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第3話:恨みの花火
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爆弾の解除は特に大きな問題もなく進んでいく。
その手際の良さは、爆弾についての知識がない虎太郎も分かるほどであった。
「本当にすごいんだな、素人の俺が見てても分かるぜ。」
「まぁ、これで飯食ってたくらいだからな。引退してからは、余計な知識でしかないけどよ。」
「余計ってことは無いだろ。こうして今もこの場にいる人達への被害を抑えようとしているんだ。」
「まぁ……この場は、な……。」
『この場は』と言う言葉が、虎太郎にはどうも引っかかった。
携帯の画面に映る、10年前の事件の概要に目を通しながら、虎太郎は辰川の話を聞く。
「爆弾っていうのは、1つずつ慎重に解除しなければならない。でも、その解除をしている間に他の場所で爆弾が見つかったら、その爆弾には何も対処が出来ない。たくさんの犠牲を生む爆弾、しかし俺たち爆処理は、ひとり1つの爆弾しか対処できないんだ。理不尽だよなぁ……。」
ひとつ、またひとつ銅線が切られていく。
ひとつ、またひとつ部品が解体されていく。
「もしかして、10年前……。」
「あぁ。俺が一つの爆弾にかかりきりになっている間に、もう一つの爆弾が爆発した。それも、その時俺が解除していた爆弾よりも数倍規模がでかくてな……。その爆弾のせいで、多くの人が犠牲になった。その中には、同じ爆弾処理班の家族も居たんだ。」
台場の爆弾の解除は、あと少し。
3時間かかると予想されていた解除も、今は1時間半程度。
想定よりもはるかに早く解除できそうである。
「もし……俺が解除する爆弾の場所を見誤らなければ、盟友の家族は死ななかったし、もっと被害は少なかったかもしれない……。」
爆弾に対する知識がある者が辰川の現在の解除の手際を見れば、まさに『神懸り』であると言えるのであろう。
しかし、それでも満足できない何かが、辰川の胸の中でもやもやと動いていたのだ。
「でも、辰川さんがそっちの爆弾を解除に行っていたら、別の人たちが死んだ。別の人たちの大切な家族が死んだ。」
「虎……。」
携帯の画面を見ながら、それでも虎太郎は辰川に言った。
「同僚の家族が死んだって、それは辰川さんの所為じゃねぇ。爆弾がひとりひとつしか解除できねぇんなら、辰川さんはやるだけのことをやったんじゃねぇのか?最も、憎むべきは……。」
何となく、時間の概要が見えてきた虎太郎。
「……解除した人間じゃねぇ。爆弾を設置した、犯人だ。」
「……!!」
辰川が、虎太郎を見る。
(ふっ……、こんな若造に諭されるとはな……。)
辰川の虎太郎を見る目が、次第に変わっていくのを、辰川自身が実感していた。
「……サンキュ、相棒。」
「……おう、早く解除して次に行こうぜ。」
「……よし、解除終了だ。」
「おぉ……予定よりも1時間早いじゃないか!」
台場・テレビ局内。
辰川はようやく大型の爆弾を解除した。
予想されていた3時間を大幅に短縮する、2時間少々。
犯人が10年前の爆弾を模したためか、辰川にはその爆弾の解除方法がしっかりと頭に入っていたのだ。
「模倣……っていうか、前回の爆弾と全く同じ。銅線の本数も、火薬の量も、発火装置も全て。完全に10年前の爆弾を模倣して造られたものだ。分かってさえいれば……簡単だ。」
「さすがだな……辰川さん。でも、さ……。」
ここで虎太郎にひとつの疑問が浮かび上がる。
