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いきなりのプロポーズ④
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「これくらいされても仕方ないんじゃない? 全部バレてんのよ、バカな男ね」
瑠璃子という女性が吐き捨てるように言い、今度は私へと視線を向ける。
同じように私も赤ワインを浴びせられるのだろうかと構えたが、彼女はそれをしなかった。
「こんな男、欲しいなら熨斗つけてくれてやるけど、コイツと結婚したら間違いなく後悔するわよ。やめとけば?」
「え?……」
予想に反して、彼女は静かな口調で私に話しかけてきた。私に対しても怒っていると思ったけれど、どうしてだか憐れむような表情をしている。
「東大卒って聞いてる?」
「……はい」
「経産省のエリート官僚だ、って?」
「そう聞いてますけど……」
東大卒の秀才で、エリート官僚、出世街道まっしぐらで、将来は事務次官まで上りつめるかも、と本人が言っていたのだけれど違うのだろうか?
「東大卒なんて嘘よ。経産省も居たことは居たけど、今は辞めてる」
「えぇ?!」
驚いて仁科さんに視線を移すと、しかめっ面をしたまま彼は私と目を合わさなかった。
違うなら違うで反論しただろうから、なにも言い返さないところを見ると、彼女の発言が真実だということだ。
「あなた、まんまと騙されてたのよ。ま、私もだけど」
仁科さんはずっと嘘をついていて、その状態で私にプロポーズをしてきたのだ。
彼の中では、出身校や職業はたいした嘘ではない認識で、ずっとバレないとでも思っていたのだろうか。
そして……瑠璃子さんとは恋人関係なのだろう。
恋人がいるのに、どうして付き合ってもいない私に好きだの結婚してほしいだのと言えたのか、そこがわからない。
彼女と付き合ったまま、うまく私に乗り換えるか二股するつもりだったのかもしれないと、考えれば考えるほど思考が悪いほうへと傾いていき、仁科さんへの信頼が崩壊していく。
「コイツ、まだ他にも女がいるから。私の友達にも手を出したの。最低な男!」
私が想像したよりもずっと、仁科さんの女性関係はひどいようだ。瑠璃子さんとそのお友達とで、すでに二股をしていたなんて。
「付き合う前にわかって助かりました。ありがとうございます」
「あなた、まだ付き合ってなかったの?」
瑠璃子さんが驚いた顔をしたあと、あははと笑った。ワインを引っかけたことで気が済んだのか、怒りも少しおさまったようだ。
「美桜さん、俺は本当に、君のことが好きで……」
「仁科さん、もういいです。お元気で」
今さらなにを、とあきれてしまった。
私が椅子から立ち上がると、仁科さんが私を引き止めるような素振りを見せたけれど、瑠璃子さんがまだ自分との話が終わっていないと割って入る。私はその隙にレストランの外へ出た。
どうしてまたこんなことになったのだろう。
三雲さんのプロポーズのときも驚かされたけど、今日は本当に最悪だ。
人がワインを浴びせられる場面なんて人生で初めて見た。修羅場など御免なのに。
とりあえず、帰ってお風呂に入って疲れを取って、仁科さんのことはもう忘れよう。
私は母とふたり暮らしだけれど、今夜は仁科さんと食事をして帰ると伝えてある。
楽しかった? と聞かれたら、今の出来事をそのまま話そう。そう考えながら家路を急いだ。
瑠璃子という女性が吐き捨てるように言い、今度は私へと視線を向ける。
同じように私も赤ワインを浴びせられるのだろうかと構えたが、彼女はそれをしなかった。
「こんな男、欲しいなら熨斗つけてくれてやるけど、コイツと結婚したら間違いなく後悔するわよ。やめとけば?」
「え?……」
予想に反して、彼女は静かな口調で私に話しかけてきた。私に対しても怒っていると思ったけれど、どうしてだか憐れむような表情をしている。
「東大卒って聞いてる?」
「……はい」
「経産省のエリート官僚だ、って?」
「そう聞いてますけど……」
東大卒の秀才で、エリート官僚、出世街道まっしぐらで、将来は事務次官まで上りつめるかも、と本人が言っていたのだけれど違うのだろうか?
「東大卒なんて嘘よ。経産省も居たことは居たけど、今は辞めてる」
「えぇ?!」
驚いて仁科さんに視線を移すと、しかめっ面をしたまま彼は私と目を合わさなかった。
違うなら違うで反論しただろうから、なにも言い返さないところを見ると、彼女の発言が真実だということだ。
「あなた、まんまと騙されてたのよ。ま、私もだけど」
仁科さんはずっと嘘をついていて、その状態で私にプロポーズをしてきたのだ。
彼の中では、出身校や職業はたいした嘘ではない認識で、ずっとバレないとでも思っていたのだろうか。
そして……瑠璃子さんとは恋人関係なのだろう。
恋人がいるのに、どうして付き合ってもいない私に好きだの結婚してほしいだのと言えたのか、そこがわからない。
彼女と付き合ったまま、うまく私に乗り換えるか二股するつもりだったのかもしれないと、考えれば考えるほど思考が悪いほうへと傾いていき、仁科さんへの信頼が崩壊していく。
「コイツ、まだ他にも女がいるから。私の友達にも手を出したの。最低な男!」
私が想像したよりもずっと、仁科さんの女性関係はひどいようだ。瑠璃子さんとそのお友達とで、すでに二股をしていたなんて。
「付き合う前にわかって助かりました。ありがとうございます」
「あなた、まだ付き合ってなかったの?」
瑠璃子さんが驚いた顔をしたあと、あははと笑った。ワインを引っかけたことで気が済んだのか、怒りも少しおさまったようだ。
「美桜さん、俺は本当に、君のことが好きで……」
「仁科さん、もういいです。お元気で」
今さらなにを、とあきれてしまった。
私が椅子から立ち上がると、仁科さんが私を引き止めるような素振りを見せたけれど、瑠璃子さんがまだ自分との話が終わっていないと割って入る。私はその隙にレストランの外へ出た。
どうしてまたこんなことになったのだろう。
三雲さんのプロポーズのときも驚かされたけど、今日は本当に最悪だ。
人がワインを浴びせられる場面なんて人生で初めて見た。修羅場など御免なのに。
とりあえず、帰ってお風呂に入って疲れを取って、仁科さんのことはもう忘れよう。
私は母とふたり暮らしだけれど、今夜は仁科さんと食事をして帰ると伝えてある。
楽しかった? と聞かれたら、今の出来事をそのまま話そう。そう考えながら家路を急いだ。
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