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「鳴」を取る一人
3.
しおりを挟む「抽選、当たったの」
「恋愛成就キャンペーンの?」
「そうそう!」
「何回目? 懲りないね」
「三人枠取っちゃった。全部当たった、お願い一緒に来て! 一人で参加は無理」
寧唯はたぶん、彼氏と別れたから、キャンペーンに申し込んだのだろうな、と依杏は思った。
実を言うと、この時すでに、依杏も空羽馬と別れていたのだが。
「恋愛成就って言うけれど、信じているの?」
「学校でもね。慈満寺で祈祷してもらったら恋が叶った! っていう子多い。まあ、でも人は死んでいるけれどね。溜っていう奴も死んだって、この前新聞記事で見せたでしょう。あの時あたし、キャンペーンで慈満寺にいたんだよね」
どう突っ込めばいいか、依杏には分からず。
「溜は自然死だったらしい。心臓が弱かったんだって。あたしも聴取受けたの」
寧唯は続ける。
「ああ、そんなに大層なのじゃなかった。あたし犯人じゃないし」
「それでも慈満寺の抽選を取ったの?」
「まあね。聴取のほうは、キャンペーン参加者全員に訊いたらしい。溜の死亡推定時刻は午後三時前後だったとか。警察の情報」
「ふうん」
「地下入口の防犯カメラには、午後五時まで誰も映っていなかったんだって」
「それで怪死ってこと?」
「そう」
「寧唯は、それ殺人だと思う?」
「溜以外、人の出入りがなかったのにどうやって殺されるの?」
「そうだよね。確かに」
しばし考え込む二人。寧唯が言った。
「考えるの疲れた」
それはお互い様だった。
「うん」
依杏はタブレットを取った。
「何頼もうか」
「おすすめならパフェかなー」
「ゴールデンチョコとか?」
依杏は『注文』をタップした。そして尋ねる。
「彼氏とすぐ別れた? 溜先生が亡くなった時に寧唯がキャンペーンに、慈満寺に居たと。そしたら彼氏が出来た。でもすぐ別れた。だからキャンペーンにあたしを誘っている、と」
「そうなる」
寧唯はしょげて言った。
「新しい人作ったって、どうもこうもなるわけじゃないんだけれど」
「そのキャンペーン本当なのかなあ」
「気にするな! 参加したら彼氏は出来たもの」
「そうかなあ」
寧唯はバッグを漁り、書類の束を取り出した。すべて、慈満寺のパンフレット。
『慈満寺』という彩墨の文字。
寧唯は指差した。
数枚めくって出てきた仏像の写真。
「これはご利益があると思うのね」
「いや。怖いけど」
「そう? でもこの方がご利益があるとか、どうとからしいよ。その世界の話でいけばね」
「そんなもんかなあ」
愛で染める、という仏像の名前。
腕が多数。
とても怖い形相。
依杏と寧唯のテーブルには、いつの間にかパンフレットが積み上がっている状態に。
テーブルの近くを通る大学生の凝視。
空羽馬も大学生である。
「積み上がってるけど」
「結構キャンペーンに通っているから」
自信満々の寧唯。
「キャンペーンの三人枠ね、埴輪先輩と、それからイアンとあたし」
「え! 許可取ったの?」
「郁伽先輩、染ヶ山とか慈満寺のマニアだって知ってるよね?」
「それは、知っているけれど」
テーブルにグラスが叩きつけられた。
ゴンッ!
飛び散る飛沫。チョコと生クリーム。甘い香りが広がる。
『ゴールデンチョコパフェ』。
「埴輪で呼ぶのはやめてくれる」
叩きつけた、否、パフェを運んでくれた。
八重嶌郁伽|《やえしまいくか》。ウェイトレス姿。
依杏たち古美術建物研究会の部長。
入屋高校の二年生。
声を生かした活動中、歌唱中心。
寧唯。
「おおーおいしそう!」
「何回言ったら埴輪呼びをやめてくれんの? 郁伽だから! お待たせいたしました~。ってあれ。杵屋」
営業スマイルからの真顔。
その変化が早い郁伽。
ウェイトレスって大変なんだなあ。
と依杏は思う。
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