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決意のクリスマスデート③
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「美桜?」
「ごめんなさい、変なこと言って」
「いや、美桜がくれたやつのほうがいい。これが一番だよ。だいたい俺がピンクの絆創膏って変だもんな」
桔平さんは私が渡した絆創膏を器用にパパっと指に巻いて、満足そうにそれを見つめていた。
「桔平さん、お話があります」
絆創膏みたいに、桔平さんのそばにいつまでもそっと寄り添っていられたらいいのだけれど、この話をしたら、今後はどうなるかはわからない。
思わず尻込みしそうになった自分を奮い立たせた。今日話すと覚悟を決めて来たじゃないか、と。
だけど意を決して話そうとしたとき、勝手に涙があふれて頬を伝った。
「美桜?」
桔平さんが手を伸ばしてきて、テーブルの上で私の左手を覆うように握る。
「どうしたんだよ。震えてるし、涙も」
桔平さんは私の異変に驚いたのか、珍しく焦ったようにアタフタと目が泳いでいる。
そんな桔平さんも大好きだから、最悪の結末を想像したら心が張り裂けそうだ。
「聞いてください。実は私……」
たどたどしくだけれど、桔平さんにゆっくりと話をした。
私の母と桔平さんのお父さんが、昔、恋人同士だったと知ってしまったこと。
それぞれの子どもである私たちが付き合うことに、私の母には反対されなかったものの、桔平さんのご両親やお爺様には反対されるのではと心配していること。
桔平さんにとっても衝撃の事実だったに違いない。
しばらく口元に手をやりながら固まっていたけれど、私を安心させるためなのか、困り顔のまま笑ってみせた。
「俺の父親と、美桜のお母さんが……。すごい偶然だな。で、俺たちが全然関係なく知り合って恋人になるなんて、ある意味奇跡」
「母にも言われました。運命の赤い糸だね、って」
「俺もそう思う」
「でも……私のこと、桔平さんのご両親は良くは思わないですよね」
言いながらうつむく私に、桔平さんは「そうかな?」と、小首をかしげる。
「たとえそうだったとしても、俺はなにも変わらないよ」
「……」
「俺、もう三十だし子どもじゃないから。自分の生き方は自分で決める。恋愛も、親が反対したくらいで俺が美桜を手放すわけない」
じっと射貫くように、意思を込めた瞳で桔平さんに見つめられると、うれしさと戸惑いの気持ちが混ざった涙が再びハラハラとこぼれた。私はこんなに泣き虫だっただろうか。
「美桜はずっと自分の胸に抱えたままで辛かったろ」
「いつ話そうかと悩んでました。身を引いてお別れしなくちゃいけなくなるかと思ったら、怖くてなかなか言えなくて……。元々身分違いですし」
私は神妙な面持ちで言ったのに、最後の言葉で桔平さんがフッと口元を緩めて笑った。
「身分違いって、王様の家でもなんでもないから」
「でも……住む世界が」
「うちは母方の祖父が起業家だったってだけ。父のことは美桜のお母さんがよく知ってると思うけど、普通の人だし。俺の住む世界も美桜と同じだ」
勝手に線を引かないでほしい、と慈愛を込めた眼差しで桔平さんが言う。
「それと、身を引くなんて絶対却下」
どう答えていいかわからずに口ごもっていたら、船が出発した桟橋に戻ろうとしていた。
あっという間に時間が過ぎていて、クルージングはそろそろ終わりのようだ。
「デッキに出そびれたな」
「私が話し込んでしまったから……」
「ごめんなさい、変なこと言って」
「いや、美桜がくれたやつのほうがいい。これが一番だよ。だいたい俺がピンクの絆創膏って変だもんな」
桔平さんは私が渡した絆創膏を器用にパパっと指に巻いて、満足そうにそれを見つめていた。
「桔平さん、お話があります」
絆創膏みたいに、桔平さんのそばにいつまでもそっと寄り添っていられたらいいのだけれど、この話をしたら、今後はどうなるかはわからない。
思わず尻込みしそうになった自分を奮い立たせた。今日話すと覚悟を決めて来たじゃないか、と。
だけど意を決して話そうとしたとき、勝手に涙があふれて頬を伝った。
「美桜?」
桔平さんが手を伸ばしてきて、テーブルの上で私の左手を覆うように握る。
「どうしたんだよ。震えてるし、涙も」
桔平さんは私の異変に驚いたのか、珍しく焦ったようにアタフタと目が泳いでいる。
そんな桔平さんも大好きだから、最悪の結末を想像したら心が張り裂けそうだ。
「聞いてください。実は私……」
たどたどしくだけれど、桔平さんにゆっくりと話をした。
私の母と桔平さんのお父さんが、昔、恋人同士だったと知ってしまったこと。
それぞれの子どもである私たちが付き合うことに、私の母には反対されなかったものの、桔平さんのご両親やお爺様には反対されるのではと心配していること。
桔平さんにとっても衝撃の事実だったに違いない。
しばらく口元に手をやりながら固まっていたけれど、私を安心させるためなのか、困り顔のまま笑ってみせた。
「俺の父親と、美桜のお母さんが……。すごい偶然だな。で、俺たちが全然関係なく知り合って恋人になるなんて、ある意味奇跡」
「母にも言われました。運命の赤い糸だね、って」
「俺もそう思う」
「でも……私のこと、桔平さんのご両親は良くは思わないですよね」
言いながらうつむく私に、桔平さんは「そうかな?」と、小首をかしげる。
「たとえそうだったとしても、俺はなにも変わらないよ」
「……」
「俺、もう三十だし子どもじゃないから。自分の生き方は自分で決める。恋愛も、親が反対したくらいで俺が美桜を手放すわけない」
じっと射貫くように、意思を込めた瞳で桔平さんに見つめられると、うれしさと戸惑いの気持ちが混ざった涙が再びハラハラとこぼれた。私はこんなに泣き虫だっただろうか。
「美桜はずっと自分の胸に抱えたままで辛かったろ」
「いつ話そうかと悩んでました。身を引いてお別れしなくちゃいけなくなるかと思ったら、怖くてなかなか言えなくて……。元々身分違いですし」
私は神妙な面持ちで言ったのに、最後の言葉で桔平さんがフッと口元を緩めて笑った。
「身分違いって、王様の家でもなんでもないから」
「でも……住む世界が」
「うちは母方の祖父が起業家だったってだけ。父のことは美桜のお母さんがよく知ってると思うけど、普通の人だし。俺の住む世界も美桜と同じだ」
勝手に線を引かないでほしい、と慈愛を込めた眼差しで桔平さんが言う。
「それと、身を引くなんて絶対却下」
どう答えていいかわからずに口ごもっていたら、船が出発した桟橋に戻ろうとしていた。
あっという間に時間が過ぎていて、クルージングはそろそろ終わりのようだ。
「デッキに出そびれたな」
「私が話し込んでしまったから……」
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