「でもさ……10年前の爆弾の型って、一般に公表されたのか?」
「……え?」
虎太郎の、素朴な疑問。
しかしそれは、この事件の核心をつくものだった。
「いや……事件の概要は、爆弾の種類・型も含めて、部外秘とされていたはずだ……。」
「じゃぁ、誰が作ったんだよ……。」
「誰が……。」
この時、辰川が思い描いた犯人像。
その人物のことを想い浮かべると、背筋が凍る想いだった。
「俺は……気付かないふりをしていたのかも知れない。認めたくなくて、どこかで顔を背けていたのかも知れない。」
「辰川さん……?」
心配そうに辰川を見つめる虎太郎。
しかし、その実虎太郎にも犯人像は割り出せていた。
志乃から送られてきた、10年前の事件の概要メール。
その名前に、つい先ほど聞いたばかりの名前が出てきたのだ。
―――爆弾処理班所属、中山 祐司の妻と子供が爆発に巻き込まれ即死。―――
「次の爆弾の大きさも規模も俺には分からない。設置されている場所も、犯人から知らされていない。しかし……。」
辰川が拳をかたく握りしめる。
「知らされていないのなら、こちらから聞き出してやろうじゃないか。『犯人』に……。」
辰川は、携帯を握りしめる。
「……了解。志乃さん、聞こえるか?緊急手配をかけて欲しい。もと爆弾処理班の中山さん、彼の所在を至急洗い出して欲しい。きっと、彼の行方が分からない限り、爆弾は際限なく設置される。」
「了解しました。すぐに配備をかけます。」
虎太郎が志乃に中山の手配を頼み、それを志乃はすぐに了解し、各所に伝達する。
「虎……すまないな。」
相棒さながらのサポートに、辰川が虎太郎に礼を言う。
「急造とはいえ、俺は今は辰川さんの相棒だからな。じゃぁ、俺は中山を探す。辰川さんは、もしどこかに爆弾が仕掛けられたら解除に向かって欲しい。」
「あぁ、了解だ。虎、もし爆弾を見つけても、くれぐれも手を出すなよ。まずは離れる。周囲の安全を確保する。それだけでいい。」
「了解!!」
シンプルな決め事を虎太郎に指示した辰川。
辰川は頷くと、飛び出すようにテレビ局から出ていった。
こうして、警視庁各課あげての犯人捜索、そして仕掛けられた爆弾の捜索・解除の大仕事が始まった。
「とりあえず、本部の情報が入ったらひとつずつしらみつぶしに探すしかねぇな、俺は。」
虎太郎は、司令部からの情報を頼りに、気になるところ、周辺住民への聞き込みを中心に捜査をすることにした。
「俺は、10年前の事件の現場となった場所をひとつずつ当たってみる。爆弾が仕掛けられていたら、その程度によって即解除か応援を呼ぶか決める。犯人からのメールが来たら、その時点でその現場に急行する。俺に来る予告なんて、ろくなものじゃないからな。」
一方の辰川は、心当たりのある場所の爆弾解除、そして犯人の犯行予告に対しての爆弾の爆発の阻止を受け持つことにした。
もちろん、心強い仲間もいる。
「大きな爆弾があったら、西尾の力も借りようと思う。司令、良いよな?」
「……えぇ。私からもお願いしておきます。まずは人命の安全が第一です。」
司令である司も、その立場を最大限に生かしたバックアップをするよう準備をする。
「でも……後手後手ね。中山の所在が分からない上に、爆弾をいくつ仕掛けられているのかも分からない。そして、予告が来ないとその爆弾の位置も確定しない……。犯人の掌で踊らされているみたいだわ。こんな時……。」
そこまで言いかけて、司は言葉を飲み込んだ。
(いない人のことを考えても、仕方ないわね……。)
もし、自分の知る人物が隣に居たら、どういう判断をして、どのように仲間に指示を出すのだろうか?
