9 / 50
初めての一目惚れ⑤
しおりを挟む
***
今日は我が社㈱オッティモの創立30周年記念パーティーが行われる日である。
「浅木さん、お渡しする記念品の数量チェック、大丈夫よね?」
「はい、リスト通りありました。大丈夫です」
普段は受付業務だけの私たちも、今日はイレギュラーな仕事な上、主催者側なので招待客に失礼がないようにと空気がピリついていた。
パーティーはこのビルの最上階で行われる。
最上階のフロアはかなり広いので、各種イベントや企業の説明会などに使われることが多いが、こうしてパーティーを開くことも可能だ。
今日はお天気も良いので、窓からは最高に綺麗な景色を堪能できる。
「うちの会社って、お金あるんだねぇ」
会場の様子を伺い見た蘭が、仕事の手を休めずにつぶやいた。
たしかに、このビルにオフィスを構えるくらいだから余裕はあるのだろう。
上層階の大企業との交流を狙う意図もあるらしいけれど、この規模のパーティーは背伸びをしすぎな気がする。
「私たちはどうせ、アレ食べられないよね?」
「どれ?」
「あのキラキラ光ってるイクラのお寿司とか」
テナントで入っている高級寿司店の板前さんたちが、今日は目の前で握ってくれるそうだ。
蘭が小さく指をさして言ったのはそのお寿司だったけれど、もちろん受付の私たちが頂けるものではない。
「あっちのやつなら、余ったらもらえるかもよ?」
「え! どれ?」
今度は私が反対方向を指すと、蘭の顔がパッと明るい笑顔になった。
「蜜山堂の和菓子だ!……綺麗だね」
「うん。宝石みたい」
「お菓子もだけど、若旦那も!」
色とりどりの和菓子の前で挨拶をしている和装の若い男性がいる。
長身で黒髪の爽やかな人が、どうやら老舗高級和菓子店である蜜山堂の若旦那らしい。
もしかして……あれから話は出ていないけれど、蘭が以前に話していた好きな人というのは、この若旦那だろうか。
思わず会場内にいる若旦那をじっと見てしまう。たしかに素敵な人だし、蘭ともお似合いだ。
蘭が招待客の応対をしていると、マナーモードにしていた私のスマホが受付テーブルのところで着信を告げ、ドキッと心臓が跳ねた。
鳴るはずがないスマホを手に取り、こんなときに誰からだろうと画面を確認する。するとそれはオフィスで通常業務をしている先輩の森内さんからだった。
「もしもし、お疲れ様です」
蘭にごめんとジェスチャーをして、少し離れたところで電話に出た。
『浅木さん、忙しいとこ悪いわね』
森内さんが謝るなんて珍しい。忙しいというより、この業務が大変なのを彼女もわかっているからだろう。
『営業一部の大野部長って、会場内にいるよね?』
「はい、たしかいらっしゃっていたはずですが……」
『営業の永島さんが部長の携帯に電話してるらしいんだけど、電源が入ってないんだって』
営業一部の大野部長はごますりで有名で、ある意味それだけで部長にまでなったと言われている人物だ。
パーティーでのコネクション作りに邪魔になるから、事前に携帯の電源を切ったのだと思う。
今日は我が社㈱オッティモの創立30周年記念パーティーが行われる日である。
「浅木さん、お渡しする記念品の数量チェック、大丈夫よね?」
「はい、リスト通りありました。大丈夫です」
普段は受付業務だけの私たちも、今日はイレギュラーな仕事な上、主催者側なので招待客に失礼がないようにと空気がピリついていた。
パーティーはこのビルの最上階で行われる。
最上階のフロアはかなり広いので、各種イベントや企業の説明会などに使われることが多いが、こうしてパーティーを開くことも可能だ。
今日はお天気も良いので、窓からは最高に綺麗な景色を堪能できる。
「うちの会社って、お金あるんだねぇ」
会場の様子を伺い見た蘭が、仕事の手を休めずにつぶやいた。
たしかに、このビルにオフィスを構えるくらいだから余裕はあるのだろう。
