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「鳴」を取る一人
2.
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【怪死 宝物殿の扉前、犠牲者二人目】
かずら市入屋四丁目三七の慈満寺で、謎の死体が発見された。これで犠牲者は二人目である。
亡くなったのは溜幸雄さん(52)。
彼の遺体は慈満寺地下の宝物殿の扉前通路で、僧侶に発見された。
地下入口に設置された防犯カメラには、溜さんが一人で入口に入った様子が映っていた。
以後数時間、人の出入りがなかったことが確認されている。
発見時、死後硬直が始まっていた。遺体に外傷はなかった。
溜さんは同日に行われていた『恋愛成就キャンペーン』に来ていた、一般の参拝客とみられている。前日は雨が降っており……
寧唯のスマホを顔から引っぺがして、読んだ文面。
ブルーライト。
出来るだけ電子機器に近づきたくない。と依杏は思っている。
実演の時の二人みたいに、どこかに力が吸われていくんじゃないか、と心配になってしまうのだ。心配性である。
スマホもパソコンもWi-Fiも、とにかく電源を切る。『使い物にならない』ことを、自ら望む。
そんな自分がむしろ、「電波じゃないの?」と言われたとしてもだ。
寧唯はそんなことは言わないが。
「犠牲者二人目って……?」
「一人目は、今年の三月末。同じ場所でね」
「校内放送のやつ?」
「そう。恋愛成就の寺なのに、死んでばっかり」
寧唯の皮肉も皮肉だが、一部生徒の噂では。
人が死ねば、慈満寺では恋愛成就するんだというものもある。
依杏の席にやってきて、寧唯の態度は、いや声も大きかったので、周りの生徒までガヤガヤしだした。
校内放送で人が死んだことを流したのは、教師の許可を得ない生徒の行動だった。教師は火消しに追われた。
溜という教師が、主に奔走したらしい。新聞記事に出ていた名前と同じだ。と依杏は思う。
校則を外れない程度で馴らした『派手』の序列の生徒一人。その子は影響力があった。その子と、溜が廊下で言い争っていたのを、依杏は見ていた。
校内放送の件でだった。
理想と現実は違う。
『女子校や女子大って憧れる』なんて、前に空羽馬は言っていたけれど、入屋は違う。
依杏はそう思う。
家族と良好な関係が築けない。すると、子供は荒れていく。
一概にそうである。不良が出来上がるメカニズム。
思春期というのは特に、起爆剤になりやすい。
依杏は不良というよりは、地味で自信がない。
夏休みの今、両親は『ワーケーション』という名目で、家にいない。
過干渉で放任主義。矛盾した状態を一緒くたにしている両親。
依杏の部屋には鍵がなかった。勝手に親が部屋へ入って来ることもあった。
業者を呼びドアノブを鍵に対応させても、後日ドアノブごと丸く抉られる。監視。
とはいえ今は、ドアノブは鍵付きになった。
依杏が児相に電話したのだ。
雨が降って来たので、依杏はベッドに移動した。新聞記事のノートと共に。
イヤホンを耳に付け、枕脇のカフカ『変身』を手に取る。
ページをめくる手はなかなか止まらないが、明日は寧唯と慈満寺へ行く。
*
「あたし、バイトしようと思ってるんだ。寧唯みたいに。しっかりしたいな~って」
「しっかりも何も! あたしはしっかりしていないよ」
寧唯は苦笑する。
「でもそれは、空羽馬くんとのことを真剣に考えているということでいいですかな?」
「う、うん……。え、ちょっと待って今のナシ」
「もう言った」
「言ってない!」
寧唯は、銀髪をお下げに結わえて両肩から垂らしている。
慈満寺に行こうと誘われたのがこの日だった。夏休み前のテスト後、寧唯のバイト先である『マリリン&ウィル』。
そこのテーブル席に座っていた。
雨だったので、傘はお互いの足元へ置いてある。
「バイトって言ってもさ。お金貯まんなきゃね」
「マリウィルはどんな感じ?」
「イアンはファミレス向きじゃない気がする。クレームとか大変だよ。『料理はまだかコラー!』って怒鳴りこまれたりする。チップ払ってほしい」
寧唯は苦笑した。
依杏。
「確かに、クレーム対応は難しそうだね」
「お金貯めたいんでしょう?」
「そんなに簡単じゃないと思うけれど」
「巫女とかどうかな? 時給もいいって」
依杏は固まった。
「それさ、慈満寺に行こうって言いたい?」
「うん! よく分かってる」
かずら市入屋四丁目三七の慈満寺で、謎の死体が発見された。これで犠牲者は二人目である。
亡くなったのは溜幸雄さん(52)。
彼の遺体は慈満寺地下の宝物殿の扉前通路で、僧侶に発見された。
地下入口に設置された防犯カメラには、溜さんが一人で入口に入った様子が映っていた。
以後数時間、人の出入りがなかったことが確認されている。
発見時、死後硬直が始まっていた。遺体に外傷はなかった。
溜さんは同日に行われていた『恋愛成就キャンペーン』に来ていた、一般の参拝客とみられている。前日は雨が降っており……
寧唯のスマホを顔から引っぺがして、読んだ文面。
ブルーライト。
出来るだけ電子機器に近づきたくない。と依杏は思っている。
実演の時の二人みたいに、どこかに力が吸われていくんじゃないか、と心配になってしまうのだ。心配性である。
スマホもパソコンもWi-Fiも、とにかく電源を切る。『使い物にならない』ことを、自ら望む。
そんな自分がむしろ、「電波じゃないの?」と言われたとしてもだ。
寧唯はそんなことは言わないが。
「犠牲者二人目って……?」
「一人目は、今年の三月末。同じ場所でね」
「校内放送のやつ?」
「そう。恋愛成就の寺なのに、死んでばっかり」
寧唯の皮肉も皮肉だが、一部生徒の噂では。
人が死ねば、慈満寺では恋愛成就するんだというものもある。
依杏の席にやってきて、寧唯の態度は、いや声も大きかったので、周りの生徒までガヤガヤしだした。
校内放送で人が死んだことを流したのは、教師の許可を得ない生徒の行動だった。教師は火消しに追われた。
溜という教師が、主に奔走したらしい。新聞記事に出ていた名前と同じだ。と依杏は思う。
校則を外れない程度で馴らした『派手』の序列の生徒一人。その子は影響力があった。その子と、溜が廊下で言い争っていたのを、依杏は見ていた。
校内放送の件でだった。
理想と現実は違う。
『女子校や女子大って憧れる』なんて、前に空羽馬は言っていたけれど、入屋は違う。
依杏はそう思う。
家族と良好な関係が築けない。すると、子供は荒れていく。
一概にそうである。不良が出来上がるメカニズム。
思春期というのは特に、起爆剤になりやすい。
依杏は不良というよりは、地味で自信がない。
夏休みの今、両親は『ワーケーション』という名目で、家にいない。
過干渉で放任主義。矛盾した状態を一緒くたにしている両親。
依杏の部屋には鍵がなかった。勝手に親が部屋へ入って来ることもあった。
業者を呼びドアノブを鍵に対応させても、後日ドアノブごと丸く抉られる。監視。
とはいえ今は、ドアノブは鍵付きになった。
依杏が児相に電話したのだ。
雨が降って来たので、依杏はベッドに移動した。新聞記事のノートと共に。
イヤホンを耳に付け、枕脇のカフカ『変身』を手に取る。
ページをめくる手はなかなか止まらないが、明日は寧唯と慈満寺へ行く。
*
「あたし、バイトしようと思ってるんだ。寧唯みたいに。しっかりしたいな~って」
「しっかりも何も! あたしはしっかりしていないよ」
寧唯は苦笑する。
「でもそれは、空羽馬くんとのことを真剣に考えているということでいいですかな?」
「う、うん……。え、ちょっと待って今のナシ」
「もう言った」
「言ってない!」
寧唯は、銀髪をお下げに結わえて両肩から垂らしている。
慈満寺に行こうと誘われたのがこの日だった。夏休み前のテスト後、寧唯のバイト先である『マリリン&ウィル』。
そこのテーブル席に座っていた。
雨だったので、傘はお互いの足元へ置いてある。
「バイトって言ってもさ。お金貯まんなきゃね」
「マリウィルはどんな感じ?」
「イアンはファミレス向きじゃない気がする。クレームとか大変だよ。『料理はまだかコラー!』って怒鳴りこまれたりする。チップ払ってほしい」
寧唯は苦笑した。
依杏。
「確かに、クレーム対応は難しそうだね」
「お金貯めたいんでしょう?」
「そんなに簡単じゃないと思うけれど」
「巫女とかどうかな? 時給もいいって」
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