望鏡の魔術師アイ

山下敬雄

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第13話 鎧を解いて

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 貸し切りの中華そば屋おおたにで、魔術師アイと謎の魔術師との奇した出会い。

 暗雲は相変わらず地に落ちることのない雷鳴を轟かせている。

 襲っては来なかった……ヤツを背に、息を吐くこともなく紫の地をゆっくりと歩いていった。


 だが耳を立たせた黒兎はすぐそこまで来ていた。


「魔術師アイ……さっきの」

「ふぅ支払いは済ませた、黒兎」

 アイはそのすっかり見慣れた顔を見て漏れ出るような息を一つ出しこたえる。

「ずぶぬれ」

「ちょっとお冷やのかけ合いになってな」

「……チャーシュー、味はわたしもびみょうだった」

「はは、だな! てか寒いっ。とっとと帰ろうぜ」

 はぁー、と近づけた右手のひらに生温かい息を吹きかけ、手を揺らす。濡れた金髪を2、3撫であげていく、するとみるみるうちに乾いていき。少し元の自信有りげなでこの見える髪型へともどっていった。

 見つめる黒兎に人差しと中指で手銃をつくりおどけてみせ。

「うん、サティ呼ばないと」



 枯れ木近くで降りてきて肩に乗ったガァちゃんに熱心に餌をやっていたサティを連れて。

 魔術師アイはこのセカイの目印となっている入口出口、マジナイが刻まれて消されたフリーパスの石のモノリスに望鏡者ペンダントをかざしこの鏡界を後にした。


 腹を満たし用の無くなったセカイから出て、ミラータワー内に戻って来た。看板には【中華そば屋おおたに】CLOSEDと書かれている。その見下げる質素な看板のあるすぐ上、黒い石壁の小さな穴ぼこに鏡の欠片は浮いている。

 ミラータワー27階、人の寄り付かなさそうな暗い路地裏の行き止まりに3人はいる。

 ミラータワー内は何故か実際の建物の大きさよりやけに広い、鏡に入ったわけでもないのに何か魔術がかかっているのか鏡を用いた特殊な技術を使っているのか。俺たち望鏡者……が集めた鏡の欠片で肥えていくように。



「すみませんガァちゃんにむちゅ! ……何かおありでしたか魔術師アイ様!」

「あぁ悪ぃなんでもない、ははラミラの烏はユニークな奴等で俺も好きになってきたところだしアレンジ干し肉も毎回完食してくれてる……なんかさ。えっと、俺ってぇ今……望鏡者と魔術師どっちだ?」

 向かい合った金髪の突然のどこか真剣な問いに。

 サティと黒兎は顔をゆっくりと見合わせて。彼の瞳に向き直った。

「「Cランク望鏡パーティー紅ノ瞳アカノメ」」

「……アカノメ!? ふ、てなんで合うんだ……」

「これがいちばんどっちも、いいこたえ」

「私もそう思います、ふふ」



 何故かそんな自分でもよく分からない事を2人に答えを求めるよう問いかけてしまっていた。

 魔術学校から鏡のセカイに深入りか、その先イメージ構築する未来はあの魔術師とのたたかいなのか。

 俺には何が足りていない? あの時の合体魔法、合わせるのは味方だけじゃない……魔術師アイの可能性はまだまだあるな。

 あのハク級に何があるのかは探偵じゃないしらない。望鏡者ならば鏡も拭くし俺の道を邪魔するやつは透明人間だろうが魔術、それでもダメなら合体魔法でぶっ飛ばす。

 Cランク望鏡パーティー紅ノ瞳。追放されたからこそ今の俺には────。



▼▼▼
▽▽▽



 1日たち。Gランク以上の黒い蛙あれだけの激闘の後だ、俺は万全で大丈夫でも毎日クエストに行くなんてことはない。

 報酬はカウンターでの手続きをすっ飛ばして次のクエスト受領時にサティさんから直接いただけることになった。即金に困るというわけではない、査定にも時間がかかるのだろう助っ人代分の差し引きも含めすべてを俺より詳しい彼女に任せた。

 魔術師アイのさわやかな朝は部屋でだらっと過ぎて。

 望鏡都市ラミラに友達はいないと言ったがアレは嘘だ。今日はあるヤツとの約束がある。

 4階部屋まで名前の知らない烏が届けた便りには、日時待ち合わせと、誠意のある文章。そんな薄いのか濃いのか分からないつながり。



「頼まれたなら、行くしかないかぁ……!」



 待ち合わせ場所は都心の大きな噴水前。いつもどおりの昼にいつも通り人の賑わう場所。

 その中でも背が一際高いからすぐ分かった。

 人通りの向こうに立つ人物も探し見回していたのか魔術師アイの金髪と得意気な顔に気付き。

 少しうるさい水飛沫をバックに。

 少し伸びた黒髪をかるくととのえながら。互いに歩み寄っていく。

 髪がアツくなるほど燦々と照らすぽかぽかな太陽は何をするにも絶好日。そんな空の下で探し合ったふたりは────。

 ノーマルな表情で俺を迎えてくれたのは、懐かしの顔だ。

 少し見上げて合った黒い瞳はどこか俺と似ている。

 Iランク望鏡パーティー、天ノ瞳。

 重い鎧を解いた重騎士イガード、付き合ってくれと言われてな。
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