微睡みの子どもたち

栗菓子

文字の大きさ
4 / 19

第2章 価値と無価値

しおりを挟む
私って宝石大好きなよくありふれた女の子だけと本当は大嫌いなの。
だっていつもお父様やお母様や他の人が贈り物として貢いでいただけるもの・・。
でもね。私はこんなに大量にあると、どれが一番高価で大切なものかわからなくなるの。嗚呼いけない。
お父様とお母様の厚意を無下にしてはいけないわ。でもねえ・・。

本当に気に入った宝石があったわ。なんか黒い石の間にまるで光るカケラを閉じ込めているような不思議な石だった。でもお父様が眉をひそめてこれは安物でガラグタと言い切って、もう少し良いものを選びなさいと説教した時、なにか異様に冷めきったのよ。

お父様はわかってない。 《わたし》が気にいったのよ。世間や、他者の声など聞かない。 価値って何よ。万人が認めて基準をつくったものでそれを超えた者が美しいの?

よく万人が認める美しさは、なるほど私にも納得がいくが、それだけじゃ駄目かしらと平凡な私は諍いが起こることを望んではいないけど。私が望むのは波長や、同胞みたいな感覚を得る事だ。

私によく合うのはこの安い石なのよ。他の人は笑うけど、この石を身に付けると、不思議なほど安らいで、本来の力が何倍も増幅するようなかんじがするの。気休めと合理的なお父様は判断するでしょうね。
でも分からないわよ。理の学問だってまだまだ未知だし、本当かも疑わしい。 だから私は自分の直感を磨こうときめたの。

私にあわないものはできるだけ関わらずにすんだわ。
私は私の肌にあった感覚に沿ったものしかいらなかった。
それは人間であっても同様だった。どんなに素晴らしい人であっても波長が合わない人とは無理だった。

理性を尊ぶアポロ神より私は私の直感を信じたわ。私は私の選んだ宝石を気に入っている。
私によく映え、私の力を増幅させてくれる。

私はそれに気づき、価値って何かしらと前から思っていたことを疑問に思うようになった。




安場の汚い酒場で浴びるように飲む常連客の男と女が居た。 破滅主義者だろうか。酒場の給仕は眉をひそめた。

女はかすかにずっと手が震えていた。 酒中毒だ。男は、それに気づきながらもそ知らぬふりをして虚勢をはって酒を愉しむフリをした。

男と女は逃げていた。
政治が絡んで小競り合いから戦へとかわり、男と女が一生住むはずだった田舎の農場と農家まで戦禍が広がり、彼らは強制立ち退きをせざるを得なくなった。
皮肉なものだ。 昔は閉鎖的な社会と、単調で重労働を含む農家の生活を嫌っていたのに、何もなくなった今は懐かしいと慕情を募らせる。 

なけなしのためたお金もそろそろ尽きるだろう。子どもは、この苛酷な逃亡に耐えられなかった。風土があわなかったのだ。流行り病であっけなく死んでしまった。女はこの世の終わりだというように嘆いたが、世界は無情にも続く。女も生きるために男に従った。
しかし無意識に酒に女は溺れた。男は自制心が残っていたため酒の量を制御できていた。
女は深い水底に沈んでいる。
女の一部がなくなったからそこで叫んでいる。子どもの名前をずっとずっと呼んでいる。

女はかつては村で一番器量があり美しく聡明だった。
しかし、残酷な歳月は、女を母とさせ、耐えがたい苦痛を味わい、ずっと打ちのめされたような敗者にさせた。
男はその様子に憤怒と同時に遣る瀬無い気持ちになり女から目をそらした。

昔はあんなに輝いて一番価値のある女と言われていたのに・・。嗚呼価値って何なんだ。

男は傷ついた獣のように唸った。彼らと同じような境遇に陥いった者は多いが、それぞれ今を生きるため忘れるか
憶えていても、折り合いをつけて仕事や新しい生活を営むために様々な努力や日雇い労働所へいって日銭を稼いている。
その適応力とたくましさには感嘆している。 
それにひきかえ、女の女々しさや割り切れなさ、非論理的 支離滅裂とした女の精神に男は溜息をついた。