そこまで考え込んでしまった司だったが、今は自分が特務課の司令。
自分がしっかりしなければ、と両頬を力強く叩いた。
「志乃さん、悠真くん、中山の周囲を徹底的に調べて。所持している車、住んでいる場所、旅行歴、家族のこと……調べられる範囲で調べてくれればいいわ。そこでういちばん有力だと思われるところに、虎太郎くん……向かってちょうだい。判断はあなたの直感に任せるわ。」
司が特務課のメンバーに指示を出す。
「了解!!」
「はーい。」
「……了解!!俺のことはどんどん動かしてくれ!爆弾処理が出来ない分、ストレス溜まってんだ。体力は有り余ってるぜ!」
「任せたわよ。虎太郎くん、まずは西尾さんと合流してちょうだい。彼は中山と同時期に引退した親友同士。何か話を聞いて分かるかもしれないわ。」
「OK!……ってもうそんなことまで調べたのか……。」
「10年前に警視庁にいた人ならみんな知ってる有名な話よ。とりあえず豊洲方面へ。合流地の微調整は追ってするわ。」
「了解!!」
司の指示で、メンバーが一斉に動き出した。
その手際の良さは、爆弾についての知識がない虎太郎も分かるほどであった。
「本当にすごいんだな、素人の俺が見てても分かるぜ。」
「まぁ、これで飯食ってたくらいだからな。引退してからは、余計な知識でしかないけどよ。」
「余計ってことは無いだろ。こうして今もこの場にいる人達への被害を抑えようとしているんだ。」
「まぁ……この場は、な……。」
『この場は』と言う言葉が、虎太郎にはどうも引っかかった。
携帯の画面に映る、10年前の事件の概要に目を通しながら、虎太郎は辰川の話を聞く。
「爆弾っていうのは、1つずつ慎重に解除しなければならない。でも、その解除をしている間に他の場所で爆弾が見つかったら、その爆弾には何も対処が出来ない。たくさんの犠牲を生む爆弾、しかし俺たち爆処理は、ひとり1つの爆弾しか対処できないんだ。理不尽だよなぁ……。」
ひとつ、またひとつ銅線が切られていく。
ひとつ、またひとつ部品が解体されていく。
「もしかして、10年前……。」
「あぁ。俺が一つの爆弾にかかりきりになっている間に、もう一つの爆弾が爆発した。それも、その時俺が解除していた爆弾よりも数倍規模がでかくてな……。その爆弾のせいで、多くの人が犠牲になった。その中には、同じ爆弾処理班の家族も居たんだ。」
台場の爆弾の解除は、あと少し。
3時間かかると予想されていた解除も、今は1時間半程度。
想定よりもはるかに早く解除できそうである。
「もし……俺が解除する爆弾の場所を見誤らなければ、盟友の家族は死ななかったし、もっと被害は少なかったかもしれない……。」
爆弾に対する知識がある者が辰川の現在の解除の手際を見れば、まさに『神懸り』であると言えるのであろう。
しかし、それでも満足できない何かが、辰川の胸の中でもやもやと動いていたのだ。
「でも、辰川さんがそっちの爆弾を解除に行っていたら、別の人たちが死んだ。別の人たちの大切な家族が死んだ。」
「虎……。」
携帯の画面を見ながら、それでも虎太郎は辰川に言った。
「同僚の家族が死んだって、それは辰川さんの所為じゃねぇ。爆弾がひとりひとつしか解除できねぇんなら、辰川さんはやるだけのことをやったんじゃねぇのか?最も、憎むべきは……。」
何となく、時間の概要が見えてきた虎太郎。
「……解除した人間じゃねぇ。爆弾を設置した、犯人だ。」
「……!!」
辰川が、虎太郎を見る。
(ふっ……、こんな若造に諭されるとはな……。)
辰川の虎太郎を見る目が、次第に変わっていくのを、辰川自身が実感していた。
「……サンキュ、相棒。」
「……おう、早く解除して次に行こうぜ。」
「……よし、解除終了だ。」
「おぉ……予定よりも1時間早いじゃないか!」
台場・テレビ局内。
辰川はようやく大型の爆弾を解除した。
予想されていた3時間を大幅に短縮する、2時間少々。
犯人が10年前の爆弾を模したためか、辰川にはその爆弾の解除方法がしっかりと頭に入っていたのだ。
「模倣……っていうか、前回の爆弾と全く同じ。銅線の本数も、火薬の量も、発火装置も全て。完全に10年前の爆弾を模倣して造られたものだ。分かってさえいれば……簡単だ。」
「さすがだな……辰川さん。でも、さ……。」
ここで虎太郎にひとつの疑問が浮かび上がる。
「でもさ……10年前の爆弾の型って、一般に公表されたのか?」
「……え?」
虎太郎の、素朴な疑問。
しかしそれは、この事件の核心をつくものだった。
「いや……事件の概要は、爆弾の種類・型も含めて、部外秘とされていたはずだ……。」
