田舎貴族の学園無双~普通にしてるだけなのに、次々と慕われることに~

おとら@ 書籍発売中

文字の大きさ
58 / 60

一撃

しおりを挟む
 野営地の外を走っていると、すぐに異変に気付く。

 これは慣れ親しんだ空気感……戦いの匂いだ。

「……風の結界!」

 匂いがする方に最大の結界を伸ばし、音を拾おうとする。

「くそっ! 数が多すぎる!」

「情けないこと言うな! この先には学生達がいるのだ!」

「しかし、我々だけでは……!」

「わかってる! だが、フール殿が来るまで持ちこたえるぞ!」

 ……どうやら、広範囲で魔物が襲ってきてる?
 ここを突破されると、すぐに野営地の中にやってきてしまう。

「どうする? 勝手な真似をしていいものか」

 俺がいくら生徒の中では強くとも、実戦となれば話は別だ。
 何より、指揮系統を混乱させる恐れがある。
 その時、俺の側に見知った気配がした。

「ユウマ殿!? ……ここで何をしているのですか?」

「フールさん。いえ、少し運動をしてました。それより、魔物が襲ってきてるようですね?」

「気づいているのですね。ええ、なので野営地に入ってください。ここは、我々が何とかしますので。もしかしたら、防衛する際に手伝ってもらうことはあるかもしれないですが」

「ですが、あっちもだいぶキツそうですよ? ……俺は邪魔になりますか?」

 ここで邪魔と言うなら、大人しく防衛に回るつもりだ。
 多分、この人が野営地の中の冒険者で一番強い人だし。

「……いえ、貴方の実力は校長先生から伺っておりますので。おそらく、私でも勝てるかどうか……恥を忍んで頼んでもいいでしょうか?」

「いえいえ、まだまだ若輩者ですよ。ですが、俺でよければ好きに使ってください。ちなみに、俺の魔法なら一回きりですが敵を一掃できます」

 こういう言い方を出来る人は信頼できる。
 状況を把握した上で、プライドを捨てられる人は中々いない。

「本当に学生さんなんですかね? まったく、指揮系統には従うようにという手間が省けましたよ。では、今だけは命令をします。この先にいる魔物を倒すことにご協力をお願いします。多分、そこが一番数が多いはず。私は、右回りから魔物達を駆逐していきますので」

「わかりました、フールさんもお気をつけて」

「ユウマ殿こそ、無理はしないように」

 フールさんが走り去った後、俺は軽く伸びをする。
 これはライカさんに教わったことで、戦う前ほどリラックスするべきだと言われてきた。
 そうしないと、実力の半分も出せないとか。