どんなに価値があっても、魅力的でも 試練が起きたら乗り越える術を身に付けないと、あんな風に崩れてしまう。
意外な精神の脆さに男は落胆していた。

ずっと女は子どもの名前を呼んで過去のことを繰り返し言っている。半ば正気ではない。
それに気づいたとき、男は戦慄した。

駄目だ。このままずっと女がこれを言い続けるようなら、俺は女を見放すかもしれねえ。

男は女の繰り言は愛せない。それは生き残るための本能でもあるのだ。
思い切って男は女を酒場から連れ出し汚い溝川のほうへ連れて行った。
「ここで死ぬか。子どもの事は忘れて生き延びるか。どちらかを選べ。このままじゃ共倒れになる。」
そう男は眼光を鋭くして言った。
その瞬間、焦点のあわない女の目が正気に戻った。
当惑気味に女は男を見て途方に暮れたような顔になった。
「俺も酒を止めるからお前も止めろ・・なにか仕事でも見つけよう。」
しばらく女は俯いてじっと男を見ていた。
男は溜息をついて女を置いて去ろうとした。そんな男の様子に慌てて女は小走りに後を追いかけた。
荒療治だがこれしかない。破滅へと向かう女を無理にでも生へと戻すにはこれしかないと男の理性と直感が語っていた。


順調に退屈だと思い漫然と生きていた男にも今更のように試練が訪れて、男は短気な自分を抑えなければずっと付き添ってくれた女さえも殺しかねない。邪魔だ邪魔だと傲慢な悪魔が叫んでいる。

それだけは駄目だ。辛うじて男の人間性、良心というものが男を抑えていた。 
これは男がはじめて味わう試練だった。

子どもは男の子だった。嗚呼せっかく生んでくれたのに、あっという間に神様のところへ還っちまった。

神様あんまりだよ。天を仰ぎながらこれは罰だろうかと男は思った。

俺が悪いのだろうか。唯漫然と不満ばかり呟いて今の境遇にあぐらをかいてなにもしなかったからか?
男は薄情だと思うが、父親になるにはあまりにも短い年月だった。

あの子は本当にいたのかと男は首をひねることもあった。だが現に女は母親としてお腹にずっと抱えていたから、一層親としての嘆きを覚えるのだろう・・。母親とはそういうものだ。

決めた。この女を親戚の家に預けるしかねえ。 お金が無くなったらどこかで働こう。下手すると傭兵になるかもしれない・・。
男のような持たざる者にとって、仕事は限られたものしかなかった。
日雇い労働者。 犯罪に走る者、傭兵や兵士になる者。 稀に幸運にも職人に雇ってくれるやつもいるが、男は無理だろう。
職人という仕事に必要な手先があまり器用ではなかった。


嗚呼・・俺って本当に何もないんだな。今更ながらに思い知ってしまった。何もかも失ってから気づくなんで陳腐で滑稽だと男は笑うしかなかった。

そうしなければ衝動的に自殺しかねない精神状態だった。
運命は不条理で理不尽だ。もう一人の娘もどこかへ売るしかなかった。
恐らく生きてはいまい。

幸運にも男は己を理解するぐらいの勘と頭脳があった。そのため、他の挫折し、墜落する者達より、堕落する自分を許さなかった。
男は、歯を食いしばり、己に鞭うち、この試練に立ち向かうしかなかった。
だが時折男の弱い心が囁くのだ。騙されたんだよ。あんな女。弱くて脆い女。子ども1匹死んだぐらいでいつまでも悲嘆している。うんざりだろう。お前はハズレの嫁を引いたんだよ。
やめてくれ。男のなけなしの良心が抗った。
ハハ・・その良心って何だい。それに価値があるのかい。今は、親が子を殺し、子が親を殺すようになっているよ。今はもう余裕も何もない時代になったんだよ。

価値か・・それをいうなら今は価値そのものが曖昧になっている。唯生きるだけの世界になっているのだから・・しかしなあ。こんな俺でもやはり昔の男なんだよ。女々しい自分が嫌いだ。
どんな女でも選んだのは俺なのだから・・。
その事を忘れないのが良心だ。多分、何もかも忘れたのが悪なんだろうな。
男にもそれがわかった。
男には行動による責任が伴うのだ。
無責任なのは無知な子どもだけでたくさんだ。

今、無教養な男は、己の悪と弱さと戦い、葛藤し、なにかを見出しつつあった。
嗚呼・・娘には悪い事をした。 息子にも・・。

いつかは天で会うだろう。その時まで俺はこの糞みたいな人生を乗り越えなければならない。
男はそう誓って、とるにたらない良心を価値あるものとして、心に仕舞っておいた。

