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最終章

カグラの戦い

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 ……強いのだ。

 出来れば殺すなと言われたけど……そもそも勝てるかどうか。

 これが、噂に聞く勇者の力。

 力負けなど経験がない拙者と打ち合える膂力。

 それを扱える体力、防御力。

 剣技こそ拙いが……あの女神が渡した聖剣が厄介なのだ。

 伝承通りなら、身体能力の補正がかかる。

 ならばこそ、こやつの相手は剛力を持つ拙者しかいない。

 故に——拙者が相手を致す!



「ガァァァァァァァア!」
「ハァァァァ!」

 剣と剣がぶつかり合い、地面にヒビが入る。
 衝撃によって、体のあちこちから血が流れる。
 それでも互いに一歩も引かず、鍔迫り合いになる。

「ガガガ……」
「くっ……なんという力——だがっ!!」
「カァ!!?」

 腕に魔力集中させ、相手を吹き飛ばす!!

「くらえ!」
「ギャァ!?」

 空いた胴体に剣撃を叩き込み、相手がさらに吹き飛ぶが……。

「……頑丈な身体なのだ。流石は女神の使徒と言われるだけのことはある」
「ガァァァァァ——!!」

 一瞬で傷が癒え、突撃してくる!
 聖剣には自動回復能力をも備えてるらしく、先程からこの繰り返しだ。
 一直線に突っ込んできた勇者を上段の構えにて待ち受け——。

「なめるなァァァ!」
「ガァァ!?」

 剣を振り下ろし、再び吹き飛ばすが……戦闘不能までには至らない。
 あの聖剣さえ破壊できればいいのだが。

「す、すまない……役に立てなくて」

「仕方ないのだ。魔力が残っていまい? 死なないように下がってるのだ」

 救援に来たロレンソには助かったが、流石に戦力不足だ。
 回復が速く、ダメージが追いつかない。
 セレナや結衣にも魔力の上限があるし、まだまだ戦いはこれからだ。
 せめて貯める時間を稼ぐことが出来れば……あの剣を破壊できるかもしれないのに。
 オルガも予想外に苦戦しているし、拙者が早くこやつをどうにかしなくては。





 それからしばらく経ち……助太刀に来た一人が、拙者の方にやってくる。

 その者は槍を投げ、勇者を吹き飛ばす。

「おい! ブリューナグの娘!」

「ライル様! 拙者はカグラなのだ!」

「ふん、イノシシ娘の名前など知らん」

「そ、それより! ご主……アレス様の手助けは!?」

「俺では役に立たないそうだ。そして、貴様が心配なのだろうよ」

「……心配?」

「好きな男に心配されて女冥利につきる……って顔じゃないな」

 何だろ? 嬉しいより……悔しさが増す。

 やっぱり、拙者は守られたいわけじゃない。

 でも、弱いから心配かけちゃうのだ……。

 大好きなアレス様の足を引っ張るなど——あの方の騎士となると誓った拙者がしていいことではない!

「はい、それは拙者の望むところではないので。拙者は、あの方の後ろではなく隣に……いえ、前に立ちたいのですから」

「クク……いい覚悟だ。わかった、ここは俺に任せ」

「いえ、今すぐに終わらせます」

「ほう?」

「少しでいいので、あいつの動きを止めてください」

「……わかった、任されよう」

 すると、瓦礫の山から勇者が飛び出す!

「ガァァ!」

「甘いわっ! 伸びろアスカロン!」

「グァ!?」

 槍が伸び、肩に突き刺さり……そのまま壁に縫い付けられる!

「やれ!」

「感謝いたします! スゥ——」

 身体中に魔力を行き渡らせる……今の私にできる最高の一撃を!

「ハァァァァ——食らうがいい!!」

 渾身の力を込めて、聖剣に叩きつける!

 すると……ピキピキと音を立てて……聖剣が割れる。

「ガァァ?」

「フゥ、これで戦力半減なのだ」

 これで回復機能や身体能力上昇が収まるはず。

 あとは動けなくなる程度痛めつければ……。

「もういい、貴様は行け」

「えっ? し、しかし……」

「役立たずの俺とて、時間くらいは稼げる。こいつを殺さぬようにすればいいのだろう?」

「は、はい」

「ならば行け。騎士とは何だ?」

「……主人を守る者」

「そうだ、貴様の主人はアレスだ。皇帝ではない」

「……感謝するのだ!」

 アレス様が皇帝になれば良いと思っていた。

 でも、今のあの方のなら……任せても良いのかもしれない。

 でも、これもアレス様のお力だ。

 やはり、御主人様を死なせるわけにはいかないのだ!

 その場を離れて、拙者は愛しき人の元に駆け出していく……。
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