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05 精霊姫の首の後ろのリボン結び
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大声と共に入室して来たのは私の幼馴染だった存在――
精霊姫だ。
「はッ‥‥
何と美しい!
そしてセクシー!」
「完璧な美貌‥‥
そしてボディライン!
パーフェクト!」
「まさに妖艶美女!
ク、クラクラするッ」
ショコラ公爵令嬢に懸想しているはずの令息達が精霊姫にメロメロになっている。
美女と言うよりは美女に移行しつつある美少女であるショコラ公爵令嬢には無い大人の魅力を精霊姫に感じている様だ。
精霊姫の肉感的な体に目が釘付けになっているが‥‥
バカだな。
ショコラ公爵令嬢は着痩せするタイプ。
ボディラインを強調しないドレスを纏っているのは、敢えて過度なセクシーを回避しているからに他ならない。
事情があって一度抱きしめる格好になってしまった事がある私には分かる。
彼女は脱いでも凄いタイプだ‥‥(断言)
「まぁ! 人間なんかが生意気に。
イヤらしい目で私を見ないで頂戴!
私は人間よりも尊い存在、精霊族の王の娘‥」
「だったら人間界に来なければいいだろう。
サッサと帰れ」
「モーブ猊下ったら!
何てつれない‥‥
あなたと私の仲ではないの‥‥」
「誤解を招く発言は許さないよ?
君とはただの幼馴染――だった。
過去形だ。
魅了を掛けようとしたり、既成事実を作ろうと媚薬を飲ませたりした君とは永遠に縁を切ると言っただろう。
二度と私の前に現れるなと」
ザワッ‥‥
『控室D』の面々は冷たい汗を流す。
突如現れたセクシー美女はまさかの精霊姫。
言われてみれば確かに、人間離れした完璧な美貌でその上キラキラと光を放っている様である。
まぁ、人間であるショコラ公爵令嬢やモーブ猊下はさらに輝く何かを放っているのでアレだが。
とにかく、精霊はその完璧な美貌もさることながら、人間には遠く及ばない桁違いの魔力を持っている。
故に、本人が主張する様に、人間より上の尊い存在として多くの国で信仰の対象になったりしている。
精霊族は普段は人間が行く事が出来ない別次元の精霊界におわすそうで、時折人間界に遊びに来る精霊がいると聞くが、まさか目の前に――!
例え一国の王であっても望んで会えるものではなく、一生に一度もお目に掛かれないのが当たり前だというのに――!
だが、そんな『会えるだけで幸運』な精霊――しかも精霊姫に対して、モーブ猊下は冷たい顔と声で絶対拒絶を突き付けてしまっている‥‥!?
大丈夫なのか!?
精霊王が怒って人間界に攻め込んで来るんじゃないのか!?
震え上がる令息達とは別の理由で、ショコラ公爵令嬢は顔色を悪くする。
(魅了!?
媚薬!?
既成事実ぅ!?
つ、つまりモーブ猊下はムリヤリ精霊姫と関係を!?)
そんなショコラ公爵令嬢の不安は精霊姫によってすぐに解消される事となる。
「未遂だったのだからそんなにいつまでも怒らなくたって‥‥
何故かモーブ猊下には魅了が掛からないし、媚薬を飲ませても簡単に無効化してしまうし‥‥私の望みは何一つ叶っていないのだから、」
「そもそも卑怯な手を使おうとした時点で関係は終わりだ。
終わったのだ。
君が終わらせたのだ。
さぁ、精霊界へ帰れ」
「‥‥えッ!?」
「第一G=精霊界」
モーブ猊下が右手を突き出し手の平を前に向けて低い声で短く唱えると精霊姫を光の輪が包む。
「えッ?えッ?」
「第二G=精霊宮」
次いで左手も同様に突き出し短く詠唱すれば、最初の光輪の周りを包む様に更なる光輪が発生する。
「ま待ってモーブ猊下!
これってまさか精霊界へのゲート‥」
「追跡G=精霊王」
突き出した両手が光ったかと思うと、同様に光輪が追加され、精霊姫は三重の光に包まれて――
「ま、待って!
嘘でしょう!?
精霊界へのゲートを作り出せるなんて、そんなの、精霊王にしか‥」
「帰れ」
「ちょ‥‥」
ヴォンッ!
