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初めての一目惚れ④
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「てっきり上の階のIT会社かと思ってました。探偵さんがどうしてこのオフィスビルに?」
「あはは。それはちょっと言えないよね。というか、探偵じゃなくて調査員と言ってもらえる?」
このビルに見合うようにわざとそういう服装にしてきたのだろうか、と考えてしまうほど見た目もスタイルもいいし、ビジネスマンにしか見えない。
すれ違ったとしても、まさか探偵だなんて誰も思わないだろう。
「困ったらいつでも相談に乗るよ。そこの番号に電話して?」
「相談?」
「ほら、昨日みたいなことがまた起こらないとも限らないでしょ。俺ね、身辺調査は得意だから。相手を調べるなら任せてよ」
なんだ、ナンパではなくて営業をかけられているのか。自意識過剰に誤解した自分が恥ずかしい。
「君っていろんなことに巻き込まれて、振り回されるタイプに見える。恋愛運悪そうだし」
「最近の探偵さ……調査員さんは、占いまでされるんですか?」
「はは。うまいこと言うね。やってみようかな、人相学とか?」
軽く嫌味を言ってみたのに全然堪えてなくて、それどころか笑い飛ばして冗談で返されてしまった。
恋愛運が悪そうだなんて、昨日の場面だけで判断しているくせに、とは思ったけれど、あながち間違ってはいない。
「じゃ、またね。電話待ってるから」
エレベーターが一階にたどり着いて扉が開くと、その男性は手を振りながら足早にゲートを抜けて去って行った。
「何者なの……」
私は足を止め、貰った名刺と男性の後姿を交互に見ながらポツリとつぶやく。
もしかしたら、からかわれたのだろうか。この名刺はフェイクで、探偵というのは冗談かもしれない。
自分で『探偵です』と堂々と身を明かすのはおかしい気がする。
いや、同じビルに居るとはいえ、まったく関係のないところで調査業務をしているのなら、私に招待がバレても大丈夫だと判断したのかもしれないし……
このオフィスビルには、もちろんのこと入退館ゲートが設置されている。
警備員もいるし、セキュリティは万全で、部外者がこっそり入館など絶対にできない。
だけど彼はゲートを行き来できるICカードを持っていた。
ということは、このビルで働いているか、誰かが来客で招いたか、だ。
「素行調査、身辺調査、信用調査、その他調査業務……」
名刺に書かれていた業務内容だ。洒落た名刺だし、冗談で作ったにしては凝りすぎているので本物なのだろう。
上層階のどこかの会社がなにか調査を依頼したのかもしれない。
よくわからないけれど、私には関係のない人だ。とりあえず貰った名刺をバッグに放り込み、私もゲートを抜けて外へ出る。
近頃は日が暮れるのが早くなった。
初秋のひんやりとした空気が頬を撫でていく。
「あはは。それはちょっと言えないよね。というか、探偵じゃなくて調査員と言ってもらえる?」
このビルに見合うようにわざとそういう服装にしてきたのだろうか、と考えてしまうほど見た目もスタイルもいいし、ビジネスマンにしか見えない。
すれ違ったとしても、まさか探偵だなんて誰も思わないだろう。
「困ったらいつでも相談に乗るよ。そこの番号に電話して?」
「相談?」
「ほら、昨日みたいなことがまた起こらないとも限らないでしょ。俺ね、身辺調査は得意だから。相手を調べるなら任せてよ」
なんだ、ナンパではなくて営業をかけられているのか。自意識過剰に誤解した自分が恥ずかしい。
「君っていろんなことに巻き込まれて、振り回されるタイプに見える。恋愛運悪そうだし」
「最近の探偵さ……調査員さんは、占いまでされるんですか?」
「はは。うまいこと言うね。やってみようかな、人相学とか?」
軽く嫌味を言ってみたのに全然堪えてなくて、それどころか笑い飛ばして冗談で返されてしまった。
恋愛運が悪そうだなんて、昨日の場面だけで判断しているくせに、とは思ったけれど、あながち間違ってはいない。
「じゃ、またね。電話待ってるから」
エレベーターが一階にたどり着いて扉が開くと、その男性は手を振りながら足早にゲートを抜けて去って行った。
「何者なの……」
私は足を止め、貰った名刺と男性の後姿を交互に見ながらポツリとつぶやく。
もしかしたら、からかわれたのだろうか。この名刺はフェイクで、探偵というのは冗談かもしれない。
自分で『探偵です』と堂々と身を明かすのはおかしい気がする。
いや、同じビルに居るとはいえ、まったく関係のないところで調査業務をしているのなら、私に招待がバレても大丈夫だと判断したのかもしれないし……
このオフィスビルには、もちろんのこと入退館ゲートが設置されている。
警備員もいるし、セキュリティは万全で、部外者がこっそり入館など絶対にできない。
だけど彼はゲートを行き来できるICカードを持っていた。
ということは、このビルで働いているか、誰かが来客で招いたか、だ。
「素行調査、身辺調査、信用調査、その他調査業務……」
名刺に書かれていた業務内容だ。洒落た名刺だし、冗談で作ったにしては凝りすぎているので本物なのだろう。
上層階のどこかの会社がなにか調査を依頼したのかもしれない。
よくわからないけれど、私には関係のない人だ。とりあえず貰った名刺をバッグに放り込み、私もゲートを抜けて外へ出る。
近頃は日が暮れるのが早くなった。
初秋のひんやりとした空気が頬を撫でていく。
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