「じゃぁ、誰が作ったんだよ……。」
「誰が……。」
この時、辰川が思い描いた犯人像。
その人物のことを想い浮かべると、背筋が凍る想いだった。
「俺は……気付かないふりをしていたのかも知れない。認めたくなくて、どこかで顔を背けていたのかも知れない。」
「辰川さん……?」
心配そうに辰川を見つめる虎太郎。
しかし、その実虎太郎にも犯人像は割り出せていた。
志乃から送られてきた、10年前の事件の概要メール。
その名前に、つい先ほど聞いたばかりの名前が出てきたのだ。
―――爆弾処理班所属、中山 祐司の妻と子供が爆発に巻き込まれ即死。―――
「次の爆弾の大きさも規模も俺には分からない。設置されている場所も、犯人から知らされていない。しかし……。」
辰川が拳をかたく握りしめる。
「知らされていないのなら、こちらから聞き出してやろうじゃないか。『犯人』に……。」
辰川は、携帯を握りしめる。
「……了解。志乃さん、聞こえるか?緊急手配をかけて欲しい。もと爆弾処理班の中山さん、彼の所在を至急洗い出して欲しい。きっと、彼の行方が分からない限り、爆弾は際限なく設置される。」
「了解しました。すぐに配備をかけます。」
虎太郎が志乃に中山の手配を頼み、それを志乃はすぐに了解し、各所に伝達する。
「虎……すまないな。」
相棒さながらのサポートに、辰川が虎太郎に礼を言う。
「急造とはいえ、俺は今は辰川さんの相棒だからな。じゃぁ、俺は中山を探す。辰川さんは、もしどこかに爆弾が仕掛けられたら解除に向かって欲しい。」
「あぁ、了解だ。虎、もし爆弾を見つけても、くれぐれも手を出すなよ。まずは離れる。周囲の安全を確保する。それだけでいい。」
「了解!!」
シンプルな決め事を虎太郎に指示した辰川。
辰川は頷くと、飛び出すようにテレビ局から出ていった。
こうして、警視庁各課あげての犯人捜索、そして仕掛けられた爆弾の捜索・解除の大仕事が始まった。
「とりあえず、本部の情報が入ったらひとつずつしらみつぶしに探すしかねぇな、俺は。」
虎太郎は、司令部からの情報を頼りに、気になるところ、周辺住民への聞き込みを中心に捜査をすることにした。
「俺は、10年前の事件の現場となった場所をひとつずつ当たってみる。爆弾が仕掛けられていたら、その程度によって即解除か応援を呼ぶか決める。犯人からのメールが来たら、その時点でその現場に急行する。俺に来る予告なんて、ろくなものじゃないからな。」
一方の辰川は、心当たりのある場所の爆弾解除、そして犯人の犯行予告に対しての爆弾の爆発の阻止を受け持つことにした。
もちろん、心強い仲間もいる。
「大きな爆弾があったら、西尾の力も借りようと思う。司令、良いよな?」
「……えぇ。私からもお願いしておきます。まずは人命の安全が第一です。」
司令である司も、その立場を最大限に生かしたバックアップをするよう準備をする。
「でも……後手後手ね。中山の所在が分からない上に、爆弾をいくつ仕掛けられているのかも分からない。そして、予告が来ないとその爆弾の位置も確定しない……。犯人の掌で踊らされているみたいだわ。こんな時……。」
そこまで言いかけて、司は言葉を飲み込んだ。
(いない人のことを考えても、仕方ないわね……。)
もし、自分の知る人物が隣に居たら、どういう判断をして、どのように仲間に指示を出すのだろうか?
そこまで考え込んでしまった司だったが、今は自分が特務課の司令。
自分がしっかりしなければ、と両頬を力強く叩いた。
「志乃さん、悠真くん、中山の周囲を徹底的に調べて。所持している車、住んでいる場所、旅行歴、家族のこと……調べられる範囲で調べてくれればいいわ。そこでういちばん有力だと思われるところに、虎太郎くん……向かってちょうだい。判断はあなたの直感に任せるわ。」
司が特務課のメンバーに指示を出す。
「了解!!」
「はーい。」
「……了解!!俺のことはどんどん動かしてくれ!爆弾処理が出来ない分、ストレス溜まってんだ。体力は有り余ってるぜ!」
「任せたわよ。虎太郎くん、まずは西尾さんと合流してちょうだい。彼は中山と同時期に引退した親友同士。何か話を聞いて分かるかもしれないわ。」
「OK!……ってもうそんなことまで調べたのか……。」
「10年前に警視庁にいた人ならみんな知ってる有名な話よ。とりあえず豊洲方面へ。合流地の微調整は追ってするわ。」
「了解!!」
司の指示で、メンバーが一斉に動き出した。
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