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第6話:人間の可能性

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そして、桜川逮捕から3日が経った。


「虎太郎くん、今日も来ませんね……。」

その後、特に大きな事件は起こっていない。
『神の国』の捜査は続いているが、未だ全容が解明できていない現状。
警察の関係者に幹部がいたことで、警視庁内はピリピリとした雰囲気に包まれていた。

捜査一課の稲取は、県内外の各署と連携を取り、情報共有を行っている。
特務課も、一課と連携を取りながらも独自にこれまでの事件の背景、関係者などを調べていた。


「猫の手も借りたいところだが、まぁ仕方ねぇよ。アイツの気持ち次第だろ。」

「そうだよね……。精神的な傷って、なかなか治らないものだよね。」

「ま、アイツのぶんも私が働くし、問題ないっしょ。」


メンバー全員で虎太郎の部屋に押し掛けてから、その後連絡は来ていない。
さすがに音沙汰がないと心配にもなってくる。

桜川の移送は既に済んだ。
それだけは良かったと皆思ってはいたが、虎太郎が復帰するのか、それがメンバー達の不安材料であった。


「また、押し掛けてやるか!今度は思いっきり散らかしてやろうよ!」

「あさみちゃん……虎に対しては本当に厳しいよね……。」

「べーつに、イジる奴が来ないから、退屈なだけよ。なーんか、いじめたつもりもないのに勝手に不登校になられて悪者にされたカンジ~」

あさみが虎太郎の机の上に座り、退屈だと伸びをする。


そのときだった。


「……おい、俺の机は椅子じゃねぇぞ。そのデカいケツを早く退けろ。」

「……なぁにおぉう!?……って……。」


あさみの背後から声をかけた人物、それは虎太郎だった。


「おぉ虎太郎くん!いつの間に?」

「あぁ、いま。」

「司令、見えてたんじゃ~ん!言ってよー!」

「ふふっ、みんな気付いていなかったから、面白いと思って。」


虎太郎が司令室に入ったとき、皆窓の外を見ていた。
司だけが虎太郎の入室に気付き、会釈をする虎太郎を笑顔で迎えたのだった。


「もう、大丈夫なの?」

司が優しく虎太郎に問う。

「大丈夫かどうかと言ったら……まだキツいっす。でも、このまま腐ってたら、奈美に愛想尽かされちまう。アイツは、正義のために働く『警察官』の俺についてきてくれてたんだからな。俺が無職になるわけにはいかねぇだろ。」

そして、虎太郎はメンバーに向かって深々と頭を下げる。

「長いこと御迷惑をおかけしました!今日から復帰するんで、こき使ってください!」

司令室じゅうに響く、虎太郎の元気な声。

一同に笑顔が浮かぶ。


「虎ぁ、これぜーんぶ処理しといて。忙しくて手がつけられなかったんだよね……。」

そんな虎太郎の机の上に、北条が大量の紙束を置く。


「これ、領収書?」

「うん、事件の間の交通費とか、各種手配費用、薬剤の調達、先日の買い出し……」

「買い出しは自腹だろうが!」

「まぁまぁ、ついでだよついで。」

「絶対、承認されねぇ……!」

北条と虎太郎のやり取りに、メンバーが一様に笑う。


この日、久しぶりに特務課メンバー全員が揃ったのであった。


「ちょっと、経理に行ってくる!!」


飛び出すように司令室を飛び出す虎太郎。


「虎ぁ!」

そんな虎太郎を呼び止める、北条。


「ゆっくりで、いいから。」

その一言は、北条なりの優しさ。
大切な人を失った虎太郎が、潰れてしまいはしないか?
自棄になり、道を踏み外したりはしないか?
そんな心配を、一言に込めた。


「俺、北条さんがバディで良かったよ。そして、特務課で良かった。みんなのお陰で、北条さんのお陰で、俺はなんとかやれそうだ。」


特務課のメンバーには、そして何より北条には感謝していた。
奈美を殺した犯人を逮捕し、そして自分のことを案じてくれた。
そして、居場所を残しておいてくれた。


「……奈美が言ってたんだ。俺に惹かれた理由は、困った人にはいつだって真っ直ぐに向き合っていたからだって。だからさ、これからも刑事として、困ってる人に真っ直ぐに向き合おうと思う。そうじゃねぇと……天国の奈美に愛想尽かされちまうからな。」

「……うん。僕もそれが一番、ふたりのためだと思うよ。これからは、今までよりも自分を大事に。君の身体には、奈美ちゃんの想いも宿っているんだからね。」


虎太郎の言葉に安心した北条は、優しい笑みを虎太郎に向けた。


「北条さん……いろいろ、サンキュ。俺……足引っ張らないように、これから頑張るからさ。」

「別に良いよ、足引っ張ったらその日の晩酌、奢ってくれれば。」

「お、おぅ……って、引っ張らねぇよ!」

「ま、期待しないで見ているよ。じゃ、御使いよろしく~」


手をひらひらと振りながら司令室に戻る北条。
その顔には笑みが浮かんでいた。


「虎ぁ、帰りに太陽堂のチョコカステラ買ってきて~」

「あ、僕マカロン。」

「俺は島田屋の豆大福な。」

「えっと、私は……」


虎太郎と北条のやり取りを聞いていたのか、メンバー達が扉から一斉に身を乗り出して言う。


「経理に行くのにお土産なんてあるか!!」


そんなメンバーに元気なツッコミを入れ、虎太郎が笑う。

「外出していいなら、帰りに買ってくるよ。」




こうして、法医・桜川の犯行による一連の事件は幕を閉じた。
たくさんの悲しみをもたらしたこの事件は、一人の若手刑事をより成長させるきっかけとなった。


虎太郎の成長、それが今後の捜査を左右することになることは、この時点では誰も知らない……。


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