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「鳴」を取る一人
19.
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鳴っていた鐘の響きは、ようやく落ち着いたようで。
結構な頻度で、鳴っていた。
慌てて行った、三人の僧侶が行った先と同じ方向から聴こえた? かもしれない。
参道はあまり、回り道をするエリアはない。
進むと言えば、前か右か左か。
あまり七面倒臭い構造は、参道では取られていないよう感じ。
依杏が見たところでは。
郁伽が行った先というのは、寧唯に来た連絡には、書いていなかった。
ただ、参道の作りから、ふと判断して。
僧侶たちが向かって行った先に行くのが、一番かもしれない。とか。
釆原の話から判断するに、数登と鐘搗紺慈の二人。
二人の関係というのは、あまり思わしくない感じで。
とすると、鐘搗深記子と数登さんの関係は、どうなのだろう?
自然に考えれば、少なくとも。
良くはない。たぶん慈満寺内派閥とか、上下関係はあるだろうし。とか。
派遣と慈満寺の正式な関係者。その二人の間には、大きな隔たりがある。
では、釆原さんと深記子さんの場合?
依杏はいろいろ、考えながら歩く。
「やっぱり、今回みたいなのはイレギュラーなんですかね。勝手に梵鐘が鳴ったってことでしょう?」
と寧唯が深記子へ尋ねた。
「あなたがた二人。何回か参拝にいらしたことは?」
「さあ。私はありますけれど、今回みたいなのは。あんまりないかなーって」
「ええ、そう。私も初めてと言えば初めての、ケースね」
と深記子。
「あなたは?」
と依杏に振る。
「私は今回の参拝が初めて、ですけれど……」
と依杏。
「新聞とかでは結構、慈満寺のこと読んだりしたことあります」
「読んだのはいいニュース? 悪いニュース?」
やっぱりこの深記子さん、少なくとも釆原さんや、数登さん側ではないかもしれない。
とか、依杏のアンテナが張る。
寧唯はどうだろう。
依杏には、さして判断基準がなかった。
「あんまり良いニュースでは、なかったです。ただ、恋愛成就キャンペーンは人気だって」
と正直に言っておいた。
「そうね。やっぱり地下のこともあるものね」
と深記子。
「地下で人が死んだという件でしょう? あなたの読んだ、というのは」
「ええと、大枠はまあ……そうなんですけれど」
「それで余計に、寺の者が騒いでいるっていうのはあるわね。私はあまり梵鐘がどうというのは、信じていないけれど」
言っている間に、どんどん釆原は先に行ってしまう。
続ける深記子。
「あの彼も、きっと人が亡くなった件で来ていると。私は思っているの。あなたがた二人、どう思う?」
「そりゃあ、あるでしょうね。ただ、参拝目的には違いないでしょう。えっと。あんまり、大きい懸念は増やさない方が~、なんて」
と寧唯は苦笑して言った。
「ええ。そうね」
と深記子。
「ところで数登のほかに、もう一人探していてね。私の息子なんだけれど」
「息子さん」
と、依杏と寧唯は眼をぱちくり。
「慈満寺に来ている?」
知っては居たが深記子へ尋ねる。
山門周辺で見た、少年だろう、とか。
「数登と同じく、姿が見えないから。こんなにね。梵鐘が勝手に鳴らなければ、みんな慌てず済んだのに」
と深記子は眉をしかめた。
「起こること、起こること。今日はなんだか全て変な日だわ」
寧唯と深記子が、少しずつ会話で盛り上がって来たのを後ろに。
依杏は、釆原に追いつこうと試みる。
釆原の片手にスマホ。
そして、一方はファイル。
「今どこ?」
と、釆原が言っているのが聞こえる。
だんだんと、向こうへ近づく依杏。
走り歩きしながら、依杏がふと思ったこと。
数登はもしかして、地下に居るのではないか、ということ。
地下に行くのが今の場合、一番、数登が調べたいなんやらかんやらに、合っている。
とか。
ただ釆原の電話の相手。
どうも、依杏の見たところ、釆原の知り合いか?
相手が数登珊牙なら、依杏の予想は外れたことになる。
釆原が、依杏を振り返った。
「お堂の裏。それで?」
依杏が追いつく。
「連れが居るとからしい」
と釆原は、依杏にスマホを渡した。
「らしい?」
「連れが一緒に来て居るらしい」
依杏は少しムッとした。
「と言われましても。というか電話の相手は」
「数登珊牙」
やっぱり予想は別方向。というか外れた。
とか思いつつ。
依杏。
「もしもし」
「どなたですか?」
「あ、ええと。電話ですいませんけれど、たぶん六月にお会いしました。略してマリウィルで。杵屋依杏です」
「なるほど。すると話が早いですね」
「は?」
「八重嶌郁伽さんを探している? でしょう?」
「合ってます」
「それはよかった」
「よかったのはいいですが。なんで数登さんと、郁伽先輩が一緒? じゃなくて数登さん、今どこに居るんですか? あなたに釆原さんが、渡したいものがあるとかで」
「それも承知しています。ちなみに、依杏さん以外他には誰々が?」
「一緒のテーブルに居た子です。それから、慈満寺の鐘撞深記子さん。勝手に梵鐘が鳴った件で、数登さんに話を聞きたくて。って」
「それは困りましたね。何しろ梵鐘を、鳴らしたのは僕ですから」
結構な頻度で、鳴っていた。
慌てて行った、三人の僧侶が行った先と同じ方向から聴こえた? かもしれない。
参道はあまり、回り道をするエリアはない。
進むと言えば、前か右か左か。
あまり七面倒臭い構造は、参道では取られていないよう感じ。
依杏が見たところでは。
郁伽が行った先というのは、寧唯に来た連絡には、書いていなかった。
ただ、参道の作りから、ふと判断して。
僧侶たちが向かって行った先に行くのが、一番かもしれない。とか。
釆原の話から判断するに、数登と鐘搗紺慈の二人。
二人の関係というのは、あまり思わしくない感じで。
とすると、鐘搗深記子と数登さんの関係は、どうなのだろう?
自然に考えれば、少なくとも。
良くはない。たぶん慈満寺内派閥とか、上下関係はあるだろうし。とか。
派遣と慈満寺の正式な関係者。その二人の間には、大きな隔たりがある。
では、釆原さんと深記子さんの場合?
依杏はいろいろ、考えながら歩く。
「やっぱり、今回みたいなのはイレギュラーなんですかね。勝手に梵鐘が鳴ったってことでしょう?」
と寧唯が深記子へ尋ねた。
「あなたがた二人。何回か参拝にいらしたことは?」
「さあ。私はありますけれど、今回みたいなのは。あんまりないかなーって」
「ええ、そう。私も初めてと言えば初めての、ケースね」
と深記子。
「あなたは?」
と依杏に振る。
「私は今回の参拝が初めて、ですけれど……」
と依杏。
「新聞とかでは結構、慈満寺のこと読んだりしたことあります」
「読んだのはいいニュース? 悪いニュース?」
やっぱりこの深記子さん、少なくとも釆原さんや、数登さん側ではないかもしれない。
とか、依杏のアンテナが張る。
寧唯はどうだろう。
依杏には、さして判断基準がなかった。
「あんまり良いニュースでは、なかったです。ただ、恋愛成就キャンペーンは人気だって」
と正直に言っておいた。
「そうね。やっぱり地下のこともあるものね」
と深記子。
「地下で人が死んだという件でしょう? あなたの読んだ、というのは」
「ええと、大枠はまあ……そうなんですけれど」
「それで余計に、寺の者が騒いでいるっていうのはあるわね。私はあまり梵鐘がどうというのは、信じていないけれど」
言っている間に、どんどん釆原は先に行ってしまう。
続ける深記子。
「あの彼も、きっと人が亡くなった件で来ていると。私は思っているの。あなたがた二人、どう思う?」
「そりゃあ、あるでしょうね。ただ、参拝目的には違いないでしょう。えっと。あんまり、大きい懸念は増やさない方が~、なんて」
と寧唯は苦笑して言った。
「ええ。そうね」
と深記子。
「ところで数登のほかに、もう一人探していてね。私の息子なんだけれど」
「息子さん」
と、依杏と寧唯は眼をぱちくり。
「慈満寺に来ている?」
知っては居たが深記子へ尋ねる。
山門周辺で見た、少年だろう、とか。
「数登と同じく、姿が見えないから。こんなにね。梵鐘が勝手に鳴らなければ、みんな慌てず済んだのに」
と深記子は眉をしかめた。
「起こること、起こること。今日はなんだか全て変な日だわ」
寧唯と深記子が、少しずつ会話で盛り上がって来たのを後ろに。
依杏は、釆原に追いつこうと試みる。
釆原の片手にスマホ。
そして、一方はファイル。
「今どこ?」
と、釆原が言っているのが聞こえる。
だんだんと、向こうへ近づく依杏。
走り歩きしながら、依杏がふと思ったこと。
数登はもしかして、地下に居るのではないか、ということ。
地下に行くのが今の場合、一番、数登が調べたいなんやらかんやらに、合っている。
とか。
ただ釆原の電話の相手。
どうも、依杏の見たところ、釆原の知り合いか?
相手が数登珊牙なら、依杏の予想は外れたことになる。
釆原が、依杏を振り返った。
「お堂の裏。それで?」
依杏が追いつく。
「連れが居るとからしい」
と釆原は、依杏にスマホを渡した。
「らしい?」
「連れが一緒に来て居るらしい」
依杏は少しムッとした。
「と言われましても。というか電話の相手は」
「数登珊牙」
やっぱり予想は別方向。というか外れた。
とか思いつつ。
依杏。
「もしもし」
「どなたですか?」
「あ、ええと。電話ですいませんけれど、たぶん六月にお会いしました。略してマリウィルで。杵屋依杏です」
「なるほど。すると話が早いですね」
「は?」
「八重嶌郁伽さんを探している? でしょう?」
「合ってます」
「それはよかった」
「よかったのはいいですが。なんで数登さんと、郁伽先輩が一緒? じゃなくて数登さん、今どこに居るんですか? あなたに釆原さんが、渡したいものがあるとかで」
「それも承知しています。ちなみに、依杏さん以外他には誰々が?」
「一緒のテーブルに居た子です。それから、慈満寺の鐘撞深記子さん。勝手に梵鐘が鳴った件で、数登さんに話を聞きたくて。って」
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