上層階の大企業との交流を狙う意図もあるらしいけれど、この規模のパーティーは背伸びをしすぎな気がする。
「私たちはどうせ、アレ食べられないよね?」
「どれ?」
「あのキラキラ光ってるイクラのお寿司とか」
テナントで入っている高級寿司店の板前さんたちが、今日は目の前で握ってくれるそうだ。
蘭が小さく指をさして言ったのはそのお寿司だったけれど、もちろん受付の私たちが頂けるものではない。
「あっちのやつなら、余ったらもらえるかもよ?」
「え! どれ?」
今度は私が反対方向を指すと、蘭の顔がパッと明るい笑顔になった。
「蜜山堂の和菓子だ!……綺麗だね」
「うん。宝石みたい」
「お菓子もだけど、若旦那も!」
色とりどりの和菓子の前で挨拶をしている和装の若い男性がいる。
長身で黒髪の爽やかな人が、どうやら老舗高級和菓子店である蜜山堂の若旦那らしい。
もしかして……あれから話は出ていないけれど、蘭が以前に話していた好きな人というのは、この若旦那だろうか。
思わず会場内にいる若旦那をじっと見てしまう。たしかに素敵な人だし、蘭ともお似合いだ。
蘭が招待客の応対をしていると、マナーモードにしていた私のスマホが受付テーブルのところで着信を告げ、ドキッと心臓が跳ねた。
鳴るはずがないスマホを手に取り、こんなときに誰からだろうと画面を確認する。するとそれはオフィスで通常業務をしている先輩の森内さんからだった。
「もしもし、お疲れ様です」
蘭にごめんとジェスチャーをして、少し離れたところで電話に出た。
『浅木さん、忙しいとこ悪いわね』
森内さんが謝るなんて珍しい。忙しいというより、この業務が大変なのを彼女もわかっているからだろう。
『営業一部の大野部長って、会場内にいるよね?』
「はい、たしかいらっしゃっていたはずですが……」
『営業の永島さんが部長の携帯に電話してるらしいんだけど、電源が入ってないんだって』
営業一部の大野部長はごますりで有名で、ある意味それだけで部長にまでなったと言われている人物だ。
パーティーでのコネクション作りに邪魔になるから、事前に携帯の電源を切ったのだと思う。
0
お気に入りに追加
22
あなたにおすすめの小説
【完結】もう一度やり直したいんです〜すれ違い契約夫婦は異国で再スタートする〜
四片霞彩
恋愛
「貴女の残りの命を私に下さい。貴女の命を有益に使います」
度重なる上司からのパワーハラスメントに耐え切れなくなった日向小春(ひなたこはる)が橋の上から身投げしようとした時、止めてくれたのは弁護士の若佐楓(わかさかえで)だった。
事情を知った楓に会社を訴えるように勧められるが、裁判費用が無い事を理由に小春は裁判を断り、再び身を投げようとする。
しかし追いかけてきた楓に再度止められると、裁判を無償で引き受ける条件として、契約結婚を提案されたのだった。
楓は所属している事務所の所長から、孫娘との結婚を勧められて困っており、 それを断る為にも、一時的に結婚してくれる相手が必要であった。
その代わり、もし小春が相手役を引き受けてくれるなら、裁判に必要な費用を貰わずに、無償で引き受けるとも。
ただ死ぬくらいなら、最後くらい、誰かの役に立ってから死のうと考えた小春は、楓と契約結婚をする事になったのだった。
その後、楓の結婚は回避するが、小春が会社を訴えた裁判は敗訴し、退職を余儀なくされた。
敗訴した事をきっかけに、裁判を引き受けてくれた楓との仲がすれ違うようになり、やがて国際弁護士になる為、楓は一人でニューヨークに旅立ったのだった。
それから、3年が経ったある日。
日本にいた小春の元に、突然楓から離婚届が送られてくる。
「私は若佐先生の事を何も知らない」
このまま離婚していいのか悩んだ小春は、荷物をまとめると、ニューヨーク行きの飛行機に乗る。
目的を果たした後も、契約結婚を解消しなかった楓の真意を知る為にもーー。
❄︎
※他サイトにも掲載しています。
あまやかしても、いいですか?
