推測と仮眠と

六弥太オロア

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  「鳴」を取る一人

41.

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「別れてさ」

杝寧唯もくめねい

「それが」

と返す、数登珊牙すとうさんが

「それが、って……」

「ええ」

「説明なんだけれど。今から。無駄かもしれないけれど」

「続けて。大人しく聞いていますから」

「……」

寧唯。

「別れてからも、普段から何回も話し合った。ただ、大事な所でお茶を濁される。それにさ。あたしの全部はイアンには言ってないんだ。だから」

寧唯は再び俯く。

「やり直したいと思った。だから恋愛成就キャンペーンへ来ていたの。元々はね」

「元々?」

「誰だってそうでしょう。恋愛成就だし」

と寧唯。

「一緒に来てくれた友達だってそうだった。でもね、あたしの場合は、最悪の場合っていうのがある。別れたとかいう話は、まだ他の子にも言えるし、実際イアンにも言った」

「それで」

「開けてよ」

「駄目です」

「何で」

「あなたの体は、死ぬためのものではないからです」

「じゃあ、どうするのよ。親に言ったら、大変なことになる。そしたら本当に、最悪の事態になっちゃうかもしれないでしょう」

おっしゃっていない」

「どうせ反対される。無駄だよ。でも、もしかしたら。薄々感づかれているかもしれない。全部あたしのせいなんだから。お願い開けて」

数登すとうはかぶりを振る。

「再度話し合うことは、出来るはずですが。親とも相手とも」

「そういうことじゃない!」

「杝さん、あなたは僕よりも。真相に近いところにいます」

「違う! 近いって何! あたしそんな現在とか真相とか何も分かっていない」

「言い方を変えましょうか。教えていただきたいことがあります」

寧唯は一瞬、止まる。

「は?」

数登。

「あなたのナイフ。材質は何ですか」

寧唯は眼を見開く。

「なんで」

「ナイフが。刃物部分は純銀製です。これに、何か理由が存在しますか」

「存在って……」

沈黙。

「あったから持って来ただけ……何か関係があるの。真相と?」

数登も眼をぱちくり。






寧唯は、腕でごしごし顔を拭う。
薄化粧は大変な状態。

再度、更に手で拭う。
濡れた眼。

「タオルがあります」

と数登。

「そ、それハンカチ」

と寧唯。






「今さ、正確に言うと六月の時からなんだけれど、無駄に敏感なの。ただそれだけ」

「例えば?」

「お香とかさ」

寧唯は苦笑した。

数登は、少々。微々。
寧唯を軽く、寄せる。

「ちょっと……」

「何か、真相に関するヒントでもいいのですが」

「教えろってこと?」

「さあ」

「さあって……」

数登は、寧唯から体を離した。

「何も分かっていないけど」

数登はかぶりを振る。

郁伽いくか先輩、どこ」

「本堂裏。そこに別の部屋があります。少し用事を頼んできました」






「真相って、例えば?」

すっかり化粧の落ちた寧唯。
ハンカチも汚れている。

「地下のことです。今は入れませんがね」

と数登。

寧唯。

「知らないって。言ったけれどさ」

「ええ。それは違うのでしょう。でなければ、ここにもくめさんは来ていません。僕も同じです」

「同じ、ですか……」

「そう」

「結局、地下にはあたし、入れないんですか?」

「そういうことになります。今はね」

「どうしようかな」

と寧唯。

「ただ」

「ええ」

釆原うねはらさんとイアンと、それから郁伽先輩には言わないで欲しいけれど」

「分かりました」

「絶対よ。釆原さんからファイル受け取ってくれるの」

「ファイルは受け取ります」

「……」

寧唯は数登を見上げた。

「分かった。ねえ。真相のことは教えてあげないけれど、あたし地下に入るの、やめるよ」

「僕は引き続き、考えます」

「あたし……キャンペーンもいいや。一旦帰る」

「送りますか?」

「駅まで?」

「ええ」
     
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