48 / 60
見守る
しおりを挟む
……来る。
そう思った瞬間、茂みの向こうからゴブリンが飛び出してきた。
「ゴブリンが二体!」
「我の方もゴブリン二体!」
「私の方もゴブリン二体! 二人はいけるわね!?」
「「もちろん!!」」
「それじゃ、目の前の敵を倒してちょうだい! カレン、貴女はいつでも魔法を使える準備と、他に敵が来ないか警戒を!」
「は、はいっ!」
セリスの指示を受け、俺は目の前の敵に集中する。
鞘に手を当てたまま、地を這うように駆け出す。
「ケケー!」
「グキャャ!」
身体強化やバルムンク、そして魔法はなし……更に最小限の動きで仕留めるか。
「グキャァ!」
「遅いよ」
棍棒が振り下ろされるより早く踏み込み、抜刀により首を切り落とす。
ゴブリンは後ろに倒れ、棍棒はカランカランと音を立てて地面に落ちる。
すると抜刀後の隙を狙ったのか、もう一体のゴブリンが棍棒を振り下ろす態勢に入っていた。
「ケケッ!」
「よっと」
俺は左手を、振り下ろされる棍棒の速さに合わせる。
そして体をずらしつつ、そのまま受け流すように地面に誘導した。
相手は地面に棍棒を叩きつけ、戸惑った様子だ。
「ケケ!?」
「どうして当たった感触がないって顔だね——」
無防備に晒された首を斬り落とす。
ライカさんに教わった体術だけど、実戦で練習できたのは大きいや。
「さて、他はどうかな?」
「オォォォ!」
「グキャ!?」
たった今、レオンがゴブリンの頭を拳で粉砕した。
流石にゴブリン程度には手こずらないみたい。
「くそっ、我の方が遅かったか」
「ふふん、俺には速さがあるからね」
「我の課題だな……さて、どうする?」
「もちろん、見守る方向で。セリスが、それを求めてないから」
俺とレオンの視線の先では、セリスがゴブリン二体と格闘している。
交互に攻め込まれ、少し手こずっているようだ。
セリスの腕なら倒すことは難しくない……ただ、実践と稽古は違う。
身体が硬くなって、思うように動かないのだろう。
「はぁ……はぁ……」
「セリスさん! 手伝います!」
「ごめんなさい、カレン。ここは私にやらせて」
「……で、でも」
「カレン! セリスに任せよう! セリス、君なら勝てるはずだ」
カレンが俺の方を見てくるので、俺はコクリと頷いた。
すると、カレンも覚悟を決めたらしい。
俺もいつでも行ける用意をして、戦いを見守ることにする。
◇
……ユウマ、ありがとう。
私を信じて任せてくれて。
私は貴族だし、戦いを生業とするかはわからない。
それでも、このままじゃ何もかも中途半端だ。
この先はどうなるかわからないけど、自分の道を決める自信が欲しい。
「ケケ!」
「クカー!」
「っ……!」
怖い。
身長は私より小さいし、振り下ろされる棍棒だって速くはない。
なのに、身体が思うように動かない。
兵士や冒険者達は、いつもこんなことをやっているのね。
お金や名誉もあるけど、我々のことを守るためにも。
「……私も守りたい」
「ケケッ!」
小さい頃の私はお転婆で、いつか騎士になりたいって思ってた。
でも女の子だと自覚し、侯爵令嬢の立場を知った時……そんなことは無理だと思った。
いつか好きでもない相手に嫁ぎ、国のために奉仕するのだと。
だから、ユウマと会うことも止めた……こうなるってわかってたから。
「でも、別に騎士になって守ってもいいわよね?」
「ギャギャ!」
次々くる相手の棍棒を避ける。
すると、次第に体が軽くなってきた。
「いいよ! セリス!」
「……ほんと、人の気も知らないで」
出会った彼は相変わらず鈍感で、ちっとも気づきやしない。
でも、身分や性別で差別しないし優しい。
そういうところが、昔から好きだった。
……私も、昔みたいに素直になろうかしら。
あの頃みたいに、女とか関係なくがむしゃらに。
「ギャギャ!」
「こんの——いい加減にしなさい!」
「ギャギャ!?」
身体強化を施し、相手の棍棒を弾き返す。
すると、相手はたたらを踏んで後退した。
同時に距離を取って、魔法を撃つ態勢に入る。
狙いはこちらに迫ってくるもう一体のゴブリンだ。
「土の礫よ、敵を撃て——ストーンバレット!」
「グキャ!?」
敵が両手で防御した隙をついて前に出る!
