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久しぶりねぇ!
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馬車が停まる。数日かけてきたクロック侯爵の別宅は、思ったより長閑な場所にあった。会談場所からは、馬車で1時間程度のところにあったので、便利と言えば便利ではあったが、私の遊びたい心をくすぐっていくから困る。
「いい場所ね?」
「馬を駆っていきたいなぁ~」
「あぁ、わかるわ!私、思いっきり走りたくなる!」
私とウィルが馬車を降りてから見える長閑な草原をはしゃいで見ていると、ナタリーが声をかけてきた。明らかに呆れた声なのは、私たちの話が聞こえていたのだろう。
「アンナリーゼ様、行きますよ!」
「えぇ、わかっているわ!」
「わかっているようには思えませんけど……」
小首を傾げていると、荷物の指示を出しているナタリーに手招きされる。正面玄関からは、セバスが疲れた顔で出迎えてくれる。
「セバス!」
「……アンナリーゼ様」
暗い顔をしているセバスに私もウィルもナタリーも駆け寄った。明らかに疲れているのはわかるが、顔色もよくない。
「大丈夫か、セバス」
「うん、これでもだいぶ良くなったほうなんだ」
「何かあったの?」
「……いろいろと。話は中でしましょう。キースも部屋で待っていてくれますから」
私たちはセバスの案内で、客間へと向かう。ここはセバスが使わせてもらっている部屋だそうだが、どうも様子がおかしい。
「キースは、どうしたの?」
「毒を盛られたんだ」
「毒?」
「そう。僕が最初に盛られたようなんだけど、それを感知したキースが、変わりに食べて……それで、今」
ベッドで苦しそうに横たわっているのは、紛れもなく私の知るキースであった。顔色は黄土色をして、浅い息を細々とする。
「……キース。どうして?」
「エルドア側が、僕に対して、強行的になったんだ。こちらの中にも内通者がいるみたいで、ごめん。こんなことになって」
「……でも、セバスもキースも生きてくれてよかったわ。私が先を読めなかったのが原因ね。ヒーナ、箱を」
荷物を運んでいたヒーナに指示を出すと、すぐに箱を持ってきてくれる。
「セバス、まずは、これを飲んで」
「万能解毒剤だね。ありがとう」
「お礼を言われるものではないわ!危険に晒したのは私ですもの」
「それも、覚悟の上に来ているから。それでも、こうして、僕がくじけそうなときに来てくれるって、信じていたよ」
「……遅くなってしまったわ」
いいんだ、僕はそれだけでといったあと、微笑み、試験管を口に当てる。グイっと飲んでしまい、ソファにかけた。立っているのもやっとのように見えたが、少しだけ、楽になってきたようだ。先程とは、顔色が違った。
「キース、アンナよ?お薬、飲めるかしら?」
うっすら目を開けるだけで、返事をしない。相当な毒の量を体に取り込んだようで、虫の息とはこのことではないだろうか。
「ヒーナ、薬をちょうだい」
差し出された試験管をひったくるようにして、キースの口元へ持っていくが、うまく飲めず、口元から流れていってしまう。私は、口に含みキースに口伝いに万能解毒剤を飲ませた。ナタリーは怒っているし、ウィルは見なかったことにするらしいし、セバスは弱った体を起こして苦笑いをしていた。
ゴク、ゴク……とキースの喉を流れていく音がする。私は含んだままの解毒剤をゆっくり流し込み、反対の手で、ヒーナにもう1本くれと手を伸ばす。
渡された試験管を握り、口を離した。もう1本、口に含み、もう一度、同じようにする。2本分の解毒剤を体に取り入れたら、浅かった息が少しだけ整ってきた。心なしか、顔色も良くなってきている。
「……とりあえず、二本で様子見ね?」
「そうだな。容態を見て話せるようになったら、話聞こうか」
「そうね、今は少しでも休んだ方がいいだろう」
「セバスも少し休んでちょうだい。私たちは、少し、屋敷を案内しもらうから」
「わかったよ。もう少しだけ休ませてもらうね」
部屋にあるもうひとつのベッドに向けて歩き始めた。足取りは危うく、ウィルが支えた。
「姫さん、俺、この部屋にいるから!」
「わかったわ!二人のことを頼んだわよ!」
あぁと返事をするウィルの後ろ姿はとても怒っていた。友人であるセバス、近衛の一員であるキースが、二人が命を懸けて、戦っているのに、水やりをした犯人がどこかにいるらしい。先程から姿が見えないものもいるが、とりあえず、解毒剤を飲んだので急速が必要だと部屋を出る。
「セバス、大丈夫でしょうか?」
廊下に出た瞬間、ナタリーは心配そうにしている。大丈夫と根拠もなく返事を返したが、それでもナタリーは多少の安心をしたような表情を見せる。
「それにしても誰があんなことを?戦争を始めるには、セバスが邪魔だったということでしょうか?」
「そうだと思うわ。セバスの意志は堅かった。円卓での話合いが平行線だったから、誰かが、手を出したのでしょう。調べればわかることだからいいのだけど……それより、パルマは大丈夫かしらね?」
「そういえば、見当たりませんね?向こうへついていったのかもしれませんね」
私は返事の代わりに頷き、ヒーナに万能解毒剤を届けてもらえないかと伝えれば、早々に出かけてくれるようだ。
「アンナリーゼ様、よかったのですか?」
「ヒーナのこと?」
「えぇ、一応敵国の人間なのですけど」
「そうね。でも、そういう気はなさそうだから、いいわ」
