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第4章 苦悩
75 まぐわい
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この部屋に来るのは、浅葉のバースデーをそうとは知らずに祝ったあの日以来だった。乾き切っていない部屋干しの洗濯物と、まだ洗われてすらいないものとが入り混じった、梅雨のような匂いがする。
浅葉は洗面所から出てくると、ワイシャツのボタンを上から二つ外しながら、千尋の方を振り返った。千尋が今どの段階にあるのか、見定めようとしている目だ。
千尋はかろうじて靴を脱いだだけで、玄関に立ちつくしていた。気持ちは抑え切れないほど高まっていたが、この場を自分が主導することには幾分の羞恥を覚えた。
浅葉は、千尋を見つめたまま靴下を脱ぐと、早々に結論を出した様子でさっと歩み寄る。千尋の前にしゃがみ込み、足首までの白い靴下をまず脱がせた。それが何だかおかしくて、でもどこか官能的に思えて、千尋の頬がつい緩む。
隣家から聞こえてくるテレビの音。タレントが何か言って会場が沸く。その向こうに単調な機械音が重なった。洗濯機でも回しているのだろうか。
浅葉とここにいる。それだけでつい荒くなりそうな呼吸を、千尋は叱りつけるように押し殺していた。浅葉が普段限られた自分だけの時間を過ごしているのであろうこの部屋は、彼の聖域のように感じられた。初めてその空間で肌を重ねることを思うだけで、千尋の心臓は制御不能に陥る。
千尋のブラウスに手をかけながら、浅葉は頬骨に真正面から唇を触れた。電気が走る。千尋はその唇に噛み付いてしまいたくなる本能を必死に抑えた。
気のせいかいつもよりさらにもったいぶった調子で千尋の覆いを一枚また一枚と解いてゆく浅葉に、ただ身を任せた。自分から攻めてしまいたい衝動とは裏腹に、浅葉の奔放なペースに委ねることにこそ、千尋は至上の悦楽を見出していた。
千尋の艶やかな上半身が白熱電球の光に触れると、ようやく堰を切ったように、狂おしい思いに満ちたキスが浴びせられた。唇を塞いだままシャツを床に落とした浅葉の熱い肌が、胸の先に触れる。千尋はたまらず全身を投げるように押し付けた。
浅葉の唇がうなじを這うと、耐えかねた千尋の喉笛がヒュッと短く鳴った。体の芯がしびれを切らし、猛り狂っていた。早く全て脱がされてしまいたかったが、あまりがっついた態度をさらすのも嫌だった。
わずかに残された理性でブレーキを掛けながら、甘えるように浅葉のベルトを抜いた。板張りの床で金具が鈍い音を立てた直後、両膝の裏に浅葉の腕を感じる。千尋はいとも簡単に抱き上げられ、幅の狭いベッドへと導かれていた。
肩から腕をじっくりとほぐし、ついに千尋の胸を捕らえた手が、肌に吸い付くように熱っぽく旋回する。目の前が真っ白になり、正気を失うのではないかと手探りで拠り所を求めると、浅葉のもう一方の手に辿り着いた。その手は既に千尋の白い脚を概ね露出させていた。
最後の一枚を剥ぎ取られながら、それがぐっしょりと濡れていることに気付き、千尋はあっと声を上げた。すぐさま、気にするな、というようにその口が封じられる。
浅葉はこれ以上ないぐらい硬くなっていたが、どういうわけかいつまでたっても中に入りたがらなかった。千尋はそっと手を触れて丁重に導いた。
浅葉は洗面所から出てくると、ワイシャツのボタンを上から二つ外しながら、千尋の方を振り返った。千尋が今どの段階にあるのか、見定めようとしている目だ。
千尋はかろうじて靴を脱いだだけで、玄関に立ちつくしていた。気持ちは抑え切れないほど高まっていたが、この場を自分が主導することには幾分の羞恥を覚えた。
浅葉は、千尋を見つめたまま靴下を脱ぐと、早々に結論を出した様子でさっと歩み寄る。千尋の前にしゃがみ込み、足首までの白い靴下をまず脱がせた。それが何だかおかしくて、でもどこか官能的に思えて、千尋の頬がつい緩む。
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浅葉とここにいる。それだけでつい荒くなりそうな呼吸を、千尋は叱りつけるように押し殺していた。浅葉が普段限られた自分だけの時間を過ごしているのであろうこの部屋は、彼の聖域のように感じられた。初めてその空間で肌を重ねることを思うだけで、千尋の心臓は制御不能に陥る。
千尋のブラウスに手をかけながら、浅葉は頬骨に真正面から唇を触れた。電気が走る。千尋はその唇に噛み付いてしまいたくなる本能を必死に抑えた。
気のせいかいつもよりさらにもったいぶった調子で千尋の覆いを一枚また一枚と解いてゆく浅葉に、ただ身を任せた。自分から攻めてしまいたい衝動とは裏腹に、浅葉の奔放なペースに委ねることにこそ、千尋は至上の悦楽を見出していた。
千尋の艶やかな上半身が白熱電球の光に触れると、ようやく堰を切ったように、狂おしい思いに満ちたキスが浴びせられた。唇を塞いだままシャツを床に落とした浅葉の熱い肌が、胸の先に触れる。千尋はたまらず全身を投げるように押し付けた。
浅葉の唇がうなじを這うと、耐えかねた千尋の喉笛がヒュッと短く鳴った。体の芯がしびれを切らし、猛り狂っていた。早く全て脱がされてしまいたかったが、あまりがっついた態度をさらすのも嫌だった。
わずかに残された理性でブレーキを掛けながら、甘えるように浅葉のベルトを抜いた。板張りの床で金具が鈍い音を立てた直後、両膝の裏に浅葉の腕を感じる。千尋はいとも簡単に抱き上げられ、幅の狭いベッドへと導かれていた。
肩から腕をじっくりとほぐし、ついに千尋の胸を捕らえた手が、肌に吸い付くように熱っぽく旋回する。目の前が真っ白になり、正気を失うのではないかと手探りで拠り所を求めると、浅葉のもう一方の手に辿り着いた。その手は既に千尋の白い脚を概ね露出させていた。
最後の一枚を剥ぎ取られながら、それがぐっしょりと濡れていることに気付き、千尋はあっと声を上げた。すぐさま、気にするな、というようにその口が封じられる。
浅葉はこれ以上ないぐらい硬くなっていたが、どういうわけかいつまでたっても中に入りたがらなかった。千尋はそっと手を触れて丁重に導いた。
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