ポエムでバトル

ハートリオ

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04 微笑、微睡、I(愛)、泥濘、yo

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「モーブ猊下のあの御様子…ご自分が『威圧』を放った事、お気づきではないのではないか?」
「ああ、放ったというより、無意識に不機嫌が漏れ出た様な…」
「そんな事、あるのか!?」
「…叔父上に聞いた事がある。
軍の練習場にモーブ猊下が招待された時の事だ。
本人は全くの無意識に『威圧』というか、『力』が漏れてモーブ猊下の周囲に居た100名ほどの屈強な軍人が昏倒したというが、本人は全くの無自覚の為、何らかの訓練の一種なんだろうと誤解されていたそうだ…」
「な、なんて御方だ」
「まるで『悪気の無い狂犬』ではないか」
「恐い…こんな思いは生まれて初めてだ」
「私もだ」
「僕も‥」





…ハンパ無い疎外感が私を包んでいる。

何やら令息達がヒソヒソ話をしている。

私には一切ヒソヒソしようとせず、若者達だけでヒソヒソしている。

何だ、イジメか?

高位貴族令息特有の性格の悪さを見せつけて私を怒らせないで欲しい。

今はあり得ないが私も子供の頃は無意識に威圧を放ってしまった事もあるのだ。

まぁ、今は完璧に制御出来ているからそんな心配は無いが…


それにしても何故全員青白い顔でブルブル震えながら私を見ているのだ?

‥‥はッ!

青白い集団の中にただ一人、頬を赤く染めたショコラ公爵令嬢は、まるで青葉の絨毯の中に一輪だけ咲き誇る大輪の花の様だ‥‥美しい!

あ‥‥『キャッ』と小さく叫ばれ、速攻で目を逸らされてしまった‥‥

くッ、ハートが抉られるッ

やはり私は、ここにいるべきではないのか‥‥

いや、今更戦線離脱など、それこそ出来ようはずが無い。

とにかく、ワッフル侯爵令息にバトル開始を促すか。


「‥‥どうした?
早く始めろ」

「ヒューッ、ヒュッ‥
アァッ、はいぃッ!
始まして頂くすすッ
音楽、スターッッ」


何故か呼吸困難がどんどん酷くなっている様子のワッフル侯爵令息が個人小楽団にスタートを報せるが。


ギッ、


『ギッ、』と僅かな音を出しただけで、楽団は音楽を奏でない。


あ。

アレは駄目だな。

全員白目を剥いて――


「なッ、何をしているんだッ!?
早く演奏しろッ!
この日の為に推敲に推敲を重ねた私の最高傑作ポエムに相応しい愛の賛歌、結婚式で演奏される曲ナンバーワンの『微笑ホホエミ微睡マドロミ、I(愛)、泥濘ヌカルミ、yo』を、早くッ!」


ギャンギャン煩い。

お前の楽団は立ったまま気絶しているのが分からないのか?

と言うか、即興ポエム対決のはずなのに、事前にガッツリ準備していた事を自らバラしている事に気付いていないのか?


「早く演奏しろォォッ
解雇するぞッ!?
音を、音をくれ‥‥
‥ハッ!?」


♪~♪~~♪~♪♪~


「す、凄い!
ピアノでの演奏は不可能と言われている『微笑、微睡、I(愛)、泥濘、yo』を!」

「人間には不可能と言われた神技超絶技巧をあんなにも涼しい顔で‥‥」

「何と美しい、心が洗われる様なピアノ演奏なのだ!
これこそが、きっと作曲者の意図した愛の賛歌‥‥」


何だか色々言ってくれているが部屋の端にピアノがあったから弾いているだけだ。

ワッフル侯爵令息は演奏がなければポエムを始められない様だから仕方なく、な。

ピアノを習った事は無いが、一度聞いた事がある曲だから問題なく弾ける。

私は色々な事がそこそこ出来てしまうから当然の事だ。


「す、素敵ッ‥‥!
私も、モーブ猊下に弾かれたい‥‥」


ん?

今、ショコラ公爵令嬢が何か言った様だが、自分が奏でるピアノの音が煩くて聞こえなかった。

不快に思っていなければいいが‥‥

悪目立ちしたいわけではない。

サッサと終わらせよう。


「ワッフル侯爵令息、どうぞ?」

「あッ‥‥は、ひ!
はひはほうほはひはふ
はひへはふ!
『ふひほほほへ‥』」


大変だ。

言っている事がまるで分からない。

何語だ?

世界中の言語を知っている私だが、コレは聞いた事が無いぞ?

その後もワッフル侯爵令息は謎の言語で滔々と語り続けた後涙を流しながらやり切った顔でしばらく黙っているから、どうやら終了したと思われる。

私も演奏を止め、一応彼に拍手を送る。

それを皮切りに、部屋に居る者全員――いつの間にか気絶から覚めた小楽団までもが割れんばかりの拍手を送る。

何故か私に向けて。

戸惑っていると、バーーン!と扉が開き、


「あぁッ!やっぱり!
今のピアノ、絶対モーブ猊下だと思ったの!
やっぱりだわ!
私がダーリンの演奏、聴き間違えるワケ無いもんね!」


訳の分からない大声と共に入室して来たのは――
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