本当に無価値な者っているのかね。俺はいないと思うよ。
男は女を連れて厳しく険しい荒野を歩み始めた。

とある田舎のちょっとした良い酒場で洒落た雰囲気はうら若き女達にも人気があった。
そこには常連の老人たちが居た。
円い机は老人たちの専用の机でもあった。
老人は、ちょっと自慢気に戦の話をした。あのごろはこんなものを食べなかった。
蛇や昆虫など森の動物をとって食べていた。時々、仲間と一緒に集まって敵兵を殺して食料を奪った事もあった。戦で敵を殺し、仲間と一緒に食い物を食べている時が一番安らいだ。と老人は懐かしそうに語った。
俺もだと初老の灰色の髪の男がわかるわかると相槌を打った。
「敵を滅ぼした後、仲間と食べると緊張感が抜けるよな。いつまでも神経が張り詰めていたらいかれるのが早いんだよな。そういうのっていい息抜きになったな。」
老人は嬉しそうにはにかんだ。まるで子供のようだ。
「そうそうなんだよ。あれって本当に良かったんだ。なんか狂って死んでいくやつらもいたけど
俺たちは仲間と大切に食事をしあったんだ。だからかもな。生き延びたのは本当に幸運だった。」
もう一つある。そっと老人はこそっと話した。
「俺たちは、決して仲間の悪口を言わないことにした。どんなに嫌な奴でもだ。戦は非常時だ。
仲間割れはまずいからだ。そして仲間の秘密は守ることにした。どんな些細な事でもだ。」
なんだなんだと灰色の男は好奇心まるみえで尋ねた。
「そいつは面白いな。そうだ。多分仲間がはげているとか太っちょとかそういう欠点じゃないのか?」
意外とあるよな。そういう体に劣等感が或る奴らって多いよな。灰色の髪の男は勝手に納得して
うんうんと頷いていた。
老人はそんな可愛いものだったらよかったけどな。もっと怖いものもあったぜ・・。とぽつりと酒を飲みながら呟いた。
嗚呼駄目だ。こんなんじゃ暴露してしまいそうだ。いけねえな。と老人は首を振ってもう帰るわと
席を立った。手を振って灰色の髪の男にありがとうよ。楽しかったぜと示した。

老人が酒場の扉を開いて閉めると、灰色の髪の男の目が鋭く光った。
「あの男・・確か数年前のイルダの内乱の戦に関わった傭兵だ・・。あの傭兵はそんなに悪くない評判だったが・・。どこか昏い噂も聞いたような・・。思い出せぬな。俺も耄碌したか・・。」
ふうと溜息をして灰色の髪の男は立ち上がりかけたが、もう一度酒を飲み直すことにした。
「女将さん・・もう一度この酒をくれ・・。」
婀娜っぽい肉感的な女将はその姿態を客に振りまきながら、頷いた。
「待ってておくれ。もう少しでできるから。」
良い女だ。勿体ないな。俺がもう少し若ければ付き合いたいが・・そう不埒な思いを灰色の髪の男は女に抱いた。

ぐいと酒を飲み束の間の浮遊感に微睡んでいると、おずおずと卑屈そうに灰色の髪の男に話しかけた男が居た。異臭がする。
誰だ・・。不愉快な気分を味わい、鋭い目で男を見た。
すると、奇妙な男だった。どう考えても若いのに髪はほとんど白髪で異様に年老いて見える貧相な男だった。
「へへへ・・旦那あ。あたしゃ。あいつの事知ってますせ。イルダの内乱の戦にあっしも居たんですよ・・。旦那・・あいつらあ。とんでもないですぜ。あいつら・・仲間の数人が行方不明になったんですよ。どうも敵から隠れる防空壕らしきものに隠れていたらしいんです。いやそこまでは良かったんですかね。どうも出口が敵によって塞がれたんですよ・・。嗚呼可哀相に。あいつらは生きながら埋められたようなもんだ。そして女や子供や民間人もいたんですよ。
ダンナ・・食料も水もほとんどなかったんですよ・・。そいつらどうやって生き伸びたと思いますか・・。旦那・・あいつら。見つかった時なにかを食べ続けていたんですよ。女や子供はどこにもいなかった。骨さえも・・。
嗚呼・・ここまでいえばわかりますよね。旦那・・。閉ざされた空間に何か起きたのか・・。
彼らは決して語らないんですよ。旦那。凄いんだよ。そこにいなかった仲間も決して語らなかった。薄々感づいていたくせにねエ。
本当に運の悪い奴らどもでしたよ。気づいたやつらは胸糞悪い思いと後味が悪い感じを引きずっていた。これが戦ですよ。旦那・・。狂気が正しくまかり通るんです、人間の本性と原点が露わになるんですよ。感受性が鋭いやつらほど気が狂うんです。

