が聞こえてくると涙が滲みそうになる。
「大丈夫か?」
俯いた美姫を心配そうに大和が見つめる。
『大丈夫か?』と聞かれて、『大丈夫じゃない』なんて答えられない。
それに、子供を誰よりも望んでいるのは大和の方だ。大和もまた、不安な思いを抱えているに違いない。
「うん……」
美姫は、力なく笑みを返した。
二人とも帽子を深く被り、眼鏡を掛けているものの、周囲からはチラチラと視線が寄せられていた。美姫は、早く診察室へと行きたい気持ちに駆られた。
「来栖さーん。
来栖美姫さーん、診察室へお入りください」
看護師に呼ばれ、美姫はビクッと躰を震わせた。受付の際に番号で呼ぶか名前で呼ぶか選ぶ項目があり、番号を選択していたのに、看護師が間違えたのだ。
その途端、周囲は『やっぱり……』というように、二人を見つめた。針の筵に座るような美姫の肩を大和が抱き寄せ、診察室へと向かう。
「おめでとうございます」
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好意で、言ってくれてるんだ……
「どう、も……」
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