「……他の箇所もあるけど、そっちは頼りになる仲間がいる。だったら、俺はまずはここを片付けるとしよう」

 足に風をまとい、その声のする方へ駆け出すのだった。




 ◇


 走ること数分後、戦いの音が聞こえてくる。

 オークにゴブリンにコボルト、更には上位種もいるみたいだ。

 何より、その数が多い……ここだけで数百体はいそう。

「ひるむなっ!」

「怪我人は下がれ!」

「は、はい!」

 ……まずは怪我人の治療が先か。
 俺は後方に固まっている人たちに近づく。

「君は……生徒じゃないか!」

「ユウマと申します。フールさんの許可を得ていますのでご安心を」

「その名前は……確か学生とは思えないと聞いていた」

「ひとまず、ここにいる方々に回復を……聖なる水よ、傷ついた者を癒したまえ——エリアヒーリング」

 青い光が彼等を包み込み、その傷を癒していく。
 回復魔法は同意じゃないから、重傷者がいなくて良かった。

「おおっ……! かたじけない!」

「これで我らも戦えます!」

「君は下がって回復に専念を!」

「いえ、ここは俺に任せてください……責任者の方はいますか!?」

 すると、すぐに銀の鎧を着た兵士さんがやってくる。
 体格も大きく、正に歴戦の騎士といった感じだ。

「私が責任者のモルグだ。まずは回復に感謝しよう。しかし、君は生徒のようだが?」

「ユウマと申します。フールさんから許可は得ていますのでご安心ください」

「君が……」

「俺の魔法で敵を一掃します。兵士達を一度下がらせていただきたい」

「……魔法の腕は校長先生から話は聞いている。わかった、お願いしよう」

「ありがとうございます。それでは、タイミングはお任せしますので」

 モルグさんが頷き、すぐに最前線に踵を返す。
 俺はその間に、目を閉じて特大の魔法を放つための準備に入る。





 ……きたかな。

 戦場の空気が変わったので目を開けると、そこには魔物達しかいなかった。

「ユウマ殿!」

「はいっ! 氷の波よ、全てを凍らせろ——アイスノヴァ」

「ギャキャ!?」

「ブルァ!?」

 俺の放った、幅数十メートルに及ぶ氷の波が魔物達を飲み込んでいく。
 徐々に外側に広がっていき……ほとんどの魔物を凍らせた。

「はぁ……はぁ……流石に全部はきついや。魔力も結構使っちゃったなぁ」

「……これは上級魔法……冒険者Aクラス級だと?」

「宮廷魔導師でも、打てる者は限られてるのに……」

「あ、後は任せて良いですか?」

「む、無論だ! 例は後で必ず!  皆の者、今のうちに殲滅するぞ!」

「「「はっ!」」

 兵士さん達が動くのを見送り、その場でひと息つく。

「さて、魔力はほとんど使ってしまったけどセリス達も心配だ」

 俺は急いで野営地へと引き返すのだった。

しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

ダンジョン冒険者にラブコメはいらない(多分)~正体を隠して普通の生活を送る男子高生、実は最近注目の高ランク冒険者だった~

エース皇命
ファンタジー
 学校では正体を隠し、普通の男子高校生を演じている黒瀬才斗。実は仕事でダンジョンに潜っている、最近話題のAランク冒険者だった。  そんな黒瀬の通う高校に突如転校してきた白桃楓香。初対面なのにも関わらず、なぜかいきなり黒瀬に抱きつくという奇行に出る。 「才斗くん、これからよろしくお願いしますねっ」  なんと白桃は黒瀬の直属の部下として派遣された冒険者であり、以後、同じ家で生活を共にし、ダンジョンでの仕事も一緒にすることになるという。  これは、上級冒険者の黒瀬と、美少女転校生の純愛ラブコメディ――ではなく、ちゃんとしたダンジョン・ファンタジー(多分)。 ※小説家になろう、カクヨムでも連載しています。

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】 【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】 ~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~  ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。  学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。  何か実力を隠す特別な理由があるのか。  いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。  そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。  貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。  オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。    世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな! ※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。

【完結】悪役に転生したのにメインヒロインにガチ恋されている件

エース皇命
ファンタジー
 前世で大好きだったファンタジー大作『ロード・オブ・ザ・ヒーロー』の悪役、レッド・モルドロスに転生してしまった桐生英介。もっと努力して意義のある人生を送っておけばよかった、という後悔から、学院で他を圧倒する努力を積み重ねる。  しかし、その一生懸命な姿に、メインヒロインであるシャロットは惚れ、卒業式の日に告白してきて……。  悪役というより、むしろ真っ当に生きようと、ファンタジーの世界で生き抜いていく。  ヒロインとの恋、仲間との友情──あれ? 全然悪役じゃないんだけど! 気づけば主人公になっていた、悪役レッドの物語! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタにも投稿しています。

最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)

みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。 在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

世界最強の賢者、勇者パーティーを追放される~いまさら帰ってこいと言われてももう遅い俺は拾ってくれた最強のお姫様と幸せに過ごす~

aoi
ファンタジー
「なぁ、マギそろそろこのパーティーを抜けてくれないか?」 勇者パーティーに勤めて数年、いきなりパーティーを戦闘ができずに女に守られてばかりだからと追放された賢者マギ。王都で新しい仕事を探すにも勇者パーティーが邪魔をして見つからない。そんな時、とある国のお姫様がマギに声をかけてきて......? お姫様の為に全力を尽くす賢者マギが無双する!?

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

処理中です...