旦那よ。あたしらは運が良かったんです。」

必死で汗を拭きながら男は延々と悍ましい話を語り続けた。
なぜ?俺に?
だって旦那はあいつに興味があったもの。裏も教えてあげなくては平等ではない。

理性の神アポロ神は、平等も尊ぷんです。
ねえ。。旦那。人は極限状態におかれたら獣にも悖るモノとなり果てるんですよ。
価値はないんですよ。何の意味もない。
人間なんでねえ。

卑屈で醜い顔をして、醜悪な笑いをして、男はその悲惨な話を語った。
灰色の髪の男は、嫌悪感と忌避感を抱いた。
その醜悪な話を冷静に聞こうとした。だが、抑えきれぬ激情があった。
この男、あの老人が必死で最後まで墓場へもっていこうという秘密をあっさりと暴露したな・・。
彼はわずかに拳を握りしめた。
成程、確かにそこまで悍ましい話が実話だったとしたら、価値など何の意味もない世界だと思うだろう。
だが、その中で必死で約束とか仲間を守ろうとする意志だけは本物だったのだろう。
それは、闇の中で輝く灯火のように見えた。

「その薄汚い口を閉じろ。それは地獄を生き延びた戦士のためにもなる。」
低い声で彼は警告をした。
ひっと卑屈な男は怯えた。せっかく教えたのに何故と当惑気でもあった。
嗚呼この男は心が無いのだ。いや想像力もないらしい。
「余計な事はいわないほうが身のためだ。不愉快だ。失せろ。」
ひいひいと卑屈な男が慌てて鼠のように逃げている様を見て、灰色の髪の男は溜息をついて
酒を煽った。
「恐ろしい話ね・・。」
酒場の給仕がついうっかりと言うように漏らした。
「でも価値かあ・・価値って一体・・。」
給仕にも思うところがあったらしい。

男は時々、世界の価値と無価値を試され、何かを気づかさせられる時が或る。
それは万人にもいえることだろう。
ましてやこの時代だ。彼らは今までの価値基準を破壊して再構築することもある。

嗚呼・・そういえば仲良くなった傭兵も悲惨な生涯だった。
子どもを失って嫁さんは正気と狂気を彷徨した人生を歩み、男は嫁さんを連れて
泥まみれの戦いに塗れた人生を歩んだらしい。過酷だ。
今も生きているだろうか?
そういえば売った子どももいると聞いた。名前は確かターニャと言ったな。




私がお嬢様?とんでもない私は平凡な女よ。強いて言えば、お父様とお母様は本物ではなく、私の顔と身体を目当てに元の親から買ったことかしら・・。表向き養女だけど、私は彼らの愛玩物であり、欲望を満たすための人形でもあったわ。

お父様は私を高級な人形にさせたがったけど、無理ね。私は随分と彼らに奉仕したわ。
本物のお嬢様とは違和感を感じるでしょう。それぐらい馬鹿でもわかるのよ。

私も生活が懸かっているから彼らの倒錯した性癖にも付き合ったわ。こんな時代だもの。
まあ、私も甘い蜜に浸かったけどね。老いれば処分されるもの。そういうところは私も割り切っていたわ。
知っている?お父様が気に入らなかった宝石ね。あれ意味は誠意とか真実があるんだって。
私それを聞いた途端大笑いしたわ。 誠意って何?真実なんで馬鹿らしい。でもそれが大事だという人もいるんでしょうね。

まあ私も気に入っているけどね。
ふふ・・安心して。私は生き延びてみるわ。お父様もお母様もそんなに悪い人ではないわ。
私の人生は私が決める事ヨ。

価値と無価値ね・・まだ私にはわからないけど、頑張って生きる。それだけじゃ駄目かしらねえ。

難しいわね。全く世界ってのは・・。

女は上品に手をあてて溜息をついた。その指には黒い指輪があった。





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

先輩、可愛がってください

ゆもたに
BL
棒アイスを頬張ってる先輩を見て、「あー……ち◯ぽぶち込みてぇ」とつい言ってしまった天然な後輩の話

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

ふたなり治験棟 企画12月31公開

ほたる
BL
ふたなりとして生を受けた柊は、16歳の年に国の義務により、ふたなり治験棟に入所する事になる。 男として育ってきた為、子供を孕み産むふたなりに成り下がりたくないと抗うが…?!

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

処理中です...