推測と仮眠と

六弥太オロア

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  「鳴」を取る一人

42.

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慈満寺じみつじ
鳴る梵鐘ぼんしょう

地下入口、そこから離れて行く二人。
数登珊牙すとうさんがは、杝寧唯もくめねいに歩調を合わせて。

行く。
午後の鐘は続く。
人々の間へ、段々と。













地下入口に用事がなかったとすれば、あれは?
一体何を投げつけたのだろう?

女性もののポシェット。
手渡された。それは関係ない。

先客二人?

と一人思う、降旗一輔ふりはたいちすけ

地下入口に居た先客。
石の影。
その場所で、その先客二人の様子を伺っていた降旗。

離れて行く。
入らなかった。
地下へ。さて、何故だ?

降旗は石の後ろから、移動を開始。まず一歩。






先客二人は、地下入口へ来たものの、地下へは入らなかった。
素通りか?

あの地下で過去、二名死人が出た。
俺には、その原因は分からない。
「慈満寺で鐘が鳴ると人が死ぬ」。
その微妙な噂。

この鳴る状態を作っている、恋愛成就キャンペーン。
キャンペーン自体を止めてみる。
止めたら人は死なないんじゃないだろうか?
あまりにも安直か。

慈満寺じみつじへの参拝客が少ないという問題が、かつてあった。
その頃から、俺は関与している身で。
慈満寺の資金繰りについては、俺と他の奴らで頭を使いつつ。

恋愛成就キャンペーンの話を出したのは、鐘搗かねつき自身。
そして結果、参拝客の少ない状態は解消され、慈満寺は俺の手を離れている状態。
それはいい。
だが鐘搗紺慈かねつきこんじは、俺たちへ隠してしまった物がある。

以降。鐘搗はどんな交渉においても、首を縦に振らないし。






降旗は更に移動。
ニット帽で、脚にはサンダルをつっかける。
少々刈り込んでいるかもしれない、顎に拡がる無精髭。

これまでで何回、梵鐘ぼんしょうは鳴った?
降旗には判然とせず。






地下入口。
更に一歩、近づく。

先客の一人が、何か上へ向かって投げていたのは見ていたが。
と降旗は思った。
根元、支柱のずれた監視カメラ。
上方に。

辿り着いて、降旗は少し身構える。






地下入口という、この場所。
何も変化はないように見える。
IDロック盤にも、大きな変化は伺えない。

正規のIDを読み取らせなければ、エラーが起きる仕組み、技術。
それは理解している。
事前に、まあ調査済み。

エラーが起きたとて、エラーの微々たる情報が職員側へ行く。
ただそれだけ。






何もない。
まあ、何か表面上に変化がある、ということではない。

だが降旗は気になった。

地下の宝物殿の扉は、鐘搗によって開かない状態に敢えて、されている。
俺にとってはパンドラの箱を、開けている状態になる。
扉を開け、「箱」のそれは閉じる。
だから俺はここへ来た。






場所。何か変だ。

一旦引くか?
様子を伺うにとどめ、そして再び鐘搗へ伺うことにしようか。

既に二人の先客も、地下入口へ立った。
俺は今、同じ位置に立っている。

しかし、どうして先客は地下入口を開けなかった?
あるいは、地下へ入らなかったのだろう。

上の監視カメラは機能を停止している。
ちぎれているコードが、物語っている。

先客の一人がカメラへ向かって、何か投げたのを。
既に俺は見た。
IDロック盤に何かしたかどうかは、分からない。

さて、何かしただろうか?






鳴る梵鐘。
拭えない違和感。

だがおかしいと言えば、俺が地下の宝物殿の扉へ干渉すること自体が。
まあ慈満寺側から見れば、不正の類だろう。とか。

上から下へスライドさせれば、地下入口の扉は開く。
降旗は、実際にそうした。
本当に、上から下へ。

飛び散る火花。
音もして、半ば傾きをつける扉。
ああ、今の火花で扉はダメになったね。
と彼は思う。






穏便に、交渉を済ませる。
そして死人が出なくなる。
そうなれば、どれだけ鐘搗にとっても良いだろう。

降旗は一人、扉に手を掛けて開けた。






地下へ脚を踏み入れる降旗。
まず一歩。
脚を止める。

再度一歩。
場所。強くなった。
なんだろう。

一歩。
脚も階段へ掛かる。
結構、急。
そのまま下る。
違和感。

なんだ。
なんなのだろう。
脚。手。頭。中空。
そして階段と。
行く。

しかし……。
   
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