田舎貴族の学園無双~普通にしてるだけなのに、次々と慕われることに~

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……来る。

そう思った瞬間、茂みの向こうからゴブリンが飛び出してきた。

「ゴブリンが二体!」

「我の方もゴブリン二体!」

「私の方もゴブリン二体! 二人はいけるわね!?」

「「もちろん!!」」

「それじゃ、目の前の敵を倒してちょうだい! カレン、貴女はいつでも魔法を使える準備と、他に敵が来ないか警戒を!」

「は、はいっ!」

セリスの指示を受け、俺は目の前の敵に集中する。
鞘に手を当てたまま、地を這うように駆け出す。

「ケケー!」

「グキャャ!」

身体強化やバルムンク、そして魔法はなし……更に最小限の動きで仕留めるか。

「グキャァ!」

「遅いよ」

棍棒が振り下ろされるより早く踏み込み、抜刀により首を切り落とす。
ゴブリンは後ろに倒れ、棍棒はカランカランと音を立てて地面に落ちる。
すると抜刀後の隙を狙ったのか、もう一体のゴブリンが棍棒を振り下ろす態勢に入っていた。

「ケケッ!」

「よっと」

俺は左手を、振り下ろされる棍棒の速さに合わせる。
そして体をずらしつつ、そのまま受け流すように地面に誘導した。
相手は地面に棍棒を叩きつけ、戸惑った様子だ。

「ケケ!?」

「どうして当たった感触がないって顔だね——」

無防備に晒された首を斬り落とす。
ライカさんに教わった体術だけど、実戦で練習できたのは大きいや。

「さて、他はどうかな?」

「オォォォ!」

「グキャ!?」

たった今、レオンがゴブリンの頭を拳で粉砕した。
流石にゴブリン程度には手こずらないみたい。

「くそっ、我の方が遅かったか」

「ふふん、俺には速さがあるからね」

「我の課題だな……さて、どうする?」

「もちろん、見守る方向で。セリスが、それを求めてないから」

俺とレオンの視線の先では、セリスがゴブリン二体と格闘している。
交互に攻め込まれ、少し手こずっているようだ。
セリスの腕なら倒すことは難しくない……ただ、実践と稽古は違う。
身体が硬くなって、思うように動かないのだろう。

「はぁ……はぁ……」

「セリスさん! 手伝います!」

「ごめんなさい、カレン。ここは私にやらせて」

「……で、でも」

「カレン! セリスに任せよう! セリス、君なら勝てるはずだ」

カレンが俺の方を見てくるので、俺はコクリと頷いた。
すると、カレンも覚悟を決めたらしい。
俺もいつでも行ける用意をして、戦いを見守ることにする。




 ……ユウマ、ありがとう。

私を信じて任せてくれて。

私は貴族だし、戦いを生業とするかはわからない。

それでも、このままじゃ何もかも中途半端だ。

この先はどうなるかわからないけど、自分の道を決める自信が欲しい。

「ケケ!」

「クカー!」

「っ……!」

怖い。

身長は私より小さいし、振り下ろされる棍棒だって速くはない。

なのに、身体が思うように動かない。

兵士や冒険者達は、いつもこんなことをやっているのね。

お金や名誉もあるけど、我々のことを守るためにも。

「……私も守りたい」

「ケケッ!」

小さい頃の私はお転婆で、いつか騎士になりたいって思ってた。
でも女の子だと自覚し、侯爵令嬢の立場を知った時……そんなことは無理だと思った。
いつか好きでもない相手に嫁ぎ、国のために奉仕するのだと。
だから、ユウマと会うことも止めた……こうなるってわかってたから。

「でも、別に騎士になって守ってもいいわよね?」

「ギャギャ!」

次々くる相手の棍棒を避ける。
すると、次第に体が軽くなってきた。

「いいよ! セリス!」

「……ほんと、人の気も知らないで」

出会った彼は相変わらず鈍感で、ちっとも気づきやしない。
でも、身分や性別で差別しないし優しい。
そういうところが、昔から好きだった。
……私も、昔みたいに素直になろうかしら。
あの頃みたいに、女とか関係なくがむしゃらに。

「ギャギャ!」

「こんの——いい加減にしなさい!」

「ギャギャ!?」

身体強化を施し、相手の棍棒を弾き返す。
すると、相手はたたらを踏んで後退した。
同時に距離を取って、魔法を撃つ態勢に入る。
狙いはこちらに迫ってくるもう一体のゴブリンだ。

「土の礫よ、敵を撃て——ストーンバレット!」

「グキャ!?」

敵が両手で防御した隙をついて前に出る!

「いまっ!」

「ガ……」

思い切り剣を振り下ろし真っ二つにすると、ゴブリンが魔石となる。

「で、できた」

「セリス! 後ろ!」

「っ……!」

咄嗟に前に出ると、後ろから風切り音がする。
振り返ると、ゴブリンが棍棒を空振りしていた。
危なかったけど、今は隙だらけ……なら!

「ヤァァァァ!」

「グキャャー!?」

無防備になったゴブリンの首を斬り落とし……こちらも魔石になる。

「……倒せた?」

「セリス! 凄いや!」

「……あ、当たり前じゃない! 私にもできるわよ!」

「うんうん、昔みたいなお転婆なセリスだ……ちょっと、今のは冗談……あれ?」

私は怯えるユウマに近づき、その身体を抱きしめる。

この感謝の気持ちが伝わるように。

そしたら……少しだけ、私の道が見えた気がした。







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