<完結>【R18】愛するがゆえの罪 10 ー幸福の基準ー

奏音 美都

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共依存

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 それから4日後、美姫は検査結果を聞くために再びクリニックを訪れていた。大和はどうしても外せない会議があり、来られなかった。

「ごめんな、一緒に行けなくて……」

 申し訳なさそうに謝る大和に、美姫はぎこちない笑顔を向けた。

「検査結果を聞きに行くだけだから、すぐに終わるし大丈夫だよ。私も仕事の合間に顔を出すぐらいだし」

 大和の過保護が輪を増しているのを感じ、美姫は内心不安になった。

 終わったらすぐにオフィスに戻らないと。

 予め、仕事の昼休み中に済ませたいと伝えてあった。前回は3ヶ月生理が来ていないことで何かあるのではと不安だったが、その日の夜に生理が来たことで安心していた。

 久々に感じる生理は嬉しいものではなかった。重苦しく、子宮の奥がジンジンと響くように痛む。本当なら、今すぐにでも休みたかった。

 ここなら誰にも見られることはないから、少し横になってもいいかな……

 個室になっている待合室のソファに横たわろうとしたところで、TVのスクリーンが切り替わり、案内が表示された。美姫は重い腰を上げ、のろのろと扉を開け、診察室へと向かった。

 内藤は美姫が診察室に入ってくると、柔らかかった表情が一瞬固くなった。

「お掛け下さい」

 美姫は喉を鳴らし、椅子に腰掛けた。検査結果を聞いたらすぐに帰れるだろうという気持ちでいたのに、急に美姫の心が黒雲に覆われていく。

「まずは、血液検査の結果からですが、性感染症はありませんでした。ヘモグロビン値が低いので、鉄剤を処方しておきます。
 それと、FSHとLHが異常高値を示しており、排卵障害が疑われます」
「排卵、障害ですか?」
「えぇ。排卵が起こっていない可能性があるということです」

 そ、んな……
「待ってください! でも私、生理来たんです。
 だから、何かの間違いじゃないですか?」
 
 生理が来たのだから、排卵があるはず。

 美姫は内藤の言葉を信じたくなかった。

「『無排卵月経』と言って、月経が来ていても排卵がされないということもあるんですよ」

 内藤は穏やかに言い聞かせた。

 嘘。いつ、から……
 いつから、排卵してなかったの?

 頭が痺れて閃光が走り、真っ白になった。
 
 顔面蒼白する美姫に気遣うように、内藤は優しく話しかけた。

「美姫さん……?」
「排卵がなければ、子供は出来ないですよね。このまま問題が解決せず、排卵しなければ……私は、子供の産めない躰ということなのでしょうか」

 思い詰めた美姫の声音を宥めるよう、ゆっくり内藤が言い含める。

「無月経排卵の原因は、ストレスや疲労、冷えによる血行不良や不規則な生活習慣が考えられます。なるべくストレスのない環境におき、生活習慣を見直し、躰を温めるようにして下さい。そうすれば少しずつ心と体が本来のリズムを取り戻し、排卵が促される可能性もあります」

 内藤の言うことは尤もであるが、実際にそれを実行に移すのは、幾つもの重要な仕事を抱えている美姫にとって難しいことだった。

 美姫は俯いて肩を震わせてから、縋るように内藤を見上げた。

「父が……もう長くないかもしれないんです。孫の顔を見せて、安心させてあげたいんです。
 何か他に、方法はないでしょうか?」
「もちろん自然な形での治癒が理想的ですが、ピルでの治療や排卵誘発剤を使用して排卵が起これば、妊娠は可能です。ただ、無排卵になったのが数か月も前だと無排卵の状態に体が慣れてしまっているので、薬を飲んでいても女性ホルモンの働きがよくなるまでには時間がかかるかもしれません」
「そう、ですか……」

 他に治療の道はあると聞き、ホッと胸を撫で下ろすものの、逃げ場を塞がれたような気持ちにもなり複雑な心境だった。



「実は、まだ他にも伝えなければならないことがありまして……」



 内藤が言いにくそうに口を開く。
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