僕は本当に幸せでした〜刹那の向こう 君と過ごした日々〜

エル

文字の大きさ
上 下
124 / 327
過去~高校生編2

28

しおりを挟む

-side 日比野敦-


いつもいつも、話しかけたかった。

同じ教室にいるのに、俺らはお互いにすごく遠くて。

他のクラスメートと笑いあう俺とは対照的に慶太はいつも一人。

ただ机の上に本を置き、それに没頭する。

いや、してるふりなのかもしれない。


気になって気になって気になって。


でも手を離したのは自分だから。

そういう負い目があり、ただ気づかれないように見つめるしかなかった。


これを恋と呼ぶのかと言われれば、そうではない。

少なくとも俺は違うと思う。

玲人はそう思わないだろうが。


友情?それとも違う気がする。

家族愛?

よく分からねぇ。

でも、大事なんだ。


たまに慶太がひとりで教室に残ってるのも知っていた。

そしてその日は決まって玲人が別のヤツと帰っていくのも。


ただ今日は、放課後の誰もいない凍えるような教室で一人ひっそりと自分を抱きしめる慶太を見て。

どうしても話しかけずにはいられなかった。

俺よりも小さくて細い身体を必死に抱え込むあいつは。

まるで自分で自分を愛してるかのようで。

自分で自分を守ってるかのようで。


気づくと自分のコートをあいつにかけていた。

それが俺であることに気づき少しだけ驚いた表情をする。


久しぶりに慶太が俺のことを『あっちゃん』と呼ぶのを聞いた。

間近で見ると、またやせたように感じる。

それが玲人の、そして俺のせいであることは分かった上で思わず聞いてしまったんだ。

「玲人はまだ続けているんだろ?」
「ちゃんと言いたいことを言ってるのか?」


それなのに慶太の答えは。

「捨てられたくない。」
「わずらわしいと思われたくない。」
「離れて欲しくない」
「離したくない」

自分の感情よりも玲人がそばにいることのほうが大事で、何も言えない慶太。


笑ってるんだけど、笑えてねぇんだよ。

お前自分でその事分かってないだろ?


それがなぜかすごく悲しくて、とても痛くて。

泣いたのは俺。


人のためだけに純粋に泣いたのなんて初めてだろう。

せめて俺がいたら。

あの時こいつの手を離さなかったら。

慶太はもっとましな笑い方ができていたかもしれない。


玲人のためだ、慶太のためだ。

そう言って離れたけど、でも本当は。

「俺のおかげで二人はやり直せる。立て直せるんだ」

完全なるエゴ。


慶太。

忘れられないよ。

俺が離れると告げた時のお前の表情が。

一緒にいたときのお前のまぶしい笑顔が。

玲人を好きだと俺に言ったお前の照れた顔が。


もう一度あれを見ることは出来ないのか?


しおりを挟む
感想 104

あなたにおすすめの小説

監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

別に、好きじゃなかった。

15
BL
好きな人が出来た。 そう先程まで恋人だった男に告げられる。 でも、でもさ。 notハピエン 短い話です。 ※pixiv様から転載してます。

僕の幸せは

春夏
BL
【完結しました】 【たくさんの方々に読んでいただけて本当に嬉しいです。ありがとうございます!】 恋人に捨てられた悠の心情。 話は別れから始まります。全編が悠の視点です。 1日2話ずつ投稿します。

【運命】に捨てられ捨てたΩ

雨宮一楼
BL
「拓海さん、ごめんなさい」 秀也は白磁の肌を青く染め、瞼に陰影をつけている。 「お前が決めたことだろう、こっちはそれに従うさ」 秀也の安堵する声を聞きたくなく、逃げるように拓海は音を立ててカップを置いた。 【運命】に翻弄された両親を持ち、【運命】なんて言葉を信じなくなった医大生の拓海。大学で入学式が行われた日、「一目惚れしました」と眉目秀麗、頭脳明晰なインテリ眼鏡風な新入生、秀也に突然告白された。 なんと、彼は有名な大病院の院長の一人息子でαだった。 右往左往ありながらも番を前提に恋人となった二人。卒業後、二人の前に、秀也の幼馴染で元婚約者であるαの女が突然現れて……。 前から拓海を狙っていた先輩は傷ついた拓海を慰め、ここぞとばかりに自分と同居することを提案する。 ※オメガバース独自解釈です。合わない人は危険です。 縦読みを推奨します。

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

見ぃつけた。

茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは… 他サイトにも公開しています

それ以上近づかないでください。

ぽぽ
BL
「誰がお前のことなんか好きになると思うの?」 地味で冴えない小鳥遊凪は、ずっと憧れていた蓮見馨に勢いで告白してしまう。 するとまさかのOK。夢みたいな日々が始まった……はずだった。 だけど、ある出来事をきっかけに二人の関係はあっけなく終わる。 過去を忘れるために転校した凪は、もう二度と馨と会うことはないと思っていた。 ところが、ひょんなことから再会してしまう。 しかも、久しぶりに会った馨はどこか様子が違っていた。 「今度は、もう離さないから」 「お願いだから、僕にもう近づかないで…」

彼の理想に

いちみやりょう
BL
あの人が見つめる先はいつも、優しそうに、幸せそうに笑う人だった。 人は違ってもそれだけは変わらなかった。 だから俺は、幸せそうに笑う努力をした。 優しくする努力をした。 本当はそんな人間なんかじゃないのに。 俺はあの人の恋人になりたい。 だけど、そんなことノンケのあの人に頼めないから。 心は冗談の中に隠して、少しでもあの人に近づけるようにって笑った。ずっとずっと。そうしてきた。

処理中です...