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最終章

オルガの戦い

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 ……おかしい。

 右腕を貫かれて、こいつの戦力は半減してるはずなのに。

 どんどん、動きが良くなってくる。

「セアッ!」

「ヒヒヒッ!」

 連続して突くけど……全部かわされる!

「ヒャハハはっ! 無駄ですよォォ!!!」

「なっ!?」

 こ、こいつ! いつの間に正気に!?

「ひひっ!  腕を壊されたのが良かったですねぇ! おかげで目が覚めましたよォォ!!」

「くっ!?」

 は、速い! 斬撃の速さに防御が追いつかない!

「ヒヒッ! 弱いくせに頑張りますねぇ! あの馬鹿力のお嬢さんや魔王アレスならともかく! 貴方では、今の私の敵ではありませんよォォ!!!」

「……そんなことはとっくのとうに知っている」

「はい?」

 僕が弱いことなど、出会った頃からわかってる。
 アレス様のように魔法と剣技を極めるオールラウンダーにはなれない。
 カグラさんのように圧倒的な力で相手を粉砕する前衛にもなれない。
 セレナさんのように状況を把握して、フォローに回るような器用さもない。
 斥候から諜報、戦いまでこなすアスナさんのように、特化した才能もない。
 僕だけが、皆に劣っている。

「そんなことは知っている言った!」

「ヒヒッ! 情けないですねぇ! ではこのまま死になさいぃぃ! ここまで懐に入れば槍など怖くはありませんヨォォ!!」

「それでも!」

 ダメージを受けつつも、気合いを入れて——頭突きを入れる!

「カハッ!?」
「っ!?」

 僕の方だけ頭から血が流れる……。
 女神の力かわからないけど、あいつの体は頑丈になってる。
 それが一番厄介なことだ。

「オルガ君!」
「セレナさん! 来ないでください! 貴方の力はここで使うべきじゃない!」
「で、でも!」
「その力はアレス様のために! カグラさんやアスナさんの治療のために!」

 セレナさんに手伝ってもらえれば勝機はある。
 僕が隙を作って、セレナさんが特大魔法を放てばタダでは済まないはず。
 でも、それではダメだ。
 戦いはまだまだこれからだし、いざという時に回復の手立てがないと。
 今だって、カグラさんやアスナさん、そして僕に回復魔法を使っているのに。
 これ以上、魔力を消費させるわけにはいかない。

「ヒヒッ! そういう泥臭いこともできたんですね!? てっきりお坊ちゃんタイプかと!」

「それで合ってますよ。こんなことしたの初めてです」

「それはそれはいいことです……では続きと行きますかネェェ!」

 どうする? 今の一撃で頭はすっきりした。
 あいつを倒すには確実な一撃を……僕の攻撃でも仕留められる場所。
 そして、槍とは本来一撃必殺でなければならない。
 
「それを入れる隙を作らないと」

「ではでは! わたしにお任せを~!」

「チッ!? 」

「アスナさん!?」

 急に飛び出してきて、横からハロルドに攻撃を加えた!

「こっちは終わりましたよー。といっても、ヒルダ様のおかげですけど」

 後ろを一瞬だけ見て……理解する。
 サスケ殿が、結衣殿から治療を受けている。
 ヒルダ様もセレナさんから受けている。

「なるほど。ではお願いしても?」

「良いですよー。弱い者同士頑張りましょうかね~。私も、戦力としては役に立たないですし。ほんと、やになっちゃいますよね……でも、それを言い訳にはしたくないです」

「はは……ええ!見せてやりましょう!」

「ヒヒッ! 良いでしょう! かかってきなサイィィ!」

「行きますよぉ~!」

 両手に苦無を構え、ハロルドと切り結ぶ!

「この時間、無駄にできない。アスナさんだって、体力の限界を超えているはず」

 僕はその間に精神統一をする。

 自分を信じて、一本の槍にする……。

 槍とは本来、敵に攻撃される前に攻撃する武器。

 突いたなら——殺す。

 そのイメージを持つ……。









 ……今!

「アスナさん!」

「あいさっ!」

 アスナさんが、後ろに飛び離脱する。

「ヒヒッ! 良いでしょう! 貴方ごときの槍など見切ってあげますヨォォ!」

 ジグザグに動きながら、奴が迫ってくる。
 その動きは俊敏で、目では追いきれないほどだ。

「落ち着け……いくら速かろうと敵は一人」

 息を吸い——止める。

 そして——気がついた時、僕は突きを放っていた。

「えっ?」

「きひっ……ば、バカな……私がこんな雑魚に……」

 僕が無意識のうちに突いた槍は、敵の脳天を貫いていた。

「お、終わった?」

「やりましたねー!」

「え、ええ……」

 しかし、次の瞬間……身体が疲労感に襲われる。

 どうやら、全身全霊の一撃だったようですね……。

 ですが、まだ戦いは終わってない。

 僕は足に力を入れ、動き出す——敬愛する主君の元へ。

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