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「鳴」を取る一人
20.
しおりを挟む「鳴らしたのは僕!?」
杵屋依杏はびっくりして言った。
「勝手に鳴らしたんですか!? 梵鐘を、許可も取らないで!?」
「ええ。その必要があると思いました」
と電話の向こうで、数登珊牙。
依杏。
「必要というか、悪いというか」
数登。
「許可を取れば、こちらあちらと判断される前に。せっかくの考えを却下されると。思いましてね」
「却下っていうか。あんなにドンドン鳴らす必要、ありました?」
「恋愛成就キャンペーンの時間外というところで、試したかった」
「えーと」
釆原凰介が、電話を替わる。
「とにかくそっちへ今、鐘搗深記子含めて向かっているんだが」
数登。
「困ります。上手く躱したいのですがね」
「そもそも目立つだろう。せっかくの考えとやらが。逆効果だった気がするけれど。そんなに梵鐘が気になるか?」
「ええ。それは大いに」
釆原。
「たぶんそっちへ、僧侶も三人向かって行ったはず。こっちの人数には含まれていない」
「恐らく、その方々は地下へ向かったか。あるいは鐘楼の方へ向かっているか、です。深記子さんは恐らく、梵鐘の件で僕に何か質問をしたいとか。ではないでしょうかね」
「その『ではないでしょうかね』、がそうだ」
「ええ。なるほど」
「いま時間で勝手に、梵鐘が鳴ったとすれば。狭いもんだろう。鳴らす奴の見当なんて、そんなに広くは、つかないだろうからな」
「躱したいって、言っても」
と依杏が、脇から言う。
「数登さんはいま、お堂の裏手に居るんでしょう? 郁伽先輩と。なら、移動せずそのまま裏手に居て、数登さんは地下に居るってことにすれば?」
数登。
「深記子さんを含めてとは。ご一緒じゃないんですか?」
「そりゃ、一緒ですけれど」
と依杏は、少し振り返って。
「一緒ではあっても、幸い少し距離があります。いま杝、寧唯と深記子さんが、ゆっくり後方を歩いているので。そんなに歩くスピードは、速く出来ないみたいだから。あの着ている衣、重量感がありますし。距離がなかったらこんな、電話で呑気にしゃべってられません」
「それも、そうですね」
と数登。
「いずれにしろ、カモフラージュとしては?」
依杏。
「数登さんが地下に居るって、寧唯に伝えれば。深記子さんたちと一緒に。必然的に地下へ向かう感じになる、と思いますし」
「その間に、俺がお堂の裏へ回って。珊牙にファイルを渡しに行くか」
と釆原。
依杏。
「釆原さんはもう、先へ行っちゃったほうがいいのでは」
「いや、とりあえず。勘づかれるとまずいから。少しずつで」
「直接ファイルをというのが、仇になってしまったようですね」
と数登は電話向こうで、苦笑している様子。
「郵送のほうが、反って目立つと思ったもので」
「そもそもキャンペーン自体が、目立つイベントだからな。今日も地下で人が死ぬとか思うのか」
「可能性はあります」
と数登。
釆原。
「そっちに向かう関係者の人数は、たぶん今から増えると思うよ」
「ええ」
「鐘搗の息子は見なかった?」
「見ました。いまお堂の裏で一緒に」
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