素直では決してないヒーナでは会ったが、少しずつ打ち解けてきてはいる。何も知らず、ただ、戦争を起こす火種役から解放されたヒーナは、前よりいい顔で笑うようになったのよと言えば、ナタリーは少しだけ不満そうにしていた。
「いい場所ね?」
「馬を駆っていきたいなぁ~」
「あぁ、わかるわ!私、思いっきり走りたくなる!」
私とウィルが馬車を降りてから見える長閑な草原をはしゃいで見ていると、ナタリーが声をかけてきた。明らかに呆れた声なのは、私たちの話が聞こえていたのだろう。
「アンナリーゼ様、行きますよ!」
「えぇ、わかっているわ!」
「わかっているようには思えませんけど……」
小首を傾げていると、荷物の指示を出しているナタリーに手招きされる。正面玄関からは、セバスが疲れた顔で出迎えてくれる。
「セバス!」
「……アンナリーゼ様」
暗い顔をしているセバスに私もウィルもナタリーも駆け寄った。明らかに疲れているのはわかるが、顔色もよくない。
「大丈夫か、セバス」
「うん、これでもだいぶ良くなったほうなんだ」
「何かあったの?」
「……いろいろと。話は中でしましょう。キースも部屋で待っていてくれますから」
私たちはセバスの案内で、客間へと向かう。ここはセバスが使わせてもらっている部屋だそうだが、どうも様子がおかしい。
「キースは、どうしたの?」
「毒を盛られたんだ」
「毒?」
「そう。僕が最初に盛られたようなんだけど、それを感知したキースが、変わりに食べて……それで、今」
ベッドで苦しそうに横たわっているのは、紛れもなく私の知るキースであった。顔色は黄土色をして、浅い息を細々とする。
「……キース。どうして?」
「エルドア側が、僕に対して、強行的になったんだ。こちらの中にも内通者がいるみたいで、ごめん。こんなことになって」
「……でも、セバスもキースも生きてくれてよかったわ。私が先を読めなかったのが原因ね。ヒーナ、箱を」
荷物を運んでいたヒーナに指示を出すと、すぐに箱を持ってきてくれる。
「セバス、まずは、これを飲んで」
「万能解毒剤だね。ありがとう」
「お礼を言われるものではないわ!危険に晒したのは私ですもの」
「それも、覚悟の上に来ているから。それでも、こうして、僕がくじけそうなときに来てくれるって、信じていたよ」
「……遅くなってしまったわ」
いいんだ、僕はそれだけでといったあと、微笑み、試験管を口に当てる。グイっと飲んでしまい、ソファにかけた。立っているのもやっとのように見えたが、少しだけ、楽になってきたようだ。先程とは、顔色が違った。
「キース、アンナよ?お薬、飲めるかしら?」
うっすら目を開けるだけで、返事をしない。相当な毒の量を体に取り込んだようで、虫の息とはこのことではないだろうか。
「ヒーナ、薬をちょうだい」
差し出された試験管をひったくるようにして、キースの口元へ持っていくが、うまく飲めず、口元から流れていってしまう。私は、口に含みキースに口伝いに万能解毒剤を飲ませた。ナタリーは怒っているし、ウィルは見なかったことにするらしいし、セバスは弱った体を起こして苦笑いをしていた。
ゴク、ゴク……とキースの喉を流れていく音がする。私は含んだままの解毒剤をゆっくり流し込み、反対の手で、ヒーナにもう1本くれと手を伸ばす。
渡された試験管を握り、口を離した。もう1本、口に含み、もう一度、同じようにする。2本分の解毒剤を体に取り入れたら、浅かった息が少しだけ整ってきた。心なしか、顔色も良くなってきている。
「……とりあえず、二本で様子見ね?」
「そうだな。容態を見て話せるようになったら、話聞こうか」
「そうね、今は少しでも休んだ方がいいだろう」
「セバスも少し休んでちょうだい。私たちは、少し、屋敷を案内しもらうから」
「わかったよ。もう少しだけ休ませてもらうね」
部屋にあるもうひとつのベッドに向けて歩き始めた。足取りは危うく、ウィルが支えた。
「姫さん、俺、この部屋にいるから!」
「わかったわ!二人のことを頼んだわよ!」
あぁと返事をするウィルの後ろ姿はとても怒っていた。友人であるセバス、近衛の一員であるキースが、二人が命を懸けて、戦っているのに、水やりをした犯人がどこかにいるらしい。先程から姿が見えないものもいるが、とりあえず、解毒剤を飲んだので急速が必要だと部屋を出る。
「セバス、大丈夫でしょうか?」
廊下に出た瞬間、ナタリーは心配そうにしている。大丈夫と根拠もなく返事を返したが、それでもナタリーは多少の安心をしたような表情を見せる。
「それにしても誰があんなことを?戦争を始めるには、セバスが邪魔だったということでしょうか?」
「そうだと思うわ。セバスの意志は堅かった。円卓での話合いが平行線だったから、誰かが、手を出したのでしょう。調べればわかることだからいいのだけど……それより、パルマは大丈夫かしらね?」
「そういえば、見当たりませんね?向こうへついていったのかもしれませんね」
私は返事の代わりに頷き、ヒーナに万能解毒剤を届けてもらえないかと伝えれば、早々に出かけてくれるようだ。
「アンナリーゼ様、よかったのですか?」
「ヒーナのこと?」
「えぇ、一応敵国の人間なのですけど」
「そうね。でも、そういう気はなさそうだから、いいわ」
素直では決してないヒーナでは会ったが、少しずつ打ち解けてきてはいる。何も知らず、ただ、戦争を起こす火種役から解放されたヒーナは、前よりいい顔で笑うようになったのよと言えば、ナタリーは少しだけ不満そうにしていた。
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