125 / 327
過去~高校生編2
29
しおりを挟む-side 水野慶太-
あの後、少しだけあっちゃんと二人で教室にとどまった。
会話なんて何もなかった。
泣いてるあっちゃんの手を少しだけ握って。
あっちゃんは、すぐにその手を振り払って『ごめん』とだけ告げて教室を出て行った。
結局それからだって、前のようにあっちゃんがそばにいてくれることはなくて。
返せないままのコートが僕の部屋のクローゼットに眠る。
そして師走。
それももう中旬を過ぎて、冬休みが目前だ。
二学期が終了する日。
そして、その日は僕らの記念日。
一年だ。
玲人は覚えてるのだろうか。そう疑ってた。
でも、昨日。
「クリスマス、また俺がケーキ買うから、お前が料理作ってな?」
「……いいの?」
「何が?お前まさか、覚えてねぇ…とか?」
「覚えてる!…覚えてるよ。一年…経つんだね。でも…玲人が覚えて…」
「俺が覚えてると思わなかったって?」
「…うん。ごめんね」
「ばーか。俺はね、記憶力いいんだっつーの。……一年か、早ぇな」
「……そだね」
「その日はずっと一緒にいような?」
「うん!」
嬉しかった。
単純に嬉しかったんだ。
十の嫌な事も一つの嬉しい事で打ち消される。
もちろんその逆も然りなんだけど。
心が騒がずにはいられない。
(何作ろう。玲人の好きな中華はもちろんだよね?クリスマスだけど、関係ないよね。あと、チキンと……)
記念日まであとほんの少し。
僕が玲人の恋人になった日。
そして、玲人が僕の恋人になった日。
なんか去年のその日のことを思い出すと自然と笑いがこみ上げる。
(玲人すっごい緊張してたっけ。ぼくも泣いちゃったんだよなぁ…)
好きだと言われて泣いた僕を抱き寄せて背中をずっとなでてくれた。
また言ってくれるのかな。
好きだ、って。
期待が膨らむ。
もしかしたらこの記念日を機に、と。
今夜だって僕のバイトのあと迎えにきてくれるって言ってたし。
その後は僕の家でご飯食べて、きっと玲人は泊まってくんだろう。
何作ろうかな。
後で玲人に食べたいもの聞こう。
22
お気に入りに追加
247
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
その日君は笑った
mahiro
BL
大学で知り合った友人たちが恋人のことで泣く姿を嫌でも見ていた。
それを見ながらそんな風に感情を露に出来る程人を好きなるなんて良いなと思っていたが、まさか平凡な俺が彼らと同じようになるなんて。
最初に書いた作品「泣くなといい聞かせて」の登場人物が出てきます。
※完結いたしました。
閲覧、ブックマークを本当にありがとうございました。
拙い文章でもお付き合いいただけたこと、誠に感謝申し上げます。
今後ともよろしくお願い致します。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
彼の理想に
いちみやりょう
BL
あの人が見つめる先はいつも、優しそうに、幸せそうに笑う人だった。
人は違ってもそれだけは変わらなかった。
だから俺は、幸せそうに笑う努力をした。
優しくする努力をした。
本当はそんな人間なんかじゃないのに。
俺はあの人の恋人になりたい。
だけど、そんなことノンケのあの人に頼めないから。
心は冗談の中に隠して、少しでもあの人に近づけるようにって笑った。ずっとずっと。そうしてきた。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
紹介なんてされたくありません!
mahiro
BL
普通ならば「家族に紹介したい」と言われたら、嬉しいものなのだと思う。
けれど僕は男で目の前で平然と言ってのけたこの人物も男なわけで。
断りの言葉を言いかけた瞬間、来客を知らせるインターフォンが鳴り響き……?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる