上 下
14 / 138
第1話:美しき犠牲者たち

11

しおりを挟む
こうして、事件は解決したわけだが、被害者遺族たちの悲しみは消えない。


「……やるせないねぇ。」


それぞれ、被害者遺族に事の顛末を報告するのも警察の役目。
被害者たちの多くは、『捜索願』という形で、家族たちに帰宅することを望まれていたのだ。


「……まったくだ。事件を解決しても、死んだ人はもう生き返らない。逮捕したら、犯人はそれで終わり。罪を償えば、場合によっては社会復帰だってあり得る。なんか……理不尽だよな。」


虎太郎が悔しそうな表情を浮かべる。
こんな表情を、北条は何人も見てきた。


―――北条さん……犯人だけまたのうのうと社会に出るのが、俺には納得できないっすよ!!―――

―――なんで、あいつが生きてて、被害者は死ななければならなかったんですか!!―――

―――あいつが代わりに死ねばよかったのに……―――


そんな言葉を、先輩刑事として幾度となく聞いた北条。
もちろん、自分もそう思ったことはある。
それでも……。



「……犯人が逮捕されたことで、この先同じ悲しみを背負う人がなくなる。ずっと暗く冷たいところに置き去りにされた被害者さんたちも、ようやくお家に帰れる。少しでも……それが救いになればと思うよ。」


悲しげな表情を浮かべながらも、それでも北条は虎太郎にそう言った。

それしか、言えなかった。


「そう……だな。」


そんな北条の気持ちを察したからこそ、虎太郎はそれ以上の言葉を口にしなかった。


美しい女性を狙った、卑劣な犯行。
たった一人の勝手な行動による悲劇は幕を閉じた。

しかし、遺族たちの悲しみは、消えることはない……。



「後味……悪いな。」

「うん……だからこそ、僕たちは真剣に、そして必死に捜査しなければならない。それしか出来ないけれど、それが僕たちに出来ることだよ……。」


悲しみに暮れる遺族。
これで何人目の涙だろうか。


すっかり小さく、丸くなってしまった遺族の背中を遠巻きに眺めながら、北条と虎太郎はふたり、呟くのであった……。

しおりを挟む
1 / 4

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

オネェな王弟はおっとり悪役令嬢を溺愛する

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:33,499pt お気に入り:3,012

王妃となったアンゼリカ

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:106,904pt お気に入り:8,637

カフェ・シュガーパインの事件簿

ミステリー / 完結 24h.ポイント:42pt お気に入り:20

【連載版】婚約破棄ならお早めに

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:32,794pt お気に入り:3,644

お腹の空かなくなる薬。

ライト文芸 / 連載中 24h.ポイント:28pt お気に入り:0

悪役令嬢は処刑されないように家出しました。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:511pt お気に入り:2,788

あなたに愛や恋は求めません

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:101,428pt お気に入り:9,140

処理中です...