シ~~~~ン‥‥‥
「き、消えた‥‥」
「妖艶美女が一瞬で」
「モーブ猊下が魔法で精霊界へ帰した、という事か」
「これがモーブ猊下の魔力…」
「さすがは我が国の大魔法師様だが…」
「ちょっと次元が違い過ぎる…」
目を真ん丸にしたまま、呆けた様に呟く令息達。
魔法を使える人間が少ない中で、規格外の魔法を目にして茫然自失の様子。
精霊姫を目撃した以上の衝撃に襲われている。
そんな令息達には気付かず、モーブ猊下は顎に手を当てて独り言つ。
「‥‥やっぱり一言文句を言ってやるか」
カッッ!
シュォンッ!
言い終わるやいなや、雷光を放ち、僅かに空気を揺らして、モーブ猊下も消える。
モ、モーブ猊下!?
消えてしまった!?
一体、どこへ!?
令息達は狼狽え、何を出来るわけでもないのに椅子から立ち上がったり座ったり、無意味にウロウロしたり。
ショコラ公爵令嬢の凛とした声が響き渡る。
「大丈夫!
モーブ猊下は転移魔法を使われたのですわ。
きっと精霊界へ転移されたのです。
でも大丈夫!
用事が済んだら直ぐにここへ戻られるはずです!
だって‥‥
だってまだ、ポエムを聞かせてくれていないのですものっ…
きっとポエムを披露しに戻って来て下さるはずですわッ…!」
「‥ショコラ公爵令嬢ッ‥」
「そんなにも、モーブ猊下のポエムを心待ちに‥‥」
「私達も信じよう!」
「ああ!
モーブ猊下はポエムを披露しに戻って来る!」
「たとえ精霊界で精霊姫にセクシー攻撃されても!」
「首の後ろのリボン結びを解けば全部脱げてしまいそうなドレスの首の後ろのリボン結びを解かれても!」
「必ずここへ戻り、ポエムを披露されるッ!」
「ああ!信じよう!」
「おう!」
(首の後ろのリボン結びを解けば全部脱げるドレス‥‥!?
精霊姫、なんてあざとい手を‥‥ッ)
王宮内『控室D』に、よく分からない何かを信じキラキラとどこか晴れやかな顔でポエムライバルの帰還を信じる令息達数名と、恋の駆け引きなど出来ない幼な過ぎる初心な自分には到底太刀打ち出来そうもない妖精姫の首の後ろのリボン結びにモヤモヤする令嬢一名を残し、さて。
モーブ猊下は―――
精霊姫だ。
「はッ‥‥
何と美しい!
そしてセクシー!」
「完璧な美貌‥‥
そしてボディライン!
パーフェクト!」
「まさに妖艶美女!
ク、クラクラするッ」
ショコラ公爵令嬢に懸想しているはずの令息達が精霊姫にメロメロになっている。
美女と言うよりは美女に移行しつつある美少女であるショコラ公爵令嬢には無い大人の魅力を精霊姫に感じている様だ。
精霊姫の肉感的な体に目が釘付けになっているが‥‥
バカだな。
ショコラ公爵令嬢は着痩せするタイプ。
ボディラインを強調しないドレスを纏っているのは、敢えて過度なセクシーを回避しているからに他ならない。
事情があって一度抱きしめる格好になってしまった事がある私には分かる。
彼女は脱いでも凄いタイプだ‥‥(断言)
「まぁ! 人間なんかが生意気に。
イヤらしい目で私を見ないで頂戴!
私は人間よりも尊い存在、精霊族の王の娘‥」
「だったら人間界に来なければいいだろう。
サッサと帰れ」
「モーブ猊下ったら!
何てつれない‥‥
あなたと私の仲ではないの‥‥」
「誤解を招く発言は許さないよ?
君とはただの幼馴染――だった。
過去形だ。
魅了を掛けようとしたり、既成事実を作ろうと媚薬を飲ませたりした君とは永遠に縁を切ると言っただろう。
二度と私の前に現れるなと」
ザワッ‥‥
『控室D』の面々は冷たい汗を流す。
突如現れたセクシー美女はまさかの精霊姫。
言われてみれば確かに、人間離れした完璧な美貌でその上キラキラと光を放っている様である。
まぁ、人間であるショコラ公爵令嬢やモーブ猊下はさらに輝く何かを放っているのでアレだが。
とにかく、精霊はその完璧な美貌もさることながら、人間には遠く及ばない桁違いの魔力を持っている。
故に、本人が主張する様に、人間より上の尊い存在として多くの国で信仰の対象になったりしている。
精霊族は普段は人間が行く事が出来ない別次元の精霊界におわすそうで、時折人間界に遊びに来る精霊がいると聞くが、まさか目の前に――!