藤川巴/智江千佳子
恋愛
結婚相手は会社の王子様。
「俺ね、ダメなんだ」
「あーもう、キスしたい」
「それこそだめです」
甘々(しすぎる)男子×冷静(に見えるだけ)女子の
契約結婚生活とはこれいかに。

Sランクの年下旦那様は如何でしょうか?
キミノ
恋愛
職場と自宅を往復するだけの枯れた生活を送っていた白石亜子(27)は、
帰宅途中に見知らぬイケメンの大谷匠に求婚される。
二日酔いで目覚めた亜子は、記憶の無いまま彼の妻になっていた。
彼は日本でもトップの大企業の御曹司で・・・。
無邪気に笑ったと思えば、大人の色気で翻弄してくる匠。戸惑いながらもお互いを知り、仲を深める日々を過ごしていた。
このまま、私は彼と生きていくんだ。
そう思っていた。
彼の心に住み付いて離れない存在を知るまでは。
「どうしようもなく好きだった人がいたんだ」
報われない想いを隠し切れない背中を見て、私はどうしたらいいの?
代わりでもいい。
それでも一緒にいられるなら。
そう思っていたけれど、そう思っていたかったけれど。
Sランクの年下旦那様に本気で愛されたいの。
―――――――――――――――
ページを捲ってみてください。
貴女の心にズンとくる重い愛を届けます。
【Sランクの男は如何でしょうか?】シリーズの匠編です。
復讐の始まり、または終わり
月食ぱんな
恋愛
婚約破棄したのち、国外追放された両親から産まれたルシア・フォレスター。その身を隠し、まるで流浪の民のような生活を送る中、両親が母国に戻る事に。そのせいで人と関わる事のなかったルシアは、善と悪の心を学ぶフェアリーテイル魔法学校に入学する羽目になる。
そんなルシアが目指すのは、世界が震える悪役になること。そして両親を追放した王国に復讐を果たすことだ。しかしルシアは魔法学校に向かう道中、復讐相手の一人。自分の両親を国外追放した者を親に持つ、ルーカスに出会ってしまう……。友達、恋、そして抗う事の許されない運命に立ち向かう、悪役を目指す女の子の物語です。なろう様で先行連載中です。

エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
契約恋愛から始まる真実の愛
リリリ
恋愛
柴田美咲は25歳の普通の女性。都会のカフェで働きながら、恋愛とは無縁の日常を送っていた。そんな彼女の前に現れたのは、温和で穏やかな御曹司、神谷誠一。彼は家族の事情で結婚をする必要があり、何も知らない美咲に突然「契約結婚」の提案をする。
冷徹なイメージを持たれがちだが、実際の神谷は誰に対しても礼儀正しく、温かい心を持つ男性だった。仕事には真摯に取り組むが、恋愛に対してはとても不器用。最初は無理にでも結婚を提案するが、その後、彼女との生活を始める中で少しずつ「できるだけ幸せにしたい」と思うようになる。
契約結婚という冷徹なスタートを切った二人だが、日々の中で気持ちが変化していき、次第にお互いの心を結びつけていく。最初は遠慮しがちな彼の優しさが、ついには本物の愛へと変わる。静かな心の動きに気づいたとき、彼はついにその気持ちを伝える時を迎える。
契約から始まる恋が、どんな形で本物の愛に変わっていくのか。慎重な御曹司と、素直で真っ直ぐなヒロインが織りなす、じれったいけれど心温まる恋物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる