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冬馬君は遅れたものを取り戻す

清水さんの日常

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 最近の私は、とても幸せです。

 まずは、こんなことがありました。



「ねえねえ!浜中君とはどうなったの!?」

「べ、別に~……たまに一緒に帰ったりするだけだし……」

「あら?結構楽しそうに見えたけど?」

「そ、そんなことないし!ていうか!今はアタシの話はいーし!……加奈の兄貴が名倉っちってこと?」

 そう、愛子にも加奈の事情を説明することにしたんだ。

「そうよ、あっちは父の姓を名乗ってるわ。そして、私は母の姓をね。小学生の頃に両親が離婚してね……それ以来、会えてなかったのだけど……中学生の時に、何回か会いに行って……でも、来るなって言われちゃって……当然よね、私も当時は子供だったから……中学の制服を着て、大人の男になった兄さんに迫るんだから……」

「そうなんだ……あー、確かに苗字も違うし勘違いされるかも……」

「捕まりはしないけど、誤解は与えちゃうよね……」

「そうね……でも、最近になって少し会ってくれるようになったの。これも綾のおかげね」

「え……?どういうこと?」

「何故か兄さんから『会うか?』って連絡が、たまに来るようになって……気になって聞いてみたのよ。そしたら、兄さんが言ってたの。弟みたいに思ってる奴が、勇気を出して一歩を踏み出したんだ。なら、兄貴分の俺がいつまでも逃げてちゃいけないって……」

「そ、それって……」

「当時は知らなかったけど、吉野のことでしょうね。まだ、綾と付き合う前のことね。人と関わることを怖がってた奴に、助言をしたらしいの。だから、その自分がいつまでも私を怖がってちゃいけないって……」

「そうなんだ……先生が冬馬君に……だから、あの時傘に入れてくれたんだ……」

 今度会ったらお礼を言わないと……! 
 でも、そういうのはいらないって冬馬君も言ってた……。
 うん……何か私にできることがあったら、その時は力になろう……!

「なんで加奈が怖いのさ?」

「……兄さんは母さんに捨てられたと思っているから……あと、父親はろくでもない人で……家族というものが、怖いのだと思う……」

「そっかぁ~……でも、良かったじゃん。これからは会ってくれるんでしょ?」

「そうね……綾、ありがとう。貴方が吉野の傷を癒してくれたおかげで、間接的に兄さんと私の仲を取り持ってくれたわ」

「そ、そんなこと……わ、私はなにも……」

 ただ、冬馬君を知りたくて……近づきたくて……。

「そうだね~、結果的にアタシも綾に助けられたし。アタシが綾の友達じゃなかったら、吉野は動かなかっただろうし~というか、知ることができなかったよねー」

「それは……そうかもだけど……」

「綾、ありがとう。貴女と友達になれて良かったわ。もちろん、それだけが理由じゃないわよ?こんな捻くれた私に、貴女はいつも明るく接してくれるわ」

「綾、アタシからもありがとう。綾と友達になって良かったし。こんなうるさいアタシに、いつも優しく接してくれて」

「そ、そんな……うぅー……わ、私こそ、ありがとう……2人がいなかったら、きっと学校来るの嫌になってた……愛子と加奈がいたから、学校にも来られて……楽しく過ごせて……グスッ……」

「な、泣くなし!」

「そういう貴女もね?」

 ……なんだが、とても幸せな気分になりました。
 私が勇気を出したことで、誰かの手助けになっていただなんて……。
 そして、人と人は繋がっているんだなって……。
 その時はわからなかったけど、こんな風にどこかで……誰かと誰かを繋げてたんだ。



 次は……冬馬君のことかな。

 これは難しい問題です。
 最近の冬馬君は、新しい友達ができたみたいでよく遊んでいます。
 あと、昔からの知り合いの歳上の人達とも。
 なので、私との時間も少し減ったりもしました。
 そんな話を、ある日お母さんにしていました。

「でも、嬉しいんでしょ?」

「うん!それはもちろん!」

「でも、少しさみしいと……」

「うん……ワガママだよね……」

「そんなことないと思うわ。嬉しいと思える子に育ってくれて、お母さんは嬉しいわ」

「お母さん……」

「それに、冬馬君に言えばいいんじゃない?」

「……ウザくないかな……?束縛になっちゃうし……友達と遊ばないで私と遊んでなんて……嫌われたくないもん……」

「こんなに可愛く産んであげたのに、随分と自信がないわね。まあ、それだけ好きということなんでしょうけど。そんなことで嫌う子じゃないでしょ?」

「うん……それはわかってるの……それに嬉しいのは嬉しいし……」

「まあ……あの子なら、そのうち察してくれるわよ」

 とまあ、そんなこともあったり……。


 そんなある日、私は一人でデパートに行きました。

「えっと……確か、冬馬君が良いって言ってたのは……あっ——あった!」

 私は、冬馬君が良いと言ってた財布持ってレジに向かいます。

「こ、これ、お願いします!」

 あ、あぅぅ……こんなの買ったことないから緊張しちゃうよぉ~。

「男物の財布ですね。こちらはプレゼントですか?」

「は、はい!彼氏にプレゼントです!」

 か、彼氏にプレゼント……!
 素敵な響き……!
 これも夢だった……!

「ふふ、では包みますね」

「お願いします!」

 商品を抱えた私は、上機嫌で帰宅しました。

「えへへ~、冬馬君……喜んでくれるかな?びっくりするかな?」

 いつも冬馬君には助けられてたり、嬉しい気持ちにさせられてばかり。
 私だって、大好きな彼氏が喜んでくれることしたいもん!
 ……え、エッチなことは……まだ、少し勇気が出ないけど……はぅ。



 そんな中、冬馬君がデートに誘ってくれました!
 えへへー、やっぱり冬馬君は素敵な彼氏さんです!
 もしかして、私が寂しいのを察してくれたのかな?

 なんと、念願だった遊び場にも連れてってくれました!
 それに……もぅ、冬馬君がかっこよくて……!
 エスコートから、ナイトまで……。
 それに……俺の側にいろって……もう!好き!大好き!

 何より……プレゼントを喜んでくれた!
 えへへ、私も嬉しい気持ちでいっぱいてす!
 ………よくよく考えたら、これってすごいと思うの。
 私が嬉しくて、冬馬君も嬉しくてって……。


 ……ただ、後日冬馬君のテンションがおかしいことなったけど……。
 で、でも、それだけ喜んでくれたってことだし……。
 そ、それに……私とイチャイチャしたいって……。
 わ、私もしたいけど……でもでも!まだ恥ずかしいというか……はぅ。


 そんな幸せな日々を過ごしていたのですが……。

 最近、少し気になることがあります。

 冬馬君のお陰で声をかけられることや、視線が減ったのだけど……。

 たまに、ネットリするような視線を感じる気がして……。

 バイト帰りとか……たまに一人で帰るときとか……。

 き、気の所為だよね?

 こんなよくわからないことで、冬馬君の邪魔しちゃ悪いし……。

 ただでさえ、散々迷惑かけてるのに……。

 もちろん、冬馬君は気にしないっていうのはわかってるんだけど……。

 ……今度、相談してみようかな?

 冬馬君も、何かあってからじゃ遅いって言ってたし……。

 でも、心配かけちゃうなぁ……。

 私はベッドの上を転がり、悶々とするのでした……。
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