例え一国の王であっても望んで会えるものではなく、一生に一度もお目に掛かれないのが当たり前だというのに――!
だが、そんな『会えるだけで幸運』な精霊――しかも精霊姫に対して、モーブ猊下は冷たい顔と声で絶対拒絶を突き付けてしまっている‥‥!?
大丈夫なのか!?
精霊王が怒って人間界に攻め込んで来るんじゃないのか!?
震え上がる令息達とは別の理由で、ショコラ公爵令嬢は顔色を悪くする。
(魅了!?
媚薬!?
既成事実ぅ!?
つ、つまりモーブ猊下はムリヤリ精霊姫と関係を!?)
そんなショコラ公爵令嬢の不安は精霊姫によってすぐに解消される事となる。
「未遂だったのだからそんなにいつまでも怒らなくたって‥‥
何故かモーブ猊下には魅了が掛からないし、媚薬を飲ませても簡単に無効化してしまうし‥‥私の望みは何一つ叶っていないのだから、」
「そもそも卑怯な手を使おうとした時点で関係は終わりだ。
終わったのだ。
君が終わらせたのだ。
さぁ、精霊界へ帰れ」
「‥‥えッ!?」
「第一G=精霊界」
モーブ猊下が右手を突き出し手の平を前に向けて低い声で短く唱えると精霊姫を光の輪が包む。
「えッ?えッ?」
「第二G=精霊宮」
次いで左手も同様に突き出し短く詠唱すれば、最初の光輪の周りを包む様に更なる光輪が発生する。
「ま待ってモーブ猊下!
これってまさか精霊界へのゲート‥」
「追跡G=精霊王」
突き出した両手が光ったかと思うと、同様に光輪が追加され、精霊姫は三重の光に包まれて――
「ま、待って!
嘘でしょう!?
精霊界へのゲートを作り出せるなんて、そんなの、精霊王にしか‥」
「帰れ」
「ちょ‥‥」
ヴォンッ!
シ~~~~ン‥‥‥
「き、消えた‥‥」
「妖艶美女が一瞬で」
「モーブ猊下が魔法で精霊界へ帰した、という事か」
「これがモーブ猊下の魔力…」
「さすがは我が国の大魔法師様だが…」
「ちょっと次元が違い過ぎる…」
目を真ん丸にしたまま、呆けた様に呟く令息達。
魔法を使える人間が少ない中で、規格外の魔法を目にして茫然自失の様子。
精霊姫を目撃した以上の衝撃に襲われている。
そんな令息達には気付かず、モーブ猊下は顎に手を当てて独り言つ。
「‥‥やっぱり一言文句を言ってやるか」
カッッ!
シュォンッ!
言い終わるやいなや、雷光を放ち、僅かに空気を揺らして、モーブ猊下も消える。
モ、モーブ猊下!?
消えてしまった!?
一体、どこへ!?
令息達は狼狽え、何を出来るわけでもないのに椅子から立ち上がったり座ったり、無意味にウロウロしたり。
ショコラ公爵令嬢の凛とした声が響き渡る。
「大丈夫!
モーブ猊下は転移魔法を使われたのですわ。
きっと精霊界へ転移されたのです。
でも大丈夫!
用事が済んだら直ぐにここへ戻られるはずです!
だって‥‥
だってまだ、ポエムを聞かせてくれていないのですものっ…
きっとポエムを披露しに戻って来て下さるはずですわッ…!」
「‥ショコラ公爵令嬢ッ‥」
「そんなにも、モーブ猊下のポエムを心待ちに‥‥」
「私達も信じよう!」
「ああ!
モーブ猊下はポエムを披露しに戻って来る!」
「たとえ精霊界で精霊姫にセクシー攻撃されても!」
「首の後ろのリボン結びを解けば全部脱げてしまいそうなドレスの首の後ろのリボン結びを解かれても!」
「必ずここへ戻り、ポエムを披露されるッ!」
「ああ!信じよう!」
「おう!」
(首の後ろのリボン結びを解けば全部脱げるドレス‥‥!?
精霊姫、なんてあざとい手を‥‥ッ)
王宮内『控室D』に、よく分からない何かを信じキラキラとどこか晴れやかな顔でポエムライバルの帰還を信じる令息達数名と、恋の駆け引きなど出来ない幼な過ぎる初心な自分には到底太刀打ち出来そうもない妖精姫の首の後ろのリボン結びにモヤモヤする令嬢一名を残し、さて。
モーブ猊下は―――
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