推測と仮眠と

六弥太オロア

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  「鳴」を取る一人

40.

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「二点目」

数登珊牙すとうさんが

上方じょうほうにある。
支柱が少々ずれている監視カメラ。
配線は、少し千切れている。

数登は励ますように、寧唯ねいの手に手を添える。

「忘れ物はここにも。と僕は思いますがね」

手の中から覗くナイフ。
小さな柄と先が見える。

寧唯はそのナイフを隠すのに、四苦八苦の様子。
案の定。
失敗に終わる。

数登は寧唯の手からナイフを抜き、自らの手の側へ収める。






「あなたは正確には、参拝しに来たのではない。そうでしょう」

「だ、だから……」

と、杝寧唯もくめねい

「別になんだって、言うの。あたしが『参拝を重ねた』ってさっき、あなた勝手に。大々的に言ったりしたじゃないか」

「ええ。それで二点目なんです。ナイフは何かを切断するための道具だから。例えば」

ナイフを持つ。
ビッと裂けたスーツ。
数登の肩から、肱に掛けての中間辺り。

左腕の部分。

「薄くて脆いものであれば、よく切れます。僕の肩のところみたいに」

数登は微笑みつつ。

「そして切れても、この程度」

寧唯は眼を見開いた。

「監視カメラのコード部分。力はなくとも、容易に千切ちぎれそうです。ただ」

と数登。

「そのナイフは、『容易に切ることが出来得るだろう』物に使えます。その他の用途には向きません」

「……」

慈満寺じみつじで鐘が鳴ると人が死ぬ。だから今、もくめさんはここにいるんでしょう」

数登は寧唯にナイフを手渡した。

「一点目と二点目。大量のパンフレットとナイフ。監視カメラへの介入。地下入口の事情に、詳しくなければ出来ないこと。あるいは行動を起こさない、でしょう。そして、出張葬儀という言葉を、あなたは御存知でしたから」

珊牙さんがさんは……よく知っているし、よく見ている」

寧唯。

「レストランの時だけじゃ、ないんだ」

「残念ながら僕は、オカルト側とは縁がありません。ですがあなたは『死』を身近に意識して、行動していた。そのことは分かりましたよ」

寧唯はかぶりを振る。

「望んでませんよそんなこと。数登さんなんか、分からなくて良かったんだ。きっと、誰も分からないことじゃないか。数登さんの調査は、慈満寺に向けられたものでしょう。あたしじゃない。違う」

「杝さんのナイフは、凶器にはなり得ない」

「……そうだよ。だってこれは、監視カメラのコードを千切るために使っただけだ」

「それなんです。杝さんは、僕よりも多く見て知っている」

「……」

「あなたは」

数登。

「ナイフではなく、その体ごと全て殺そうとした」

「勝手に、決めてしまうの」

寧唯は拳を握りしめた。

「今は、恋愛成就キャンペーンなんだよ! 何を馬鹿な!」

寧唯の眼から一つ、零れる。

「何を馬鹿な……」

「六月からです」

数登は手を離した。

「寧唯さんとしては、六月以前から考えていたのでしょう」

寧唯は顔を伏せたまま上げない。

数登。

「当たりましたか」

「あのね」

寧唯は言う。
   
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