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冬馬君は遅れたものを取り戻す

冬馬君は礼を言われる

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 翌日の金曜日、いつも通りに電車内にて綾と会う。

「おはよう、綾」

「おはよー冬馬君……ホッ、今日は普通だね」

「すまんな、昨日は。つい、嬉しくてな」

「ううん!それ自体は、とーっても嬉しかったの!」

「わかってるよ。我ながらテンションがおかしかったし。さて……今日はバイトだっけ?」

「うん、だから先に帰ってるね。あのね……最近ね、一人でいてもね、声をかけられなくなってきたの……」

「それは……俺がいない時でもか?」

「うん……冬馬君のおかげで……ありがとうございます!」

「うおっ!?急に大声でどうした?」

「えへへ~、だって嬉しいんだもん!」

「まあ、そうだな……嫌な思いもしてきただろうしな……」

「それもあるけど……嬉しいのはそこじゃないの……」

「ん?じゃあ、何が嬉しいんだ?」

「冬馬君がいつも守ってくれるから……だから、その印象というか——イメージみたいのがついたんだと思うの。だから、一人でも冬馬君に守られてるみたいだし……冬馬君が大事にしてくれたから、何があっても怖くないって思えるの……」

「そ、そうか……ああ、何かあればすぐに行くから」

「うん!でも、負担にはなりなくないから……」

「そんなものにはならない。それよりも、何かあってからじゃ遅いから」

「は、はぃ……えへへ……」

 ……この笑顔を見れるなら安いものだ。



 その日の昼休み……今度は真兄がおかしい。

「冬馬!!本当にいいんだな!?フェラーリじゃなくて!?」

「だから!いいって言ってんだろ!スーツも着るな!カジュアルに!普段の真兄で十分カッコいいから!」

「そ、そうか……いや、しかし、花束くらいは……」

「ハハ……先生、花束くらいなら良いと思いますよ?」

「清水……よし、では花束も持って……その前に、まずは親父さんに会えば良いんだな?」

「だから、俺と綾は駅前で待ってるよ。だから、車を一旦置いてから来てな」

「ああ、わかった……ククク、こんなに腕がなるのはいつ以来だろうか……!」

「いや、あのね?喧嘩しに行くわけじゃないからね?」

「で、でも……店長は、まずは一発入れるかって……」  

「……はい?あの店長の一発……?俺でも耐えられないな……」

「なにぃ!?お前でもか!?……これは、覚悟して行く必要がありそうだ……!」

「真兄!安心してくれ!骨は拾ってやるから!」

「あれ?私達って……明日、何しに行くんだっけ……?」

 明日の予定や時間を決め、俺たちは急いで昼食を食べるのだった。



 そして、放課後を迎える。

「じゃあ、冬馬君。またね!」

「おう、気をつけてな。何かあれば遠慮なく連絡してくれ」

「うん!ありがとう!」

 ……一応、空気は読んでくれたようだが。
 ウズウズしている奴が目線を向けているな……。


「冬馬!遊ぼうぜ!」

「元気がいいな、マサは」

「う、うるせえかな?俺、悪気はないんだけど……」

「まあ、人によってはそうかもな。まあ、俺は嫌いじゃないけど。お前がいるから、このクラスは男子の仲が悪くはないからな。お前が見た目や性格で差別しないことを俺は知っている」

 ……これは、1クラスを観察してて気づいたことだ。
 まだぼっちの頃に、どんなクラスかと思い調べて気づいた。
 目立たないやつにも、分け隔てなく接していて感心したのを覚えている。

「へへ、そっか。やっぱり、嬉しいこと言うな」

「……やっぱり?」

「冬馬は知らないかもだけどな……一年の時」

「同じクラスだろ?」

「おっ、知ってたのか?」

「もちろん。何人がいるけど、お前は忘れないさ」

「へへ、そうか……なんか、俺がうるさいとかウザいって言われてたことがあってよ」

「……1年の時だな?」

 マサは、クラスの仲を良くしようと積極的に行動していたからな
 それがウザい奴もいただろうな……俺のように。

「ああ」

「先に謝っておく。あの時はすまなかった。俺も邪険にしたかもしれない」

「もちろん、最初はなんだこいつって思ったけど……何か理由があるんだろうし。何より、冬馬は俺を庇ってくれただろ?」

「なんの話だ?」

「クラスの連中が俺の悪口言ってた時に、お前がこう言ってくれたんだ。ぼっちの俺が言うのもアレだが、あいつは良いやつだと思うって……クラスの皆で楽しくやろうとしているだけだろうって……」

「いや……アレは……ムカついただけだ。集団でぐちぐち言ってるなら本人に言えってんだ。ああいうのは好かん」

「へへ、俺はそれを教室の前で偶々聞いててな……ああ、こいつは何か事情があるだけで、良いやつなんなんだろうなって思ったんだ。仲良くしたいと思ったけど、何か理由があったんだろうなって思ったから我慢したんだ」

「なるほど……だから、あんなに喜んでいたのか」

 俺が、マサに好かれてる理由が判明したな。

「そういうことだ……というわけで遊ぼうぜ!」

「いいけど、2人で何をするんだ?博は今日は帰ったし……」

「ちょっと待ってろ!アイツがいたはず!!」

 奴は返事も聞かずに、教室から飛び出していった……。

「やれやれ……俺の周りにはいないタイプだな……まあ、いい奴だから良いけどな」



 そう言って連れてきたのは……啓介だった。

「えっと……何がどうなってるの?」

「おい?啓介は文化祭の準備が……」

「それは確認した!」

「うん、大丈夫だよ。丁度終わったところだから」

「そうか、ならいい」

「啓介!俺と冬馬と遊ぼうぜ!」

「え?ぼ、僕も良いのかな……?」

「良いに決まってんだろ!クラスの友達だ!」

「ククク……啓介、諦めろ。そいつはしつこそうだ」

「ひどくね!?」

「ううん!嬉しいよ!でも……何するの?僕は運動もあんまりだし……」

「何かやってみたいことはないのか?」

「うーん……友達とカラオケとか行ってみたかったけど……」

「おっ!良いじゃん!カラオケ行こうぜ!」

「で、でも……流行りの歌とか歌えないし……皆が知らない歌ばっかりだし……」

「気にするな、啓介。カラオケとは、自分が歌いたいものを歌う場所だ。そもそも他人に強制されることが間違っている。少なくとも、俺たちの間では空気を読む必要はない」

「そうだぜ!」

「……じゃあ、行ってみようかな……」



 そしてタイプがまるで違う三人にもよる、カラオケが始まったのだが……。
 ……いかん、啓介に強制したくなってきた。
 さっき好きなの歌えって言ったばかりなのに……。
 だが……啓介は歌が上手かった!
 しかも俺と違い、女性的な声の持ち主だ。

「うおー!上手いな!」

「だな、意外と言っては失礼か」
 
「そ、そうかな?女性歌手のアニソンなんだけど……」

「俺、これ知ってるぜ!ドラグスレイ○!って叫ぶやつだ!」

「俺はもちろん知っている。ラノベの金字塔だからな……啓介、断ってもいいから聞いてくれ……スレイヤー○リターンの方は歌えるか?」

「え?歌えるよー。入れとくねー」

 その後、俺は大好きな歌を聞き大満足である。

 ……え?マサはだって?

 うん、元気な声だったな……。

 それ以上は言うまい……。

 ただ、もう来ることはないかもしれない……。

 なので、マサとは今度ボウリングの約束をしておいた……。
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