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初めての一目惚れ①

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「浅木さん、昨日見たわよ」
「……え?」

 同じ受付の部署で働く先輩社員である森内もりうちさんが、スタッフルームでニヤつきながら話しかけてきた。
 私は隣にいた蘭と一瞬顔を見合わせつつ、森内さんには愛想笑いの笑みを浮かべる。
 理由はわからないけれど、私と蘭はふたりとも森内さんから事あるごとに嫌味を言われるので、好かれてはいないと自覚している。
 私たちのことが嫌いなら、いっそ絡まないで欲しいのだけれど、彼女は先輩なのでこちらとしては無視もできない。
 女同士の人間関係は難しいと感じながら、適当にかわすしかない毎日だ。

「フレンチデートしてたでしょ」
「見られちゃってました?」

 昨日のことと言えば……あれしかない。
 話したくない出来事なだけに、顔が多少ひきつった。

「お相手、イケメンだったわね。浅木さんって面食いだっけ?」
「……あれは忘れてください」
「え?」

 私が聞かれたことに答えずに、忘れてほしいと言ったせいなのか、森内さんの表情が瞬時に固まった。
 ……恐ろしい。怒らせてしまっただろうか。
 後々のことを考えると、めちゃくちゃ面倒くさくなる応対をしてしまったと気がついた。
 だけど昨日の件は話したくない。親友の蘭は別として、仲が良いとは言えない森内さんにまでペラペラと話せるような気軽な内容ではないからだ。

「昨日の男性はなんでもないので、見なかったことにしてもらいたいというか……」
「なにそれ」

 精一杯にこにことした笑顔でフォローしてみたけれど、森内さんにはフン!っと不機嫌に立ち去られてしまった。

 ……まぁいいか。いや、良くはないけれど仕方がない。
 どうやら昨日の最後の修羅場は見られていないみたいなので、そこは唯一幸いだ。
 私がどんな言い方をしようが、森内さんは結局は面白がるのが目的で、少しでも私が口答えしようものなら不機嫌になっただろう。あの人はもう放っておくしかない。

「昨日の男性って、仁科さんのこと?」

 蘭が口元に手を添えながら、周りに聞こえないように小声で聞いてきた。仁科さんとは食事に行く仲だと、以前から蘭には伝えてある。
 私はうんうんと小さく頷き、ため息を漏らしたあと、昨日起こった出来事を詳細に蘭に話した。

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