「いまっ!」
「ガ……」
思い切り剣を振り下ろし真っ二つにすると、ゴブリンが魔石となる。
「で、できた」
「セリス! 後ろ!」
「っ……!」
咄嗟に前に出ると、後ろから風切り音がする。
振り返ると、ゴブリンが棍棒を空振りしていた。
危なかったけど、今は隙だらけ……なら!
「ヤァァァァ!」
「グキャャー!?」
無防備になったゴブリンの首を斬り落とし……こちらも魔石になる。
「……倒せた?」
「セリス! 凄いや!」
「……あ、当たり前じゃない! 私にもできるわよ!」
「うんうん、昔みたいなお転婆なセリスだ……ちょっと、今のは冗談……あれ?」
私は怯えるユウマに近づき、その身体を抱きしめる。
この感謝の気持ちが伝わるように。
そしたら……少しだけ、私の道が見えた気がした。
そう思った瞬間、茂みの向こうからゴブリンが飛び出してきた。
「ゴブリンが二体!」
「我の方もゴブリン二体!」
「私の方もゴブリン二体! 二人はいけるわね!?」
「「もちろん!!」」
「それじゃ、目の前の敵を倒してちょうだい! カレン、貴女はいつでも魔法を使える準備と、他に敵が来ないか警戒を!」
「は、はいっ!」
セリスの指示を受け、俺は目の前の敵に集中する。
鞘に手を当てたまま、地を這うように駆け出す。
「ケケー!」
「グキャャ!」
身体強化やバルムンク、そして魔法はなし……更に最小限の動きで仕留めるか。
「グキャァ!」
「遅いよ」
棍棒が振り下ろされるより早く踏み込み、抜刀により首を切り落とす。
ゴブリンは後ろに倒れ、棍棒はカランカランと音を立てて地面に落ちる。
すると抜刀後の隙を狙ったのか、もう一体のゴブリンが棍棒を振り下ろす態勢に入っていた。
「ケケッ!」
「よっと」
俺は左手を、振り下ろされる棍棒の速さに合わせる。
そして体をずらしつつ、そのまま受け流すように地面に誘導した。
相手は地面に棍棒を叩きつけ、戸惑った様子だ。
「ケケ!?」
「どうして当たった感触がないって顔だね——」
無防備に晒された首を斬り落とす。
ライカさんに教わった体術だけど、実戦で練習できたのは大きいや。
「さて、他はどうかな?」
「オォォォ!」
「グキャ!?」
たった今、レオンがゴブリンの頭を拳で粉砕した。
流石にゴブリン程度には手こずらないみたい。
「くそっ、我の方が遅かったか」
「ふふん、俺には速さがあるからね」
「我の課題だな……さて、どうする?」
「もちろん、見守る方向で。セリスが、それを求めてないから」
俺とレオンの視線の先では、セリスがゴブリン二体と格闘している。
交互に攻め込まれ、少し手こずっているようだ。
セリスの腕なら倒すことは難しくない……ただ、実践と稽古は違う。
身体が硬くなって、思うように動かないのだろう。
「はぁ……はぁ……」
「セリスさん! 手伝います!」
「ごめんなさい、カレン。ここは私にやらせて」
「……で、でも」
「カレン! セリスに任せよう! セリス、君なら勝てるはずだ」
カレンが俺の方を見てくるので、俺はコクリと頷いた。
すると、カレンも覚悟を決めたらしい。
俺もいつでも行ける用意をして、戦いを見守ることにする。
◇
……ユウマ、ありがとう。
私を信じて任せてくれて。
私は貴族だし、戦いを生業とするかはわからない。
それでも、このままじゃ何もかも中途半端だ。
この先はどうなるかわからないけど、自分の道を決める自信が欲しい。
「ケケ!」
「クカー!」
「っ……!」
怖い。
身長は私より小さいし、振り下ろされる棍棒だって速くはない。
なのに、身体が思うように動かない。
兵士や冒険者達は、いつもこんなことをやっているのね。
お金や名誉もあるけど、我々のことを守るためにも。
「……私も守りたい」
「ケケッ!」
小さい頃の私はお転婆で、いつか騎士になりたいって思ってた。
でも女の子だと自覚し、侯爵令嬢の立場を知った時……そんなことは無理だと思った。
いつか好きでもない相手に嫁ぎ、国のために奉仕するのだと。
だから、ユウマと会うことも止めた……こうなるってわかってたから。
「でも、別に騎士になって守ってもいいわよね?」
「ギャギャ!」
次々くる相手の棍棒を避ける。
すると、次第に体が軽くなってきた。
「いいよ! セリス!」
「……ほんと、人の気も知らないで」
出会った彼は相変わらず鈍感で、ちっとも気づきやしない。
でも、身分や性別で差別しないし優しい。
そういうところが、昔から好きだった。
……私も、昔みたいに素直になろうかしら。
あの頃みたいに、女とか関係なくがむしゃらに。
「ギャギャ!」
「こんの——いい加減にしなさい!」
「ギャギャ!?」
身体強化を施し、相手の棍棒を弾き返す。
すると、相手はたたらを踏んで後退した。
同時に距離を取って、魔法を撃つ態勢に入る。
狙いはこちらに迫ってくるもう一体のゴブリンだ。
「土の礫よ、敵を撃て——ストーンバレット!」
「グキャ!?」
敵が両手で防御した隙をついて前に出る!
「いまっ!」
「ガ……」
思い切り剣を振り下ろし真っ二つにすると、ゴブリンが魔石となる。
「で、できた」
「セリス! 後ろ!」
「っ……!」
咄嗟に前に出ると、後ろから風切り音がする。
振り返ると、ゴブリンが棍棒を空振りしていた。
危なかったけど、今は隙だらけ……なら!
「ヤァァァァ!」
「グキャャー!?」
無防備になったゴブリンの首を斬り落とし……こちらも魔石になる。
「……倒せた?」
「セリス! 凄いや!」
「……あ、当たり前じゃない! 私にもできるわよ!」
「うんうん、昔みたいなお転婆なセリスだ……ちょっと、今のは冗談……あれ?」
私は怯えるユウマに近づき、その身体を抱きしめる。
この感謝の気持ちが伝わるように。
そしたら……少しだけ、私の道が見えた気がした。
310
あなたにおすすめの小説
ダンジョン冒険者にラブコメはいらない(多分)~正体を隠して普通の生活を送る男子高生、実は最近注目の高ランク冒険者だった~
エース皇命
ファンタジー
学校では正体を隠し、普通の男子高校生を演じている黒瀬才斗。実は仕事でダンジョンに潜っている、最近話題のAランク冒険者だった。
そんな黒瀬の通う高校に突如転校してきた白桃楓香。初対面なのにも関わらず、なぜかいきなり黒瀬に抱きつくという奇行に出る。
「才斗くん、これからよろしくお願いしますねっ」
なんと白桃は黒瀬の直属の部下として派遣された冒険者であり、以後、同じ家で生活を共にし、ダンジョンでの仕事も一緒にすることになるという。
これは、上級冒険者の黒瀬と、美少女転校生の純愛ラブコメディ――ではなく、ちゃんとしたダンジョン・ファンタジー(多分)。
※小説家になろう、カクヨムでも連載しています。
【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】
最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。
戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。
目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。
ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!
彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!!
※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中
【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】
【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】
~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~
ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。
学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。
何か実力を隠す特別な理由があるのか。
いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。
そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。
貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。
オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。
世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな!
※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。
【完結】悪役に転生したのにメインヒロインにガチ恋されている件
エース皇命
ファンタジー
前世で大好きだったファンタジー大作『ロード・オブ・ザ・ヒーロー』の悪役、レッド・モルドロスに転生してしまった桐生英介。もっと努力して意義のある人生を送っておけばよかった、という後悔から、学院で他を圧倒する努力を積み重ねる。
しかし、その一生懸命な姿に、メインヒロインであるシャロットは惚れ、卒業式の日に告白してきて……。
悪役というより、むしろ真っ当に生きようと、ファンタジーの世界で生き抜いていく。
ヒロインとの恋、仲間との友情──あれ? 全然悪役じゃないんだけど! 気づけば主人公になっていた、悪役レッドの物語!
※小説家になろう、カクヨム、エブリスタにも投稿しています。
最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)
みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。
在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
世界最強の賢者、勇者パーティーを追放される~いまさら帰ってこいと言われてももう遅い俺は拾ってくれた最強のお姫様と幸せに過ごす~
aoi
ファンタジー
「なぁ、マギそろそろこのパーティーを抜けてくれないか?」
勇者パーティーに勤めて数年、いきなりパーティーを戦闘ができずに女に守られてばかりだからと追放された賢者マギ。王都で新しい仕事を探すにも勇者パーティーが邪魔をして見つからない。そんな時、とある国のお姫様がマギに声をかけてきて......?
お姫様の為に全力を尽くす賢者マギが無双する!?
Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる