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「鳴」を取る一人
18.
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着ている衣に、長い黒髪がよく映えた様子。
鐘搗深記子。
写真と実物では、違いはどこだろう?
とにかく、鐘搗深記子は「綺麗」だった。
少なくとも、依杏の眼に映る彼女は。
「同じ苗字ってことは、紺慈の……おお、えっとすみません」
出掛かった言葉を、今更感で飲み込んだ寧唯。
「全然、紺慈のイメージないよね」
とポツリと追加で言う。
「写真、って仰っていたけれど」
と深記子。
寧唯の開いたファイルを、示してから言う。
「その写真が沢山の、何かしら」
「ああ、いえいえ。あまり変に気にしないでください! 私たち、ただの参拝客なんで」
と、寧唯の今更感再び。
とりあえず、釆原は開いていたファイルを閉じた。
「何か入用かしら? 皆さんで記念撮影?」
今度は、依杏が言葉を濁す番で。
「そんな感じかもしれません」
で、撮ってもらう。
郁伽から再びの連絡がないので、とりあえず写真を撮った。
否、深記子に撮ってもらった写真を郁伽へ、寧唯から送信。
「で、お取込み中とは」
と、釆原は深記子へ尋ねる。
「こちらも、取り込み中ではあるんだけれど」
と苦笑しつつ。
「何だか見憶えがある方ね」
釆原は気まずそうにした。
ちょっと肩をすくめたり。
「そうですかね」
「うん。いえ、たまに寺に参拝に来る。今日び、いえ、数登珊牙」
と深記子。
「彼と知り合いよね? 確か記者さん」
「今日はただの参拝ですよ」
「そう。取り込み中でなければ、少し訊きたいことがあってね」
「なんです?」
「その数登を今探しているの。誰か、見かけたりしていない?」
「見かけたも、なにも」
と寧唯が、今度は苦笑する番。
「私たち、その数登さんの顔もよく知らないんです」
少し嘘は入っているものの。
依杏も、一応頷いておいた。
「さっき、突然梵鐘が鳴ったでしょう」
と深記子。
「やっぱりイレギュラーだったんだ」
と依杏はポツリと寧唯に言う。
「だね」
と寧唯。
「鳴りましたね。私たちもびっくりしたんで」
「あなたがた、参拝っていうことは。恋愛成就キャンペーンか何かの」
「まさしく、それです。それで、なんで数登さんを探していらっしゃる?」
「いえね、仕事を手伝ってもらおうと思ったの。肝心な時にいないから」
と深記子は眉をひそめて言った。
「重くて運べないものがあったら、数登に頼むことにしているのよ。少し、勝手に梵鐘が鳴った件のことも訊こうと思っているし」
「さっき、何人かお坊さんたちが慌てて、あっちに行ったの見る感じで」
と寧唯は言った。
「やっぱり梵鐘のこと、ですか?」
「そうね。今は仕事より、そっちの件で寺の者が少し騒いでいるかもしれない」
と深記子。
「お取込み中でなければ、一緒に来ていただけると有難いわ」
釆原へ言う。
鐘搗深記子。
写真と実物では、違いはどこだろう?
とにかく、鐘搗深記子は「綺麗」だった。
少なくとも、依杏の眼に映る彼女は。
「同じ苗字ってことは、紺慈の……おお、えっとすみません」
出掛かった言葉を、今更感で飲み込んだ寧唯。
「全然、紺慈のイメージないよね」
とポツリと追加で言う。
「写真、って仰っていたけれど」
と深記子。
寧唯の開いたファイルを、示してから言う。
「その写真が沢山の、何かしら」
「ああ、いえいえ。あまり変に気にしないでください! 私たち、ただの参拝客なんで」
と、寧唯の今更感再び。
とりあえず、釆原は開いていたファイルを閉じた。
「何か入用かしら? 皆さんで記念撮影?」
今度は、依杏が言葉を濁す番で。
「そんな感じかもしれません」
で、撮ってもらう。
郁伽から再びの連絡がないので、とりあえず写真を撮った。
否、深記子に撮ってもらった写真を郁伽へ、寧唯から送信。
「で、お取込み中とは」
と、釆原は深記子へ尋ねる。
「こちらも、取り込み中ではあるんだけれど」
と苦笑しつつ。
「何だか見憶えがある方ね」
釆原は気まずそうにした。
ちょっと肩をすくめたり。
「そうですかね」
「うん。いえ、たまに寺に参拝に来る。今日び、いえ、数登珊牙」
と深記子。
「彼と知り合いよね? 確か記者さん」
「今日はただの参拝ですよ」
「そう。取り込み中でなければ、少し訊きたいことがあってね」
「なんです?」
「その数登を今探しているの。誰か、見かけたりしていない?」
「見かけたも、なにも」
と寧唯が、今度は苦笑する番。
「私たち、その数登さんの顔もよく知らないんです」
少し嘘は入っているものの。
依杏も、一応頷いておいた。
「さっき、突然梵鐘が鳴ったでしょう」
と深記子。
「やっぱりイレギュラーだったんだ」
と依杏はポツリと寧唯に言う。
「だね」
と寧唯。
「鳴りましたね。私たちもびっくりしたんで」
「あなたがた、参拝っていうことは。恋愛成就キャンペーンか何かの」
「まさしく、それです。それで、なんで数登さんを探していらっしゃる?」
「いえね、仕事を手伝ってもらおうと思ったの。肝心な時にいないから」
と深記子は眉をひそめて言った。
「重くて運べないものがあったら、数登に頼むことにしているのよ。少し、勝手に梵鐘が鳴った件のことも訊こうと思っているし」
「さっき、何人かお坊さんたちが慌てて、あっちに行ったの見る感じで」
と寧唯は言った。
「やっぱり梵鐘のこと、ですか?」
「そうね。今は仕事より、そっちの件で寺の者が少し騒いでいるかもしれない」
と深記子。
「お取込み中でなければ、一緒に来ていただけると有難いわ」
釆原へ言う。
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